チェルシーの方針転換は好ましい。“買い漁る” から ”育てる” へ

FAカップに出場したバシル・ハンフリーズ

「一年目のシーズンは難しい。初顔合わせの選手やスタッフと、すぐに心が通うってわけじゃないからね」

マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が語った。稀代の名将はこうも続ける。

「グレアム・ポッターがすぐれた監督だってことは、近年のブライトンを見れば一目瞭然だ」

「オーナーのトッド・ボーリーはプレッシャーをかけず、ある程度の時間をポッターに与えてほしい。わたしが時間を必要としなかったのは、監督に就任した当時のバルセロナにリオネル・メッシがいたからだよ」

ローマは一日にして成らずの格言どおり、強固な組織を築くには時間が必要だ。しかも、チェルシーのようなビッグクラブは好奇の視線にさらされ、チーム創りはなおさら難しい。メッシは1000年にひとりの逸材だ。

今シーズンのチェルシーは精彩を欠き、FAカップとリーグカップはすでに敗退。プレミアリーグも1月5日現在で、降格圏と10ポイントしか離れていない。

マンチェスター・シティに0－4で敗れたFAカップ3回戦では、ロマン・アブラモヴィッチとトマス・トゥヘルを懐かしむチャントまで聞こえきた。サポーターに前オーナーと前監督の名前を叫ばれたのだから、ボーリーとポッターも心穏やかではない。

それにしても、異例が過ぎるシーズンだ。いったい、何人の主力がケガで倒れたのか。リース・ジェイムズ、ベン・チルウェル、ウェズレイ・フォファナ、エンゴロ・カンテ、アルマンド・ブロヤ、エドゥアール・メンディ、ルベン・ロフタス＝チーク、ラヒム・スターリング、クリスティアン・プリシッチ……。つねにコンディションを維持し、サポーターの期待に応えているのは38歳のチアゴ・シウバただひとり、という有り様だ。

また、シーズン途中の就任で、ワールドカップの中断も重なった。グアルディオラが指摘したような時間は与えられていない。

だが、幸いなことにチェルシーには有望な若者が揃っている。バシル・ハンフリーズ（19歳）は188センチの長身で、足もとの技術と機動力にすぐれるセンターバックだ、ルイス・ホール（18歳）は強靭なフィジカルを持つ左ウイングバックだ。クレバーな状況判断に加え、推進力にあふれるカーニー・チュクウェメカ（19歳）はボックス・トゥ・ボックス型の中盤センターだ。

さらに、決定力が高く評価される20歳のダトロ・フォファナ、プレー強度が高い左利きのCBブノワ・バティアシルは21歳で、ブラジル・アンダー20代表歴を持つ18歳のMFアンドレイ・サントスを今冬の移籍市場で獲得した。

そしてジョアン・フェリックスが、アトレティコ・マドリーからやって来た。半年間のローン代金として1100万ユーロ（約15億4000万円）、週給28万ポンド（約4480万円）の全額負担には首を傾げるしかないとはいえ、彼もまだ23歳。若返り策の一環だろう。

実績、知名度とも十分な既製品を重視するプラン（J・フェリックスは除く）を、チェルシーは変更した。10代後半から20代前半の若手に集中した人選は明らかに先行投資を意味し、中長期的な展望に基づくものと推測できる。ボーリーとポッターのもと、チーム創りの根幹が見直されたのかもしれない。

アーセナルを例に挙げれば、2019年12月にミケル・アルテタが監督に就任した後の2シーズンは8位だったが、一昨シーズンは5位、今シーズンは1月5日現在で1位と、組織の構築には時間がかかることを証明し、指揮官が抜擢した若手は日々成長している。

いま、チェルシーは厳しい日々を過ごしているものの、産みの苦しみと前向きに捉えよう。ハンフリーズをはじめとする若手の才能が花開いたときは、ワクワク・ドキドキの毎日だ。

“買い漁る” から “育てる“ へ──。チェルシーの方向転換は好ましい。

文：粕谷秀樹