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ジェイドン・サンチョは輝きを取り戻せるか
一体感が伝わってくる──。
アルゼンチンの旗印は “リオネル・メッシのために” である。カタール・ワールドカップを最後に代表チームから退く唯一無二のスーパースターに世界王座を捧ぐ。ロドリゴ・デポル、エンソ・フェルナンデス、レアンドロ・パレデスをはじめ、少年時代からメッシに憧れつづけた選手たちの敢闘は凄まじいばかりだ。
“志半ばで倒れた同僚のために”。フランスの考え方も一致している。カリム・ベンゼマ、ポール・ポグバ、エンゴロ・カンテなど、負傷のためにカタール大会を棒に振った主力にワールドカップを、というモチベーションがひしひしと感じられる。
また、日本代表の一体感もJFA公式サイト『Team Cam』で存分に味わえる。世知辛くなる一方の現代でも、心と心の結びつきを軽視してはならない。
さて、世が世なれば、ジェイドン・サンチョはイングランド代表として、カタールの地に立っていた。アンダー17から異彩を放ち、「いずれはイングランド不動のエースに」と、将来を嘱望されていた。
2017年8月、マンチェスター・シティのユースチームからドルトムントに移籍。ブンデスリーガの荒波にもまれて一段と成長したあと、マンチェスター・ユナイテッドに新天地を求めたのは21年夏のことだった。移籍金は7300万ポンド。当時のレートで約109億5000万円という巨額である。
タイミングを誤ったのかもしれない。当時のユナイテッドは長く続く混乱期の真っただ中であり、ロッカールームには一体感の欠片もなかった。周囲をうならせる好パフォーマンスは単発で、試合内容はシティやリヴァプールと比べるべくもない。
いつしかサンチョも精彩を欠いていった。流動性を重視するラルフ・ラングニック前暫定監督、エリク・テンハフ現監督ならサンチョは復調すると期待されたが、体調不良も影響してベンチにすら入れなくなった。現時点の序列は右ウイング、センターフォワード、左ウイングでも三番手以下だ。
「フィジカルとメンタルの問題が複雑に重なっている。いつ復帰できるのか、見当もつかない」
サンチョの現状を語るテンハフ監督の表情も曇っていた。
ユナイテッドではアントニーが、アレハンドロ・ガルナチョがサポーターから熱く支持されている。イングランド代表ではブカヨ・サカとマーカス・ラシュフォードが、ベスト8進出に貢献。彼ら二名はEURO2020におけるPK失敗を糧に、さらに大きく飛躍した。同じ境遇のサンチョも、忸怩たる思いはあるはずだ。
まだ22歳。老け込む齢どころか、まだまだキャリアは続いていく。幸い、ユナイテッドにはカゼミロ、クリスチャン・エリクセン、ブルーノ・フェルナンデスなど、若手を助けられる男が揃っている。
サンチョは一度、胸の奥に詰まっている感情を解放した方がいい。この男にはサポートが必要だ。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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