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マジョルカの新監督に就任したアギーレ
マジョルカの新監督ハビエル・アギーレのスペインでの評判と言えば「偉大なモチベーター」というものだ。会見やインタビューでは物静かだが、グラウンド内ではガラッと変わっての激しい気性で知られる。
10−11シーズンのサラゴサ、12−13のエスパニョール、19−20レガネスと降格圏に沈んでいたチームに途中就任し前二者を残留させ、後者を昇格まで1ポイントというところまで盛り返した。下降線のチームを建て直すために要求するのは、自ら同様の「激しさ」。心身の強靭さである。チームを最後に救うのは「根性」とか「フィジカル的な強さ」だと考えているのだ。うつむいて選手たちを“俺について来れば残留できる”と叱咤激励している様が想像できる。
戦術面では最初に守備をテコ入れしたのもセオリー通りである。5バックで守備を固めることで、最低でも引き分けの1ポイント、1点取れば勝てる状態にしておく。
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残留するか否かは、「生きるか死ぬか」である。大袈裟な表現ではない。なにせ降格すれば売上高が4分の1ほどに激減するのだ。お楽しみは終わった。美しく勝利することは、はなからマジョルカは目指していなかっただろうが、ここからは結果がすべて。どんなに内容が酷くても勝てばよい、となる。
就任初采配、ヘタフェ戦のサッカーはエンターテイメントとしては最低のものだった。5バックで守って2トップへロングボールを放り込む。2トップはほとんどボールを確保できなかった。が、ボールロストが前の方、自らのゴールから遠いところで起きている限りは失点はしない。あれは果たしてロングパスなのか、クリアなのか? どっちでも同じことだ。
それでも、80分過ぎのゴールで敗れたことで、あのやり方では不十分であることがわかった。で、アトレティコ・マドリー戦ではまったくやり方を変えてきた。1試合で見極めて対応してくるところはさすが残留請負人である。
並びは[5−3−2]と同じだが、機能性が違った。
前節ではローブロックを敷き、早目に後退してペナルティエリアに接するように壁を作ったが、今節は最終ラインを十数メートル上げたミドルブロックを敷き、それを維持しようとした。具体的には、まずプレスを掛けてかわされた場合のみ後退するようにした。
それによってボール回復ポイントが前になり、2トップとそれ以下との間にあった膨大なスペースをアバウトなロングボールで埋める必要がなくなり、グラウンダーのクサビを入れることが可能になってボールの収まりが良くなった。そこから、リターンを3人のMF(左からダニ・ロドリゲス、ババ、サンチェス)が、拾い追い越して行く両サイドに展開する、なとのコンビネーションもできるようになった。
こう書いていると良いことばかりで、なぜアギーレは初戦からこうしなかったのか、と疑問に思うかもしれないが、ラインを上げれば裏にスペースができ失点の危険性も大きくなる。前節はライージョもバルジェントも不在で、守備的MFのババがCBを務める非常事態だったので、より保守的なローブロックを選択したのだろうと思う。
この新戦術に相応しい構成として、2トップはFW+FWではなくなり、FW+攻撃的MFとなった。初戦はムリキ+フェル・ニーニョ(アンヘル)だったが、この試合ではムリキ+イ・ガンイン(久保)となった。ここに攻撃的MFを置くことで[4−5−1]への変化も可能になった。敵陣での相手ボール出しにまず2トップでプレスを掛け、その流れで右サイドに入ってMFの3人がずれて中盤を4人で守る方に形に移行する。これは相手がどちらのサイドから前進しても同じ。こちらの右サイドから入って来たら、イ・ガンインは大急ぎで下がる必要があり、左サイドから入って来たらダニ・ロドリゲスが迎えに出る間に、少し余裕を持って下がれる。
このセカンドトップを任された攻撃的MFの先発はイ・ガンインだった。なぜ久保ではなかったのか? 多分、新監督好みの強度とか馬力とかでイ・ガンインが選ばれたのだと思う。彼はムリキと一緒に密集にも入っていた(苦戦していたが)。
久保は密集向きではない。密集の外で使おうとすると、流れの中でダニ・ロドリゲスがムリキの横に上がる、というような一工夫が必要になる。久保をなるべく長く見たいということなら先発だが、密集で苦労しているところを見てもしょうがない。ファイトのあるイ・ガンインが先発、彼にバトルしてもらい後半守備の強度が下がってきたところでテクニシャンの久保にバトンタッチ、というパターンがベストかもしれない。
アトレティコ・マドリーから見事勝ち点3を奪ったことでもあるし、次節の残留争いの決戦、エルチェ戦でも先発イ・ガンイン、交代要員として久保という形を継続するのではないか。
あと、久保の使いどころとして2列目のMFの一角という手は無いように思う。5バックのこの形ではサイドは完全にウインガー兼SBのものとなる。となると、3人のMFは3ボランチ的に真ん中に窮屈に集まることになり、久保の特徴が生きない。
つまり、久保は攻撃的MFイ・ガンイン、FWアンヘル、フェル・ニーニョとセカンドトップの1枠を争うことになる。
久保の大活躍はご存知の通り。セカンドトップの位置からだと、自由を与えられれば右サイドの時よりも動けるスペースは大きいし、背中はがっちり3人のMFと5人のDFにカバーされていて下がる必要はない。当面、アギーレ政権下のベストパフォーマンスとしてアトレティコ・マドリー戦をモデルにしたスタイルにチームはなるのだろうし、その中で久保もファンからすれば短時間だが、クオリティの高い輝きを見せるのではないか。
文:木村浩嗣
木村浩嗣
編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。
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