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アラン・サン=マクシマン
サウジアラビアの『パブリック・インヴェストメント・ファンド』(PIF)は、総資産3000億ポンド(約46兆円)と伝えられている。彼らを軸とするコソシーシアム(共同事業体)に買収されたニューカッスルは、今後の移籍市場で脅威となる可能性は小さくないはずだ。
ただ、チェルシーがロマン・アブラモヴィッチに買い取られたときとは事情が大きく異なる。
ロシア人の実業家がオーナーに就任した2003年、チェルシーはある程度の戦力が整っていた。ジョン・テリー、クロード・マケレレ、マルセル・デサイー、ウィリアム・ギャラス、フランク・ランパード、ジミー・フロイド・ハッセルバインクなど、なかなか豪華なメンバーだ。
そして翌年、ペトル・ツェフ、リカルド・カルバーリョ、パウロ・フェレイラ、アリエン・ロッベン、ディディエ・ドログバが加わり、さらにジョゼ・モウリーニョ監督をFCポルトから引き抜いたのだから、プレミアリーグ優勝は自明の理といって差し支えない。
また、首都ロンドンのきらびやかなムードも、成功の要素のひとつだ。生活環境は地方都市の比ではない。
さて、近ごろのニューカッスルは苦しい布陣で闘いつづけている。トップ10のクラブが興味を示すタレントは、ジャマル・ルイス、アラン・サン=マクシマン、ジョセフ・ウィロックの3人だけだろう。
しかも、ロンドンに比べると生活環境で劣り、ファイナンシャル・フェアプレーという縛りまで存在する。アブラモヴィッチがチェルシーにやってきたとき、カネは無制限に使えた。
したがってニューカッスルが、短期間で劇的に強くなる公算は極めて小さい。莫大な資金力が効果を発揮するまでには時間がかかるため、チェルシー方式は参考にならない。むしろ、マンチェスター・シティを学ぶべきだ。
『アブダビ・ユナイテッド・グループ』が買収した08年からの3年間、シティはサポーターが歓喜し、メディアが飛びつくような補強はできなかった。
しかし、10年にダビド・シルバとヤヤ・トゥレを獲得して前年の5位から3位にジャンプすると、翌年はセルヒオ・アグエロ、ガエル・クリシー、サミ・ナスリなどの補強が奏功し、見事にリーグを制している。
あのシティですら優勝するまでに4年もかかったのだ。ニューカッスルの現状を踏まえると、“とりあえず” は6~7年をひとつのサイクルに設定し、落ち着いて強化に取りくまなくてはならない。
いま、上層部は新監督を物色中だ。パブロ・フォンセカ(前ASローマ監督)最有力との情報が飛び交ってから、1週間以上が経過した。焦る必要はない。戦略・戦術に明るく、コミュニケーション能力にすぐれた指導者を、時間をかけて探し当てればいい。監督も新戦力も、吟味に吟味を重ねるべきだ。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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