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川崎らしいプレーとは何か……。
たとえば「プレーのキャンセル」。パスを出そうとした瞬間、相手のDFが反応してパスコースを切られたり、パスの受け手がマークを受けた時には、すぐにパスという選択を切り替えて次の選択に移る。この判断力が川崎のあの正確なパスワークを支えている。
だが、まさにキックするその瞬間にパスという選択をキャンセルして、次のプレーに移ることはそれほど易しいことではない。橘田のようなスピードの中でプレーする選手にとってはさらに難しいだろう。だが、橘田は千葉戦でも「キャンセル」を簡単に行っていた。
あるいは、体の向きとは逆の角度でのパス出し。たとえば、前半の10分頃、バイタルエリアに進入した橘田が左の家長からのパスを受けた瞬間、橘田の体は開いており、右サイドのスペースにパスを送るのが“順”の選択だった。だが、橘田は体の向きはそのままで左斜め方向の脇坂に意表を突いたワンタッチパスを出したのだ(脇坂がさらにレナンドロ・ダミアンはたいたが、ダミアンのシュートはゴールポスト左に外れた)。さらに、中盤で相手のミスでこぼれてきたボールを拾った瞬間に前線のフリーになっていた選手に鋭いパスを送る(田中碧が得意だった)プレーも橘田はこなしていた。
川崎というチームの素晴らしいところは、非常に技巧的で難しいプレーをしているのに、新しく加入してきた選手が容易にチームに溶け込んでいくことだ。
かつて、守田英正が最初に川崎の選手として登場してきた時、「守備力はありそうだが、川崎のパスサッカーをこなしていけるのだろうか?」と疑問に思ったものだが、守田はたちまち川崎の主力となり、日本代表に招集され、そして海外に飛び立っていった。山根視来も昨シーズンに加入して早々に右サイドバックとして定着し、サイドハーフの家長とのコンビネーションを確立。まさに「なくてはならない」選手として活躍している。
千葉戦を見ると、橘田も完全に川崎のサッカーにはまっていた。
だが、この日の橘田の出来を見ても、あるいはこのところボランチとして活躍している谷口彰悟やどこのポジションでもこなせる山村和也も出場機会を増やしており、川崎の強さは盤石のように見える。途中出場して、延長前半に筋肉系のトラブルを起こして担架に乗せられてピッチを後にした大島の状態が心配ではあるが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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