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ウクライナ戦でゴールを決めたケイン
ウクライナDFオレクサンドル・カラヴァエフのヘディングクリアを、その男はダイレクトで叩いた。GKゲオルギー・ブシュチャンに阻まれたとはいえ、凄まじい一撃だった。
「よし、もう大丈夫だ」
本人も手ごたえを感じ取ったのではないだろうか。
ハリー・ケインである。
EURO20のグループステージは動きが重く、ゴールよりもビルドアップやアシストを意識したようなプレーに終始していた。
2ゴールを挙げたウクライナ戦終了後、大会全体を見通したスロー調整なる見解も目にしたが、EUROやワールドカップ、コパ・アメリカのようなビッグトーナメントでは、主力のコンディションが代表チームの結果に直結する。ケインはイングランドにとって、唯一無二のスーパーゴールゲッターだ。
彼の不調がクローズアップされたのは当然であり、大会全体を見通したスロー調整は後付けの感が強い。実際、イングランド代表として多くの修羅場を潜り抜けてきたアラン・シアラー、ガリー・ネヴィル、リオ・ファーディナンドといった面々も、グループステージではケインのパフォーマンスを不安視していた。
さて、復調の確信がウクライナ戦のボレーならば、きっかけはドイツ戦でのヘディングだろう。86分、左サイドからジャック・グリーリッシュが正確なクロス。ゴール前でドイツDFマティアス・ギンターから離れてフリーになっていたケインは丁寧、かつ強烈に合わせた。
1点を取るとストライカーはがらりと変わるといわれるように、ケインもこのゴールによって積極性が戻ってきた。ウクライナ戦でも積極的な飛び出しで先制点を決めている。ラヒム・スターリングからパスが来ると信じて動き出したからこその1点だった。
冒頭に挙げたスーパーボレーも、クリアの落ち際を察知していたかのようにポジションを修正していた。まさに “嗅覚” である。グループステージのケインからは想像できない動きだった。
ケインの復調に伴い、イングランド国内はヨーロッパ制覇の期待が日増しに高まっている。準決勝の相手は、病に倒れた「クリスティアン・エリクセンのために」という特別なモチベーションが強みのデンマークだ。決勝はスピーディーなアタックが持ち味のイタリアだ。彼らもまた、ヨーロッパ制覇の野望に燃えている。
ただ、ケインの復調でイングランドは自信を深めた。代表チームでの大舞台は初となるグリーリッシュ、メイソン・マウント、フィル・フォーデン、ブカヨ・サカ、デクラン・ライス、カルヴィン・フィリップスが揃って好調を維持している。ウクライナ戦で先発したジェイドン・サンチョも、柔軟なドリブルで戦力になることをアピールした。そして、いまだに1点も取られていない堅守も好材料である。
準決勝からはウェンブリーが舞台になる。地元の大声援も味方につけ、イングランドは7月7日(現地時間)のデンマーク戦に臨む。ヨーロッパのテッペンまで、あと2勝だ。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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