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マガイアに指示するピックフォード
4試合で3ゴールとはいえ、ラヒム・スターリングを「絶好調」とは表現できない。試合から消える時間が少なくなく、ドリブルの切れ味もイマイチだ。マンチェスター・シティでジョゼップ・グアルディオラの高度なフットボールを吸収した男は、まだ実力の半分も出していない。
ハリー・ケインも動きが重い。ラウンド16のドイツ戦でとどめの1点を決めたものの、シュートよりもビルドアップ、ポストワークに重きを置いている印象があり、ゴールゲッターらしい迫力は失せている。彼もまた、及第点にはほど遠い。
それでもイングランドは、EURO20でベスト8に進出した。4試合で無失点。DFラインのカイル・ウォーカー、ジョン・ストーンズ、ハリー・マガイアが安定し、ルーク・ショーは2020―21シーズンの好調を維持している。
さらに、タイロン・ミングスはマガイアが負傷欠場したグループステージ2試合を無難にこなしただけでなく、キーラン・トリッピアは両サイドでガレス・サウスゲイト監督の期待に応えた。
さて、ジョーダン・ピックフォードである。
「頼むから落ち着いてくれ」
心からそう思う。情熱にあふれるといえば聞こえはいいが、彼の場合は熱すぎる。ひとつ間違うと「ウゼェな、こいつ」と誤解される。同僚の些細なミスも許さず、喝を入れるというか、激昂するというか……。
ドイツ戦でもミスパスを犯し、トマス・ミュラーにチャンスを与えるような形になったスターリングを、激しすぎるほどに叱責していた。
EUROのようなビッグトーナメントは凄まじいプレッシャーがかかり、ラウンド16以降は尋常ではないレベルの精神状態に追い込まれる。一人ひとりがクールに対応しないかぎり、上位進出は難しい。
いま、世界水準とされるGKはアリソンとエデルソン(ともにブラジル)、マヌエル・ノイアー(ドイツ)、ジャンルイジ・ドンナルンマ(イタリア)、ヤン・オブラク(スロベニア)など、冷静沈着なタイプばかりだ。同僚が失敗しても激しくは責めない。
かつてのイングランドを支えたゴードン・バンクス、ピーター・シルトン、レイ・クレメンスもクールなGKだった。イケル・カシージャス(スペイン)、ジャンルイジ・ブッフォンやディノ・ゾフ(イタリア)といった歴代の名手たちも、つねに平常心を保っていた。
熱いGKは西ドイツ(現ドイツ)のハラルト・シューマッハー、デンマークのペーター・シュマイケル(デンマーク)などに限られるのではないだろうか。シュマイケルの息子であるカスパーも闘志を内に秘め、EUROのデンマーク代表GKとして好守を見せている。
いまのところピックフォードは、致命的なエラーを犯していない。芯を食っていないキックは散見されるが、ピンチを招くまでには至っていない。しかしGKは、もっと冷静であるべきだ。むやみやたらと声を荒げてはいけない。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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