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アントニー・マルシャル
ラファエル・バランヌ、プレスネル・キンペンベ、クレマン・ラングレ、ジュル・クンデ、クルト・ズマ……。いやはや、EURO20に参戦するフランス代表のセンターバックは驚異的な顔ぶれだ。「いずれは世界最高のCBになる」と各方面が絶賛するダヨ・ウパメカノが、26人の枠から漏れるほどのハイレベルだ。
さて、EURO20とコパ・アメリカの動向を、各クラブの監督は冷や冷やしながら見守っているに違いない。
「活躍してほしいが、無理だけはしてくれるな」
各選手のエージェントは携帯の電源をオフにせず、留守電モードにもしていない。
「顧客によりよい条件が届くのなら、寝てなんかいられるか」
ただ、負傷で戦線を離脱している選手は蚊帳の外である。新シーズンの開幕に向けて、孤独なリハビリを続けなくてはならない。
マンチェスター・ユナイテッドのアントニー・マルシャルもそのひとりだ。腰や膝の負傷により、20-21シーズンはわずか4ゴール。19-20シーズンからマイナス13の大幅ダウンである。調子が悪くても辛抱強く使い続け、「いずれはクリスチャーノ・ロナウドに匹敵するアタッカーになるはずの逸材」と期待していたオーレ・グンナー・スールシャール監督を、完全に裏切った。そして……。
「プロとしての振る舞いではない」
スールシャールのマルシャル批判が、あちらこちらから聞こえてくる。練習態度やメディア対応などを何回か注意したにもかかわらず、マルシャルは聞く耳を持たなかったという。まさしく、親の心子知らず。そしてスールシャールがマルシャルを放出する決断に至った、との情報まで飛び交いはじめている。
いま、ユナイテッドはドルトムントのジェイドン・サンチョと交渉中だ。選手、エージェントとは個人合意に至り、あとは移籍金をめぐるドルトムントとの駆け引きだけが残されている。双方の提示額は現時点で約16億5000万円もの開きがあるとはいえ、サンチョとドルトムントの契約は残り一年。ビジネスとしては今夏が売りどきだ。
さて、サンチョがユナイテッドに加入すると仮定しよう。マルシャルの優先順位は大きく下がる。マーカス・ラシュフォード、エディンソン・カバーニ、メイソン・グリーンウッドを上まわれない。20―21シーズンの終盤にはポール・ポグバが二列目の左サイドでエンジョイした。この男とマルシャルの才能を比較した場合、答は明らかだ。しかもポグバの心が、移籍から残留に傾いている。
こうした事情を踏まえれば、マルシャルは構想外の烙印を押されても不思議ではない。守備意識も低く、パスが少しズレただけでも反応せず、あからさまに不貞腐れる。からだを張りたがらない。
15―16シーズン、ASモナコからユナイテッドに加入した後、好不調の波に翻弄されながら6年を過ごした。プレッシャーに強い方でもない。それでも、まだ25歳。マルシャルは、新しい環境で再チャレンジすべきだ。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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