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解任されたフランク・ランパード監督
「彼は私のキャリアにおいて最も重要な選手のひとりだ。彼に起きた出来事は悲しく、残念というしかない」
「しかし、これもまたフットボールなのだ。残酷とはいえ、フットボールの世界ではつねに起こりうることだ。監督とは、つねに重大な覚悟を決めて務めるべきポストであり、私だってどうなるのか、だれもあずかり知らないところだ」
フランク・ランパード解任を受け、トッテナムのジョゼ・モウリーニョ監督が厳しい表情で語っていた。
両者はチェルシーを熟知している。オーナーのロマン・アブラモヴィッチが、人事担当のマリアナ・グラノフスカヤがどんな人間であるか、骨の髄まで身に染みている。人事は拙速、短絡的。監督と選手の間に溝が生じると、仲介にも入らず監督を解雇してきた。チーム創りの計画性が絶望的に乏しい。
今回の一件も、記者会見で現有勢力を嘆いたり、レスター戦でなにもできなかったり、ランパードに責任の一端があるとはいえ、シーズン半ばの解雇は早すぎる。メイソン・マウントや、ビリー・ギルモア、リース・ジェイムズといった生え抜きの若手を抜擢したのは、ほかならぬランパードだったではないか。
レジェンドによって目覚めかけていたチェルシーならではのアイデンティティを、上層部はあっさりと握り潰した。
さて、後任はトーマス・トゥヘルである。昨年12月、パリ・サンジェルマンを解雇されたばかりだが、およそ一か月で華の都からロンドンへ着任するとは、コロナ禍でもラッキーな人間はいるものだ。
しかし、彼はマインツとドルトムント、さらにパリSGでもトラブルを引き起こしてきた。敵を作りやすく、物申すタイプだけに、チェルシーには不向きと考えられてきた。モウリーニョとアントニオ・コンテ(現インテル・ミラノ監督)も、グラノフスカヤに意見して退陣に追い込まれている。
しかもチェルシーの監督は、アヴラモヴィッチのもとで任期をまっとうしていない。近年ではモウリーニョの2年半が最長だ。コンテは2年、マウリツィオ・サッリ(現フリーランス)は1年で、まずまずの成果を出しながらも解任されている。このクラブの監督になるのなら、トゥヘルは腹をくくらなくてはならない。結果が伴わなければ即刻クビだ。
また、ランパードのもとで不遇をかこった者にも注意すべきだろう。センターバックの序列が下がったアントニオ・リュディガーは、言葉の端々からランパードに対する不満が感じられた。セサル・アスピリクエタとの衝突も、再三にわたって伝えられている。トゥヘルとなら同じドイツ語で分かりあえる。
邪推ではあるが、チェルシーは派閥抗争が絶え間なく続くクラブだ。アヴラモヴィッチとグラノフスカヤは堪え性がなく、フットボールの難しさを理解しようともしていない。半年後、トゥヘルの後任が取り沙汰されたとしても、驚きはしない。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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