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ポール・ポグバ
荒れている、荒れている。SNSに怒りが充満している。
「シーズンを通して貢献したことがあるのか」
「さっさと出ていきやがれ」
「要らない。絶対に要らない」
「ついに退団してくれるってか」
「まだ居たのかい?」
「どこが買い取ってくれるっていうんだよ」
発端はミーノ・ライオラの発言だった。あるときは敏腕、またあるときは強欲な太っちょに姿を変えるエージェントは、チャンピオンズリーグのグループステージ最終節を前にこう言った。
「マンチェスター・ユナイテッドとポール・ポグバの関係はすでに終わっている。現行の契約が切れる2022年6月を待たず、早ければ来年1月にでも移籍することが双方にとって幸福だ」
顧客の現状を憂えた発言なのかもしれない。ポグバは度重なる故障と新型コロナウィルスの陽性反応で、本来のパフォーマンスにはほど遠いからだ。
しかし、タイミングが悪すぎた。決勝トーナメント進出がかかったライプツィヒ戦の直前にポグバの退団を示唆したのだから、周囲の怒りを買うのは当然だ。
しかも、ライオラとユナイテッドは相性が悪い。とくにオーレ・グンナー・スールシャールが監督に就任した後は、メディアを通じてお互いを罵り合ってきた。「あの男(ライオラ)にかまうだけ時間の無駄」と、今回の一件でもスールシャールは嫌悪感を露わにしている。本来は間に立つべきエドワード・ウッドワード全権副社長も、火中の栗は拾わないタイプだ。
したがってライオラが指摘したとおり、来年1月の移籍は最善の解決策かもしれないが、コロナ禍で世界中のクラブが疲弊している。ポグバが「憧れのクラブ」と公言したレアル・マドリーは、ご多分に漏れず大幅な減収を余儀なくされた。古巣ユベントスはローン移籍しか策がなく、一銭の得にもならないユナイテッドはオファーが届いても断固として拒否する構えだ。
夏に続き、冬の市場も縮小傾向にあることは周知の事実である。補強したくても資金がない。出場機会を求めて移籍を希望する選手の受け入れ先が見つからない。現有勢力を削ったり、選手に給与カットを求めたり、クラブの財政は火の車だ。
ポグバの推定市場価格は5000万ポンド(約69億円)、週給は29万ポンド(約4000万円)といわれている。市場が活発に動いていたとしても支払えるクラブは限られるというのに、なぜライオラはユナイテッドを刺激したのだろうか。
だれもが認める特大のポテンシャルも、長きにわたって眠ったままだ。この先、コンディションが急速に整うとは考えづらい。前述したように市場の動きは低調だ。ライオラの不適切な発言で、ポグバに対する風当たりはさらに強くなった。プラス材料は1ミクロンも見当たらない。
ブルーノ・フェルナンデスほどには違いを創れない。フレッジのように守れるわけでもない。ユナイテッド復帰後5シーズンのデータ(プレミアリーグ)は、116試合出場・26ゴール・26アシスト。今週末のマンチェスター・ダービーも、先発から外れる公算が大きい。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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