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トロフィーの前で微笑むジダン監督とセルヒオ・ラモス
この夏、レアル・マドリーは不気味なほど静かだった。
ハメス・ロドリゲスがエヴァートンへ、セルヒオ・レギロンはトッテナムに、ダニ・セバージョスはアーセナルに新天地を求めた。ガレス・ベイルも古巣トッテナムに復帰し、アルフォンス・アレオラはパリ・サンジェルマンにローンバックした後、フラムのユニフォームに袖を通している。ビジャレアルにローン移籍した久保建英も含め、実に18選手を手放す格好だ。
しかし、補強はしていない。夏の市場を静観したのは、1980年以来40年ぶりの珍事である。
裕福なマドリーをもってしてもコロナ禍の対応は難しい。無観客開催による収入減で、約2億ユーロ(約250億円)の損失を招くといわれている。こうしたダメージを少しでも軽減するために、ハメスやベイルのような高給取りを手放したのだろう。
来年夏、完全復活の切り札としてキリアン・ムバッペ(パリSG)の獲得を目論んでいるため、今年は無理をしないということだ。スペインの有力紙『MARCA』紙は、「今夏の移籍市場で1100万ユーロ(約137億5000万円)の収入があり、9000万ユーロ(約112億5000万円)の給与削減にも成功した」と報じている。前述した2億ユーロの損失をカバーできる計算だ。
社会情勢を踏まえれば、フロレンティーノ・ペレス会長をはじめとする経営陣の方針は極めて妥当ではある。
ただ、サポーターは分かってくれるだろうか。現有勢力のレベルは確かに高いが、年齢層がまた高くなった。未来の希望はロドリゴとヴィニシウス・ジュニオールだけだ。ムバッペとはいわないまでも、ひとりやふたりの新戦力は欲しかった。レアル・ソシエダから復帰したマルティン・ウーデゴーだけでは物足りない。
しかもアトレティコ・マドリーが9200万ユーロ(約115億円)、バルセロナも1億2400万ユーロ(約155億円)を市場に注いでいるため、マドリーが補強を見送るとは意外だった。。
チェルシーが2億2610万ポンド(約310億円)、マンチェスター・シティが1億4700万ポンド(約201億円)、さらにアストンヴィラやリーズですら8500万ポンド(約116億円)前後を投下したプレミアリーグに比べると、マドリーをはじめとするラ・リーガは市場で守りに徹した。
移籍金の総支出額は前年比65%減の4億980万ユーロ(約512億2500万円)。プレミアリーグはコロナ禍でも12億4000万ポンド(約1690億円)を費やしている。
繰り返すが、社会情勢を踏まえれば当然の選択だ。もちろん、各クラブのサポーターも実状は理解している。しかし、どこかで夢も見たくなる。かつての “ロス・ギャラクティコス” を知る者は、一抹の寂しさを感じているに違いない。
「少しくらいカネ使ってくれよ」
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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