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ニューカッスルの買収は今度こそ実現するようだ──。
現オーナーのマイク・アシュリーは、好条件の買収を三度にわたって断ってきた。1ポンドでも多く、退陣後もクラブの重職に留まるなど、彼の要求がビジネスの障害になってきた。当然、サポーターの心証はよろしくない。アシュリーが本拠セントジェームズ・パークに姿を見せると、痛烈なブーイングをこれでもかとばかりに浴びせていた。しかし、今回は最終局面を迎えている。買収額3億5000万ポンド(約483億円)で合意に至り、アシュリーが契約書にサインすることはほぼ間違いない、と伝えられている。
新オーナーはシェイク・ハレド・ザイード・アル・ナハヤンだ。マンチェスター・シティを牛耳るシェイク・マンスール・ザイード・アル・ナハヤンの従兄弟である。したがってニューカッスルのサポーターは、「巨額の投資で強くなるぞ」と確信しているようだ。
ただ、シティは今日の地位を築くまで10年近くを要した。『アブダビ・ユナイテッド・グループ』が買収した2009年は夏の市場に200億円を投じたが、獲得できたのはジュリアン・レスコット、シウビーニョ、コロ・トゥレ、ガレス・バリー、ロケ・サンタクルス……。サポーターが期待した大物はひとりもいない。唯一のワールドクラスはカルロス・テベスで、彼の場合もマンチェスター・ユナイテッドが保有権の買い取りを渋った結果の移籍である。当時のシティは、業界で認められる存在ではなかった。
10年にダビド・シルバ、続く11年にはセルヒオ・アグエロを補強したとはいえ、プレミアリーグ内のステイタスとしてはユナイテッド、チェルシー、アーセナルをしのげず、ブランドイメージでもリヴァプールを上まわってはいなかった。シティが業界に認められたのは、名将ジョゼップ・グアルディオラ着任以降である。新オーナー就任→即優勝は100%ありえない。
しかもニューカッスルは、地理的な条件もネックになる。北部イングランドは寒く、冬も長い。だれもがうなずく観光スポットもない。太陽を愛する南米の選手たちには適さない環境だ。ニューカッスルという町に馴染めなかったご家族が、「故郷に帰る」「なにかと便利なロンドンに移籍して」と不都合を訴える。選手がピッチに集中できない、負の連鎖である。
新オーナーの財力でも南米の一流どころは集められず、クラブの実績を踏まえると、移籍市場でアドバンテージも得ることも難しい。知名度のある選手を獲得できたとしたら、前チェルシーのガリー・ケイヒル、前ユナイテッドのアントニオ・バレンシアなど、今シーズン限りで構想外となったベテランだろう。
そしてもっとも気にかけるべきは……。
アシュリーの心変わりだ。土壇場で翻意したケースは何度もある。この男、信用できるタイプではない。
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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