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フアン・マタはこう言った。
「ホームで最終節に負けるなんて、バッドエンド以外のなにものでもない。今シーズンは想い出に残るような試合もあったけれど、後味が悪すぎるよ。だれもが責任を痛感し、マンチェスター・ユナイテッドが本来あるべき姿ではないってことを、胸に刻まなければならないんだ」
彼は愚痴をこぼさない。なにが起きても前向きだ。シーズンの終了にあたり、「辛い時期を支えてくれたサポーターのみんなには心から感謝しているよ。君たちがいなければ、フットボールは無意味なんだ」と、気配りも忘れていない。だからこそサポーターにも愛される。それに引き換え……。
「フットボールに関わっている者なら、だれもがレアル・マドリーに憧れる。もちろん、いまはユナイテッドで満足しているよ」(ポール・ポグバ)
「小さなころからセリエAは憧れだった。遅かれ早かれ、イタリアでプレーする日は必ずやって来ると思うよ」(ロメル・ルカク)
サポーターにすれば「ふざけんじゃねえぞ」である。両選手の発信は3月中旬。ユナイテッドの勢いがかげってきたときだ。主力としての責任感や自覚を著しく欠いている。かつてのキャプテン、ロイ・キーンも「言葉の一部分が切り取られるケースがあるとはいえ、あまりに軽率な発言」と苦言を呈していた。
ところが暖簾に腕押し、猫に小判。ポグバにはまったく響かない。
「キーンはコメンテイターだからね。好きなことを言えばいいんじゃないの」
キーンがユニフォームを脱いでから13年が過ぎた。フットボールを取り巻く環境は日々激変し、18~19歳の若者が週給1000万円以上を手にする。SNSで前後の見境なく発信し、監督、コーチよりもエージェントを信頼する者も少なくない。ましてキーンの場合は感情が先走り、コメンテイターとしての才能が疑問視されている。ただ、ポグバとルカクは空気を読めていなかった。
クラブが下降期を迎えていたというのに、マドリーがどうのこうの、セリエAがどうのこうの、話す必要は一切ない。嘘でもいいから、「ユナイテッドを必ずトップ4に導く」と語り、サポーターを安心させるべきだった。
彼らはつねに正直だ。シーズンを通してボールロストを繰り返すルカクに、オールド・トラッフォードのサポーターは不満の意を隠さなかった。カーディフとの最終節でも、ポグバがボールを持つとブーイングが聞こえてきた。マークが緩かったり、スプリントしなかったり……。公式戦のデータが16ゴール・11アシストでも、闘わない選手には容赦しない。その一方で、メイソン・グリーングッドには惜しみない拍手が贈られていた。17歳の少年が勝利に向けてひたむきだったからこその歓迎である。
ポグバとルカクはサポーターを敵にまわした。マタのように愛されてはいない。とくにポグバはエージェントのミーノ・ライオラが5月9日から3か月間の活動禁止処分を科されたため、移籍が難しくなっている。改心するか、モヤモヤしたまま残留するか。夏の休暇は楽しめそうにない。
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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