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『リーサルウェポン』は黒人と白人の刑事コンビの友情を描いた、バディムービーの快作である。『グリーンブック』は黒人の著名ピアニストと白人ドライバーがいつしか心を通わせ、差別の浅はかさを世に問うた名作だ。また、『ミシシッピー・バーニング』や『グローリー』、『ハリケーン』なども、史実とともに由々しき問題を提起している。
しかし、この世から人種差別が消える気配すらない。つい先日もロシア代表の人選を巡り、元代表のパベル・ポグレブニャクが、「なぜ黒人選手がわれわれのチームに必要なのだ」と、ブラジルから帰化したアリの招集を批判した。心ない発言により、ポグレブニャクは25万ルーブル(約42万5000円)の罰金を科されている。
その一方で、アルセーヌ・ヴェンゲルは黒人選手の才能に目をつけ、ダイヤの原石を磨きあげてきた。そのひとりがティエリ・アンリであり、パトリック・ヴィエラだ。また、度重なるケガで引退を余儀なくされたものの、アブ・ディアビはヴィエラをしのぐポテンシャルを誇り、少年時代のポール・ポグバが憧れるほどの逸材だった。
それにしても、一部の不届き者はなぜ肌の色だけで他人種を否定するのだろうか。ナポリのカリド・クリヴァリが執拗なモンキーチャントに怒り狂い、分別のあるカルロ・アンチェロッティ監督も「もう我慢の限界だ。次は試合を中断する。試合放棄と判断されても構わない」と語るほど、異常なムードだったという。こうした経緯もあり、クリヴァリは今シーズン限りでイタリアを離れる決意を固めたようだ。当然、彼に続く者も現われ、セリエAはレベル低下を招く。フランス代表やリーズで活躍したオリビエ・ダクールも、「とあるフランスのスター選手が、差別に不快感を抱いてセリエA移籍を拒否した」と証言している。
いや、イタリアだけではない。イングランドでもスペインでもドイツでも、そして日本でも、いやいや世界中で差別が目撃され、報告されている。SNSに軽率な投稿をし、慌てて削除しても弁解の余地はない。
「モンテネグロ戦でも人種差別のチャント、行為があった。今後もこのようなことが続くのなら、われわれは試合のボイコットも辞さない」
イングランド代表キャプテン、ハリー・ケインは意を決しているように見えた。勇気のあるコメントだ。アンチェロッティ監督に続き、白人がここまで踏み込んだ例はほとんどない。かつてのフランス代表で、ユベントスやパルマでも名DFとして鳴らしたリリアン・テュラムは、「白人選手、監督が声を上げてくれると、差別は少なからず減少するかもしれない」とつねづね語ってきたが、世間に大きな影響力を持つスーパースターがケインに、アンチェロッティ監督に続かなくてはならない。不快な問題を解決する糸口は、現場にある。
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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