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敗れた立川・府中アスレティックFCの谷本俊介監督が言葉を絞り出した。
「残酷な結果になってしまった」と。
日本のフットサルのトップリーグ、Fリーグのプレーオフ準決勝第1戦。リーグ戦3位の立川・府中は、2位のシュライカー大阪になんと4対11という大敗を喫したのである。
12チームで争われるFリーグ・ディビジョン1。3回戦総当たりで各チーム33試合を終了して、早々とリーグ戦1位を決めたのが“絶対王者”の名古屋オーシャンズでなんと28勝5引き分け無敗(勝点89)という圧倒的な成績だった。そして、2位に付けたのがシュライカー大阪で勝点は66。そして、3位の立川・府中は勝点65という大接戦だったのだ。その2位大阪と3位立川・府中がプレーオフ準決勝を戦い、勝者が決勝で名古屋に挑戦して2018-19シーズンのFリーグの王者を決める。
僅差の2位と3位のチームの対戦である。当然、大接戦が予想された。しかも、2試合制で行われる準決勝なのでファーストレグは両チームとも慎重に戦うはず。ロースコア・ゲームになるのだろうと僕は思っていた。
それが、11対4とは!
フットサルをあまりご覧になったことのない方は、「フットサルって、たくさん点が入るもの」というイメージをお持ちかもしれないが、トップレベルのフットサルはそれほど点が入るわけではない。守備の戦術もしっかりしているし、フィジカル・コンタクトも非常に激しいスポーツなのだ。だから、11対4というのは「準決勝」でなかったとしてもビックリのスコアだった。
試合開始直後は、むしろ立川・府中の方がしっかりとした距離感を保って、スピードの高いパスを相手守備陣の裏に通してチャンスを作っていた。しかし、5分過ぎに立川・府中にビッグチャンスが訪れたが決められず、逆に大阪が鋭いカウンターで先制点を奪ってしまう。5分35秒の出来事だった。しかし、立川・府中も40秒後に同点ゴールを決めた。「さあ、これで予想通り接戦になるか」と思われたが、そこから立川・府中がなぜかおかしくなってしまったのだ。
ミスが増えてパスがつながらず、跳ね返ったボールへの反応が遅れてセカンドボールもほとんどが大阪に拾われてしまう。いつもは、鋭い反応で神がかり的なセービングを見せる立川・府中の守護神クロモトも反応が悪い。17分34秒にはゴール前でノーマークの大阪のアルトゥールにパスを渡してしまう大きなミスも出てしまう。
前半だけで4失点。セカンドレグに勝負を持ち越すためにも、後半は1点でも差を詰めておきたい立川・府中だったが、後半は開始直後から3連続失点してしまう。そして、ゲーム終盤には立川・府中がGKを引き揚げて5人攻撃のパワープレーを試みるものの得点は生まれず、逆に大阪のロングシュートが3回も無人のゴールに吸い込まれてしまう……。
それにしても、いったい何が起こったのだろうか?
どんなスポーツでも、勝負事にはリズムとか流れというものがある。実力の違いがなくても、大きな差がついてしまうこともあれば、力では劣るチームが流れをつかめば番狂わせも可能となる。
しかし、たとえば11人同士で戦うサッカーなどは、ある部分でミスが出たり、不運が起こったとしても、全体の中で影響が及ぶ範囲は限られている。別の場所では、相手がミスしたり、相手にとって不運なことが起こったりするかもしれない。
選手1人がミスしたり、サボったりしたとしても、11人同士22人が戦っているだけに全体の中では中和されて、目立たなくなってしまうのだ……。
ところが、5人ずつ(フィールドプレーヤーだけなら4人ずつ)で戦うフットサルの場合、どうにも「ごまかし」が効かないのである。たった1つのミス、たった1人の怠慢プレー。ちょっとした運・不運。それが直接「結果」に結びついてしまうのだ。
この日の立川・府中で言えば、リズムが良い時間帯にカウンターで失点したことの動揺のせいで、ポジショニングが甘くなり、相手との競り合いも後手に回り、ちょっとしたミスが重なって、さらに動揺が増幅される……。そして、試合が進むテンポの速いフットサルでは落ち着く時間もなく、連続得点が生まれてしまう。
こうして大差がついたファーストレグ。1勝1敗になった場合は2試合合計得点で争われ、それも並んでしまうと、リーグ戦上位の大阪の決勝進出が決まる。つまり、立川・府中はセカンドレグで8点差以上の大差で勝利しないと敗退が決まるのだ。
そのセカンドレグ、立川・府中は前半のキックオフ直後からGKを引き揚げてパワープレーに入り、ボールをキープして攻撃を続ける。大阪は完全にゴール前を固める。そして、8点差という目標には届かなかったものの、立川・府中は6対2というスコアで勝利を収めて1勝1敗のタイに持ちこみ、一矢を報うことには成功したのだ。実に果敢なトライだった。
実は、立川・府中と大阪はリーグ戦では3度対戦して、いずれも立川・府中が勝利していた(4-2、4-3、2-1)。そして、プレーオフでも1勝1敗。つまり、立川・府中は今シーズン大阪と5回戦って、4勝1敗の成績だったのだ。
ところが、そのたった1回の敗戦が4対11という思いもよらないスコアでの大敗だったので決勝進出を阻まれたのである。
そういう意味でも、立川・府中にとっては実に「残酷な結果」だったし、フットサルというのは実に残酷なスポーツでもあるのだ。
さて、次週2月23、24の両日に行われる決勝戦はシュライカー大阪が名古屋に挑むことが決まったが、大阪は決勝戦でも何か起こすことができるのだろうか……。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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