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2000年代前期、サー・ボビー・ロブソン監督(当時)率いるニューカッスルは、エンターテインメント性にあふれる好チームだった。とにかく攻める、攻めまくる。肉を切らせて骨を断つ試合があれば、肉を切らせて骨も断たれたケースもあった。それでもサー・ボビーは攻撃的な姿勢を貫きさえすれば満足で、02-03シーズン、オールドトラッフォードでマンチェスター・ユナイテッドに3-5の敗北を喫した後、次のように語っている。
「負けたのだから悔しいさ。悔しいに決まっている。それでも両チーム合わせて8ゴールも決まったのだから、サポーターの皆さんは楽しめたのではないかな」
2009年7月31日、サー・ボビーは惜しまれながらこの世を去ったが(享年76歳)、プレミリーグにその名を刻む名将だったことは、だれもが認める事実である。
さて、サー・ボビーが健在なら、古巣の現状を憂えていたに違いない。オーナーのマイク・アシュリーが迷走している。決まりかけていた買収を突然反故にしたり、契約書に記されていたボーナスを出し渋ったり、ニューカッスルへの愛情がほとんど感じられない。かと思えば、この夏には9000万ポンド(約127億8000万円)で百貨店グループを買収した。
「そんなカネがあるのなら、補強に使いやがれっ!」
サポーターが怒るのは当然だ。1億2300万ポンド(174億6600万円)に及ぶ昨シーズンの放映権収入も虚しい。
意味不明の行動を繰り返すアシュリーには、ラファエル・ベニテス監督も不満を募らせているという。両者の関係はつねに緊張状態にあり、アシュリーの不用意な言動がベニテスを刺激した場合は、退団を決意しても不思議ではないとの見方が大勢を占めてきた。
ここが問題だ。もしベニテスがニューカッスルを去ると、武藤嘉紀の立場は微妙になるだろう。バレンシア、リヴァプール、レアル・マドリーなどを率いた知将は、武藤を高く評価している。長い時間をかけてモニタリングした結果、マインツから獲得した。途中出場ながら、開幕後3試合で出場のチャンスを与えていることも、戦力として見なしている証だ。
しかし、ニューカッスルの現状を理解しようとせず、みずからのための金策に奔走するアシュリーに対し、ベニテスが反旗を翻す危険度は非常に高い。監督が代われば評価基準は振り出しに戻る。武藤の序列は下がるかもしれない。
ビジネス主導のプランニングにより、アシュリーは毎シーズンのようにトラブルを起こしてきた。ベニテスだけではなく、多くの選手もサポーターもこのオーナーを信用していない。武藤が、妙な政争に巻き込まれなければいいのだが……。
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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