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プレミアリーグの移籍市場は奇妙な形で幕を閉じた──。
マンチェスター・ユナイテッドはセンターバックを補強できず、マンチェスター・シティの新戦力もリヤド・マフレスだけだ。トッテナム・ホットスパーはだれも獲得せず、チェルシーはフロントの不手際によってマウリツィオ・サッリ体制の発足が遅れた。リヴァプールとアーセナルを除くビッグ6は、極めて静かな夏を過ごした、といって差し支えない。
一方、エヴァートンはリシャーリソン、ベルナルジ、リュカ・ディニュ、アンドレ・ゴメス、ジェリー・ミナなどの即戦力候補を手に入れ、ビッグ6の牙城を崩す準備を整えつつある。また、チャンピオンシップから昇格したウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズ(以下ウルブズ)は、辣腕エージェントとして知られるジョルジュ・メンデスの存在が大きい。顧客でもあるジョアン・モウチーニョ、ルイ・パトリシオといったポルトガル代表のトッププレーヤーを獲得できたのは、すべてメンデスの尽力だ。ちなみに彼はアドバイザーとして数年前からウルブズに関わり、ヌーノ・エスピリト・サント監督の招聘にもひと役買っている。
しかし、主要リーグの市場はまだ終わっていない。レアル・マドリー、バルセロナ、パリ・サンジェルマンなど、年俸でプレミアリーグと同等、もしくは上まわる条件を提示できるクラブが、虎視眈々と狙っている。
「ポール・ポグバがユナイテッドからバルサへ!?」という報道は信ぴょう性が低い。週給アップを目論むエージェントのミーノ・ライオラが、上層部との駆け引きでアドバンテージを握るため、情報操作に動いたと考えられる。ただ、R・マドリーとたびたびリンクされるエデン・アザール(チェルシー)、ジョゼ・モウリーニョ監督との関係が冷え切ったアントニー・マルシャル(ユナイテッド)などの去就は、8月末日までつねにスリリングだ。
それにしても、なぜプレミアリーグは市場の閉鎖を8月9日17時(現地時間)に設定したのだろうか。ことしがワールドカップ・イヤーであることを、把握していなかったのだろうか。当然、他のシーズンよりも準備期間が短い。その非常時に、なぜプレミアリーグだけは市場の閉鎖を早めたのか。自分で自分の首を絞めるような愚行を犯したのか。
チェルシーはティボー・クルトワのR・マドリー移籍に長い時間を要した結果、後釜のケパ・アリサバラガにGKとしては史上最高額の7100万ポンド(約102億3000万円)を支払わざるをえなくなった。プレミアリーグの市場が締め切り間際だったため、アスレティック・ビルバオに足もとを見られたのだろう。
「プレミアリーグの市場が終わった後も、他のリーグは補強できる。われわれは獲得できないが、選手が出ていく恐れがある。不公平だと思わないかい」
トッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督が、珍しく愚痴をこぼした。スーパースターが狙われている。眠れない夏は、まだまだ続く。
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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