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波乱の続く2018年ロシアワールドカップだが、ラウンド16に突入直後、2014年ブラジルワールドカップ準優勝のアルゼンチンと2016年欧州選手権(フランス)の王者のポルトガルが6月30日に揃って敗退。リオネル・メッシ(バルセロナ)とクリスティアーノ・ロナウドの両看板アタッカーが早々とトーナメントから姿を消した。30代に突入した2人は今回が4度目の大舞台。輝かしいキャリアの集大成としてワールドカップ王者を手にしようと懸命に戦ったが、夢は幻と消えた。
加えて1日には、スペインがロシアにPK戦の末に敗れる波乱が起きた。ヴィッセル神戸移籍が決まっているアンドレス・イニエスタも2大会ぶりの頂点に立てないまま、代表引退を表明した。この10年間、世界のサッカー界をけん引してきた世界的なタレントたちが続々とワールドカップから去っていく…。そんな印象の強い今大会と言っていい。
3大会連続出場の選手が5人いる日本代表も、このロシアでワールドカップ出場に1つの区切りつけることになりそうな選手はいる。すでに「今回が集大成」と語っている本田圭佑(パチューカ)はその筆頭だし、長谷部誠(フランクフルト)も年齢的に次を目指すのは厳しいかもしれない。
本田と同じ32歳の岡崎慎司(レスター)も大迫勇也(ブレーメン)、武藤嘉紀(マインツ)ら若い世代に押されていて、4度目を狙うのはかなり厳しそうだ。その現実を受け止めて、2日のベルギーとの最終決戦では、持てる力の全てを出し切りたいところだ。
しかしながら、今大会の岡崎は相次ぐケガに苦しみ続けて、ここまで来た。今季イングランド・プレミアリーグ終盤戦を左足首負傷で長期離脱した彼は、5月21日の国内合宿スタート初日から別メニューを強いられていた。5月30日のガーナ戦(日産)で実戦復帰し、本人も周囲も安堵したと思いきや、6月頭に事前合宿地のオーストリア・ゼーフェルトへ移動すると右ひざに凄まじいテーピングを巻いて現れた。本人は「あくまで予防」を楽観的に語っていたが、この合宿後半には左足にテーピングを巻くようになり、さまざまな箇所に影響が出ていることが伺えた。
そして6月13日にベースキャンプ地・カザン入りした時には、両ふくらはぎに違和感を訴えてトレーニングを欠席。19日の初戦・コロンビア戦(サランスク)前日まで浅野拓磨(ハノーファー)との登録変更がささやかれた。それでも西野朗監督は岡崎への絶対的な信頼を口にし、最後までともにロシアワールドカップを戦う覚悟を示した。
その期待に応えるかのうように、コロンビア戦では大迫の決勝弾で2-1でリードした後に投入され、前線からの献身的守備とハイプレスで相手にプレッシャーをかけるという見事なクローザーぶりを示した。あの凄まじいハードワークはレスターで途中交代した時以上のものがあった。イングランドで3シーズン過ごす中で、自分の役割をしっかりと把握し、それを遂行してきた成果が、この短時間の働きにつながった。
24日のセネガル戦(エカテリンブルク)も1-2の劣勢に追い込まれた後半30分に投入され、本田の2度目の同点弾を演出。いぶし銀の働きで存在価値を示した。「自分でゴールを狙っていたけど、最終的に圭佑の前にボールが転がった。持ってますね」と苦笑いするところが、いかにも岡崎らしい泥臭さだった。
そうやって短時間でも大きな仕事のできる侍ストライカーだけに、西野監督も今回のベルギーとの大一番で使いたいはず。しかし、先発した28日のポーランド戦(ボルゴグラード)で右足首を負傷。後半立ち上がり早々に交代を余儀なくされた。それから2日間は室内調整が続き、かなり厳しい状態なのは間違いないが、本人は「自分が壊れてもいいからピッチに立つ」というくらいの覚悟を持って。ロストフの地にやってきたはず。実際、1日の前日練習では頭からトレーニングに参加。ピッチにたつ強い闘志と覚悟を前面に押し出した。
「僕は期待に応えたいって思いがあるし、出た時には何もかも忘れて期待に応えられるって思いで入ってる。今、チームの成長を間近で見ながら、自分もそこに貢献したいって思いながらやっていて、その思いはここに来る前と全く変わっていない。明日も何とか試合に出られると思うし、戦力になれると思う」
こう語気を強めた岡崎はこれまで積み上げてきた国際Aマッチ116試合のキャリアの全てを一大決戦で注ぎ込むつもりだ。彼自身が輝きを放ち、チームの8強の壁を突破することができれば、ここまで満身創痍の中、頑張ってきたことも報われる。ここまで代表のためにひたむきに、献身的に戦ってきた努力の人には今こそ、しっかりと完全燃焼してほしい。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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