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「岡崎(慎司=レスター)はプレミアリーグの非常にタイトで厳しい環境の中で、あれだけ体を動かせて、チームに対する貢献があり、しかもストライカーとしての役割を果たせる。総合的に代えがたいと評価しています。ただ、運動量が高いだけではなく、つねに2つ3つ先のプレーに対する貢献度、献身度は絶対にチームに欠かせないと思っています。この1カ月の猶予があればいい状態に持っていけるという予想がある。そうした想像力を働かせた上で、彼を選出しました」
18日に行われた30日のガーナ戦(日産)に向けた日本代表候補発表会見で、4月に緊急登板した西野朗新監督がこう強調した通り、32歳のベテランFW岡崎への期待値の高さは頭抜けたものがあるようだ。
ご存じの通り、岡崎は国際Aマッチ111試合出場50ゴールという驚異的な数字を誇る生粋の点取屋だ。が、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督からは徐々に冷遇されるようになり、昨年9月の最終予選・サウジアラビア戦(ジェッダ)を最後に9カ月間も代表から遠ざかっていた。タテに速い攻めを志向した前指揮官は相手を背にしてボールを収めながら時間を作れる大迫勇也(ケルン)を特に好んでいた。岡崎より杉本健勇(C大阪)や小林悠(川崎)を重用したところを見ても、その傾向は顕著だった。
しかし、西野監督は1トップのみならず、2トップも視野に入れていると言われる。確かに大迫・岡崎、あるいは武藤嘉紀(マインツ)・岡崎といったコンビなら前線に厚みを出せる可能性がある。「2トップの方がよりコンビネーションを使える。世界トップクラスのDFだと強さもあるので、そこでFWが2人いることによって、マークが1人に集中しないという長所もある」と武藤もマインツの先輩に当たるベテランFWとの共演を熱望している様子だった。
岡崎はセカンドトップとしても生きることができるし、アルベルト・ザッケローニ監督(現UAE代表)時代のように右ワイドでもプレーできる。そういう柔軟性を新生・日本代表に最大限生かせれば、ワールドカップ3大会連続ゴールも夢ではないはずだ。 その前に岡崎がクリアしなければならない大きな壁がケガである。2018年ロシアワールドカップに向けた直前合宿始動日だった21日、本田圭佑(パチューカ)や香川真司(ドルトムント)らが全メニューを消化する傍らで、彼はトレーナーと一緒にリハビリメニューを懸命に消化していた。
最初の心肺機能のテストにも加わらず、3人1組のボール回しを遠目から見つめる岡崎には少なからず焦りの色が見て取れた。その後のランニングは個々のペースで行われたため、彼も少しスピードを上げて走ったが、左足を庇っているのは一目瞭然。
本人も「ガーナ戦までに100%でやらないといけないということ? もちろんそうだと思います。自分の中ではどういう感触でできるかってところが一番なのかなと。100%でなければワールドカップに行く意味もないと思う。年齢的にもそうだし。100%でやれるかどうかをここでしっかり確認して、自分がいる意味、存在価値を出せるならやっぱり行きたいと思うけど」と現状ではロシアで戦える確信を持てていない様子だった。
ただ、岡崎自身も「日本代表は格上のチームと戦うから、レスターで強いチームとやってる部分は還元できるのかな」とクラブでの経験値を生かせる可能性があるとは考えている。奇跡のプレミアリーグ制覇を果たした15-16シーズンにしても、その後の2シーズンにしても、レスターはビッグ6を内容的に凌駕して勝ち点を稼いできたチームではない。守護神のカスパー・シュマイケルやウェス・モーガン、ハリー・マグワイアら守備陣がしっかりとした守りで相手の攻めを跳ね返し、前線のジェイミー・ヴァーディーやリヤド・マフレズにつなぐ素早い攻めからゴールを奪うという戦い方は格上相手には間違いなく有効だ。
誰がヴァーディーやマフレズの役目を担うかというのは難しいテーマではあるが、それを岡崎や大迫、武藤、あるいは本田らがやってくれるのなら、西野監督も万々歳のはず。レスターのタフな戦い方を岡崎が身を持って実戦してくれるのなら、苦境に瀕する日本代表ももう少し戦える集団になるだろう。
その経験値を持ち込むためにも、とにかくケガを早く治すこと。そこに集中するしかない。ロシア向けて出遅れを強いられているのは辛いだろうが、そこを乗り越えなければ3度目の大舞台には立てない。経験豊富な男には厳しい現実がよく分かっているはず。真のプロフェッショナルの心意気を今こそしっかりと示してほしいものだ。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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