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今季UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)もいよいよ佳境。イングランド勢で唯一、ベスト4入りしているリバプールは24日(日本時間25日未明)、ホーム・アンフィールドでローマと準決勝第1レグを戦った。
ローマと言えば、モハメド・サラーが過去2シーズンを過ごした古巣。ローマ時代のサラーは15-16シーズンが34試合14得点、16-17シーズンが31試合15得点とコンスタントな働きを見せていたが、今季ほどの頭抜けた決定力のある選手ではなかった。 ユルゲン・クロップ監督の下に来てからは、爆発的なスピードとタテへの推進力を高く評価され、4-3-3の右サイドアタッカーに定着。そこから相手背後に飛び出したり、右コーナー付近からチャンスメークをして、相手をキリキリ舞いさせてきた。
その結果、イングランド・プレミアリーグで積み上げたゴール数は33試合で31ゴール。昨季まで2年連続で得点王に輝いたハリー・ケイン(トッテナム)に5得点差をつけ、ダントツトップにと立っている。これは古巣・ローマの関係者も驚きを隠せないだろう。 その凄みが今回のUCL準決勝第1レグでも遺憾なく発揮された。序盤にアレックス・オックスレイド・チェンバレンが負傷離脱し、不穏な空気に包まれたリバプールだったが、彼らの高い位置からのハイプレスとそこからのスピーディーなショートカウンターは普段以上に迫力があった。そんな中、先制点をお見舞いしたのは、やはりサラーだった。ペナルティエリア右隅ギリギリの位置から蹴り込んだシュートは美しい弧を描いてネットを揺らす。ここまでオフサイドなどで何度か決定機をつぶしてきたリバプールにとっては待望の1点だった。
さらに、前半終了間際にも、サラーはロベルト・フィルミーノのラストパスを冷静に沈める。相手GKアリアソの位置を見ながらシュートコースを的確に判断して流し込む高度な技術はまさに圧巻。これこそがプレミアで得点ランキングトップに立てる男の能力なのだろう。 2012年ロンドン五輪に出場し、日本と対戦した頃のサラーはここまでのインパクトを残せる選手ではなかった。フィオレンティーナやローマで過ごしたイタリア時代もそこまでシュートのうまい選手ではなかったという。それがリバプールに来て、これだけ大化けしたのだから特筆に値する。クロップ監督がどのようなアプローチを試みたのかは世界中の指導者が知りたいところ。ゴールへの推進力を伸ばし、GKやDFとの駆け引きを磨いたことだけは間違いない事実と言える。
リバプールは後半にも3得点を挙げたが、後半11分にサディオ・マネが決めた3点目、164分にフィルミーノが決めた4点目も実質的にサラーの得点と言ってもいいものだった。サラーの切れ味鋭い突破から相手守備陣をズタズタに切り裂き、ゴール前がフリーになったところを味方がやすやすと侵入できたからだ。
自分1人でゴールを積み重ねたいとエゴイストになるのではなく、マネやフィルミーノの動きをしっかり見て、得点への最短距離を導き出せるのが今のサラーだ。そういう献身的な姿勢をクロップ監督は重視する。それはボルシア・ドルトムントでロベルト・レヴァンドフスキ(バイエルン)、ピエール・エメリク・オーバメヤン(アーセナル)らを指導していた時もそうだった。絶対的点取り屋にもハードワークやチームを支える意識を植え付けられるのが、彼の名将たるゆえんなのだろう。
結局、サラーはこの日の2ゴールを加えて、UCL通算10得点目。今季公式戦での得点数を43に伸ばした。通算試合数が47だから、ほぼ1試合に1得点挙げている計算になる。それはどんな卓越したゴールセンスを誇るFWでも容易ではないこと。今季の彼がどれだけ高いレベルのパフォーマンスを維持しているかが、この数字からもよく分かる。
リバプールは結局、5-2で第1レグを乗り切ったが、5-0のままで終わっていたら、5月2日の第2レグをもっと楽な気持ちで迎えられたはずだ。しかしながら、敵地・スタディオ・オリンピコでの1戦を0-3で落とさなければ、06-07シーズン以来、11年ぶりのファイナルに進出できる。それはかなりの確率で現実になりそうだ。プレミアリーグ王者の夢はすでに断たれているだけに、彼らには貪欲に欧州の頂点を狙ってほしい。
そのカギを握るのは、絶対的得点源のサラーに他らない。彼のゴールラッシュが続けば、ローマはもちろんのこと、レアル・マドリードやバイエルン・ミュンヘンも怖くない。今季大ブレイクした男がどの領域まで達するのかを興味深く見守りたい。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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