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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2024年12月18日

【輪生相談】いたたまれない事故がある度に、悲しいを通り越して失望、そして怒りさえ覚えます。どうしてなんの対策もしないのか?このままではこのスポーツが持続可能だとはとても思えません。栗村さんのご意見をお聞かせください。

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25年来のサイクルロードレースファンです。今も変わらずこのスポーツを愛して止みませんが(ジーノの件のように)いたたまれない事故がある度に、悲しいを通り越して失望、そして怒りさえ覚えます。どうしてなんの対策もしないのか?何人犠牲になればいいのか?どれほど選手のやりがい生きがいを搾取するのか?F1はじめ危険極まりないモータースポーツも犠牲者が出る度にレギュレーションが改定され、安全対策は第一に置かれています。サイクルロードレースだって機材に速度の制限をかける、コースのダウンヒル部をリエゾン化する、選手にはヘルメットのみならずプロテクター装着義務を課す、等などアクティブセーフティもパッシブセーフティも試行錯誤出来る事はなんだってあるはずです。なぜ何もしないのでしょうか?なぜ「落車はツキモノ」「痛みは友達」の一言で済まされてしまうのでしょうか?このままではこのスポーツが持続可能だとはとても思えません。栗村さんのご意見をぜひお聞かせ戴きたいと思います。よろしくお願いします。

(男性 会社役員)

■栗村さんからの回答

栗村さん

強く共感できるご質問です。最近、レース参加を目指して再びロードバイクに乗りはじめた僕も、このスポーツが持つリスクには危機感を持ち続けています。

エアロでディスクブレーキ化された、太いタイヤを履く今のロードバイクはとんでもなく速いだけでなく、快適でコントロール性も上がっています。そう聞くと安全になったように聞こえるかもしれませんが、扱い方を間違えるとむしろリスクが上がってしまう側面もあるんです。昔のロードバイクはデリケートで、ブレーキやタイヤ周りもプアでしたから、「恐る恐る」乗る感じでした。当時はそれが当たり前だったので普通に走っていましたが、速度や操作に対する適度な緊張感と恐怖感を低速時から感じていたので、常にリスクへの意識が高まっていたと思います。ところが今のロードバイクは50㎞/hを出してもモーターバイクのような安心感があり、あまり怖くないんです。

例えばクルマでも、軽トラだと40km/hで緊張しますが、パワーがある高級車に乗ると高速道路で一瞬で80km/hに達してしまい、さらに静かなのでメーターを見ないとその速度に出ていることに気付かなかったりします。

その結果どうなるかというと、転倒や衝突時の運動エネルギーがより大きくなってしまいダメージも大きくなってしまうんですね。もちろん、クルマに関しては、走行性能の向上と同時に安全装置の開発も進んでいますから、国内の死亡事故件数は減少傾向にあります。一方、ロードバイクについては、走行性能の向上ばかりが進んでしまい、安全装置(特にパッシブセーフティ)の開発については、いまだにヘルメットくらいしかありません。

僕自身、自転車競技経験者として、これまでも繰り返し事故リスクや安全対策の必要性を発信してきた「うるさい」人間の一人だと自覚しています。公式に要望を出したりメーカーに提言をしたこともあります。しかし、スポーツバイクのパッシブセーフティについては、業界関係者やメーカーの反応は弱く、しばしば失望してきました。

僕は元選手・監督ですから、速さを競う最前線の現場がそういう反応になることは理解できます。競技に関わる人々はどちらかというと恐怖よりも勝つことへの欲に支配されていますからね。そして、恐怖心が大きくなってしまったときはある意味で辞めどきだともいわれています。しかし、このように「ネジが外れていないとできない競技」はもう、一般社会では健全なスポーツとして認められなくなってきているんですよね。

そんな中、UCI(世界自転車競技連合)が事故リスクを科学的に分析する取り組みをはじめたり、ツール・ド・フランスのジェネラルディレクターであるCプリュドム氏が、「昨今の深刻な事故の多発は自転車の高速化と戦術の高度化などが要因である」と発言するなど、ようやくスポットが当てられはじめたとも感じています。

具体的に今後やるべきこととしては、ロードバイクの速度追求傾向への歯止めとアクティブセーフティ機能の研究・開発、プロテクター開発などのパッシブセーフティへの取り組みとルール化、そして、選手の視聴覚の妨げになる高機能メーターや無線機の使用制限などに加え、選手がリスクをとることの背景にある高度なチーム戦術の強制緩和なども挙げられるでしょう。

前途のように、UCIも取り組みをはじめていますが、積極的な安全装置の義務化はまだまだ遠い状況です。ベテラン選手の引退の理由にリスクが含まれることが多くなってきていますし、若い選手のなかには安全を理由に引退を選択する選手も現れはじめています。

いつも言うことですが、速さを求め続けるならば、同時に安全装置の開発は必要不可欠ですし、安全装置の開発をしないのであれば、ロードバイクの高速化を止めるタイミングに来ています。

「人間の身体は衝突エネルギーに対して進化できない」という事実を直視して、UCIがアクティブセーフティ及びパッシブセーフティの両面から早急にルール化を進めないといけないと強く感じています。

ダウンロード.jpgレース中の落車事故で命を落としたジーノ・メーダー選手。UCIは選手の安全性に関するルール化を早急に進めてほしい。

文:栗村 修・佐藤 喬

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