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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2024年10月16日

【輪生相談】レースのような走り方を公道でする人が増えてきて、普通自転車に乗る方や初心者の方が真似するのではとヒヤヒヤします。対策はないのでしょうか。

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最近、、、に始まったことではないのかも知れませんが、スピードを出す練習をする人、レースのような走り方を公道でする人も増えている気がします。いい例が尾根幹です。まだ工事中で道が細い中でレースのようなスピードで走ったり、車の前を右左と行ったりきたりする人が増えています。そういう走り方を見て、一般の普通自転車に乗る方やスポーツバイク初心者の方が真似するのではと思います。ロードバイクに乗る私もヒヤヒヤします。人気が出ることと、そういった事は表裏一体なのでしょうが、対策はないのでしょうか。

(女性 会社員)

■栗村さんからの回答

栗村さん

質問者さんのお気持ちはよく理解できます。サイクリストこそが率先してルールを守る必要がありますね。

本題に入る前に、一般の自転車を含めた最近の道路環境を振り返ってみましょう。 僕がロードレーサーに乗り始めた昭和に比べ、交通マナーや道路の走りやすさは大きく改善されています。自転車が本来走るべき車道の左側を走っているだけでクラクションを鳴らしたり、平気で幅寄せしてくるようなクルマはかなり減りました。一方でルールやマナーを守ることへの目が厳しくなり、また、交通事故に占める自転車事故の割合が増えている点が目立ちます。

今回の質問に挙がったスポーツバイクは、事故件数や道交法違反の観点からは一般の自転車よりもルールを守って走っている方の割合が断然多いのですが、車道を走る目立つ存在であり、スピードも出やすいことから注目されやすいんですね。そしてご質問にあるようなひどい乗り方をしているサイクリストがいるのも事実なので、スポーツバイクに対する質問や関心が増えるのも当然だと思っています。

参考までに「警察庁 令和5年における交通事故の発生状況について」より自転車関連事故の記述を抜粋しますね。

  • 状態別死者数は全年齢で 「自動車乗車中」は減少、 「二輪車乗車中」 「自転車乗用中」 「歩行中」は増加
  • 自転車乗用中死者の約半数が「頭部」を損傷し、うち約9割がヘルメット非着用
  • 自転車対歩行者事故の構成率は近年増加傾向

※以下、「警察庁 自転車関連交通事故の状況」より抜粋

  • 自転車関連事故件数及び自転車乗用中死者・重傷者数は減少傾向にある一方、全交通事故に占める構成比は近年増加傾向
  • 自転車対歩行者事故件数は近年増加傾向であり、自転車対歩行者事故における死者・重傷者数は横ばいで推移(死亡・重傷事故の発生場所の約40%が歩道上)
  • 自転車関連事故は、対クルマが約80%を占め、場所は交差点付近が約70%(特に市街地)、発生原因は出会い頭・右左折時が約80%となっている

さて、2026年には「自転車の青切符制度」がはじまります。この制度の導入により、自転車はより厳密に本来の「軽車両」としての扱いを受けることになります。日本では長い間、自転車は歩行者の延長として扱われてきましたが、この独特の価値観が大きく転換するタイミングとなるのは間違いないでしょう。なお、対象となるのは113の違反行為で、このうち以下のように重大な事故につながるおそれのある違反を重点的に取り締まるとしています。

▽信号無視
▽例外的に歩道を通行できる場合でも徐行などをしないこと
▽一時不停止
▽携帯電話を使用しながら運転すること
▽右側通行などの通行区分違反
▽自転車の通行が禁止されている場所を通ること
▽遮断機が下りている踏切に立ち入ること
▽ブレーキが利かない自転車に乗ること
▽傘を差したりイヤホンを付けたりしながら運転すること

スポーツバイクに乗っている人たちは、すでに道交法を理解して車道を走っていることが多いので、基本的なルールさえ守っていれば特に大きな影響はないかもしれませんが、このタイミングで、サイクリストも自分たちの走り方をもう一度見直すのは大事だと思います。

スポーツバイクはそのスピードと車道を走る関係から、どうしても目立ってしまう存在です。道交法を守っていても「危ない」「邪魔」と思われることもありますよね。それは「車道はクルマが主役」という誤った価値観をドライバー側が持っているからです。それでも青切符制度が始まる前に、サイクリストは改めて道交法を確認し、お手本になる自覚を持つべきです。さらには、一般道はトレーニング場ではないということも再確認しないといけません。

さて、本題に戻って、質問者さんの言うような危険な走りをするサイクリストが一定数いるのは何が原因なのでしょうか。ただ単に暴走している一部のサイクリストを見かけたら僕は直接、注意します。一方で、GPSトレーニングアプリやパワーメーターなどのテクノロジーの発展が、この現象に少なからず関係していると考えています(YouTubeなどの過激な海外動画コンテンツなどの影響もありそうです)。これらの技術によって、公道での走りもデータで管理できるようになりました。しかも、人気のあるルートやスポットには、どうしてもサイクリストが集まってしまう。そして、そのエリアでタイムの記録などもアプリで簡単に見られますから、制限速度内とはいえついついスピードを出してしまうんですよね。僕もそういったガジェットをつけて走ると、気になってしまうことがあります。

そこで、僕が最近試しているのが、あえてそういうデータ機器を見えない様にして走ることです。これが意外に新鮮で、気持ちよく走れるんですよ。目の前の景色や体の調子、道路の状態なんかに自然と意識が向くので、走り自体もリラックスして安全に走れる。長らくロードバイクに乗っていなかった僕が、通勤ライドを再開したころのフレッシュな感覚が戻ってきた感じです。

テクノロジーを否定するつもりはありません。ただ、数字だらけのGPSメーターと車道上でにらめっこをすることは、危険であるばかりではなく、オーバーワークにもつながることがあります。最近、疲れてきたなあ、という方には、たまにはデジタルデトックスして、純粋に走る楽しさに触れてみるのもお勧めですよ。

自分の目で道路や周囲の動きを完全に捉え、体のセンサーが発する信号に耳を澄ませることで、これまで気づかなかった新たな発見に出会えるかもしれません。

今のスポーツバイクの世界には、インドアトレーニングアプリという安全なバーチャル空間も存在します。そこでデータ管理や高強度のトレーニングを行うこともできるわけですから、安全性という観点から屋外と屋内で走りを完全に切り替えることは意外と合理的なのだと思います。

22884959_m.jpgデータ機器を見ずに目の前の景色や体の調子に目を向け、走る楽しさに触れてみるのもお薦め。

文:栗村 修・佐藤 喬

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