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3秒差を守りたいアスタナは、山の麓へ向けてトレインを走らせた。総合8位ティボー・ピノ擁するエフデジ・ポワン・エフエールは、山に入った途端に小さな隊列を組んだ。総合5位の座に決して甘んじず、もう1勝を貪欲に追い求めるニコラス・ロッシュは、サクソ・ティンコフのチームメートに命じてスピードアップを企てた。とりわけラファル・マイカがあまりに強烈な牽引を見せたものだから、あらかじめ前方で待ち構えていたモヴィスター チームのホセ・エレーダは、総合3位アレハンドロ・バルベルデの助けに下りて行く途中で千切れていったほどだ。
しかし、マイカが最後の力を振り絞ってメンデスを飲み込み、ロッシュにバトンを渡した、直後のことだった。現プロトンの中で、おそらく最も切れ味の鋭い上りパンチ力を持つ男が、ついに本領を発揮した。1日中チームメートを働かせてきたロドリゲスは、ラスト1kmのアーチの下で、弾丸のように飛び出していった。オビエドで生まれ育ち、ナランコ山はいわば「庭」のようなモノと語っていたサムエル・サンチェスが、慌てて加速するも、合流はとてもじゃないが不可能だった。
「これこそ、ボクが欲しかったもの。チームメートたちには、実は何度か、牽引をやめるよう言ったんだ。だって、自分が本当に勝てるのかどうか、確信が持てなかったから。最終盤の勾配は、ボクにとってそれほどキツクなかったからね。でも、勝利への小さな望みを、抱き続けていた。すごく嬉しい。ようやく笑顔を取り戻せた」(ロドリゲス)
大会序盤には、大の仲良しであり、アシスト役のダニエル・モレーノが、区間2勝&マイヨ・ロホ1日を手にした。対するリーダー本人は、どうも少々冴えなかった。「総合3位に入ったツール・ド・フランス」の疲労による、調子の減退も噂されていた。しかし、振り返ってみれば7月だって、3週目にじわじわと順位を上げて行ったのだ。ツールの第19ステージでは、今の総合4位よりもさらにひとつ悪い、5位だった。そして第20ステージで、47秒差を引っくり返して、総合3位の座へ駆け上がった。現在、ブエルタ総合3位につけるバルベルデとのタイム差は、51秒だ。
「今日の勝利が、信じられないくらいに、気持を高めてくれた。もう1つ勝ちたい。でも、総合優勝に関しては、かなり難しいだろうね。それでも、望みは持ち続けてる。他のライバルたちだって疲れてる。全てがガラリと変わる可能性はある。だってアングリルは、どんなミスも許さないからね。表彰台に上るために、全力を尽くすよ。夢を見ようじゃないか」(ロドリゲス)
そのバルベルデは、ホーナーと一緒にプリトから14秒遅れで山頂へとたどり着いた。つまり総合首位までの1分06秒差に変動はなし。また、ニーバリは20秒遅れのゴールで、ジャージを失い、無言のままフィニッシュエリアを立ち去った。代わりに大ベテランが、マイクの前で極めて饒舌になった。
「精神的にも肉体的にも、とにかく感触は良かった。でも、レッド・ジャージを取り戻そうとは思っていなかったけれど、ただ、なるようにして、ボクのところへ来ただけさ。もちろんマイヨ・ロホを着られて嬉しいし、明日は守りにいく。ボクには強いチームがついているから、山の麓までは連れて行ってくれるはずだ。そこから先は、ニーバリやバルベルデから目を離さないようにしなければならない。それに、おそらくプリトが、表彰台を奪い去るためにアタックを仕掛けるだろう。心配はしていない。もしも明日、いい脚があって勝てたら、最高だろうね。でも、たとえそうじゃなかったとしても、ボクは断言することができるはずさ。これは素晴らしいブエルタだった、って」(ホーナー)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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