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実のところ、ニーバリには、チームの枠を超えた「第3」のアシストの存在があった。本人はおそらく知らなかったであろうが。
「誰もボクに協力してくれなかった。ボクからマイヨ・ジョーヌのチャンスを奪い取ろうと、全員が虎視眈々と狙っていた。あの時も、ボクの方を見るばかりで、みんな動こうとはしなかった」(サガン、ミックスゾーンインタビュー)
だったら、もうやめだ。24歳の若者は、追走作業を中止した。もしも追いかけたら、他の選手たちが背中にぴったりする張り付いてくるに違いない。それに、「ニーバリは友達だ」。リクイガス時代には元チームメートの勝機を、意図せず邪魔してしまったこともあった。けれどこの日は、アスタナへ行ってしまった仲間の、初めてのツール区間勝利を背後から見守った。
「ラスト1kmはすごく長く感じた。いつまでたっても終わらない、そんな気がした。何度も後ろを振り返った。だって向かい風があまりにも強すぎて、上手く前へ進めないものだから、追いつかれるんじゃないかと怖かったから。とにかく絶対にこの区間を勝ちたかった。マイヨ・ジョーヌを手に入れたかった」(ニーバリ、公式記者会見)
人生を賭けたタイムトライアルを戦っています……なんて英国らしく英語のレース実況が流れる中、新イタリアチャンピオンは熱心にペダルを回した。後続に2秒差をつけてフィニッシュラインへと駆け込むと、アスタナカラーの奇妙なナショナルチャンピオンジャージの上に、黄色いジャージを颯爽と羽織った。2014シーズンはここまでイマイチ調子が上がらず、ツール調整レースは不発続き。そのせいか、昨ジロの総合覇者は、フルームやコンタドールより「一段下」のマイヨ・ジョーヌ候補とみなされていたけれど……。
「そんなことは気にしていなかったよ。ただボクは、自分なりのやり方で、ツールに向けて調整をしてきただけ。それにしても、ジロ、ブエルタのリーダージャージに続いて、ようやくマイヨ・ジョーヌを着ることができた。すごく感動している。とてつもなく誇らしい。ただし、ボクの本当の目標は、このジャージをパリで着ること。この先はまだまだ長い、もっと難しい時をたくさん過ごすことになるだろう」(ニーバリ、公式記者会見)
2秒遅れの集団内ではフレフ・ヴァンアーヴェルマートが先頭でフィニッシュラインを越え、4位サガンは「今後はマイヨ・ヴェール保守に集中する」と黄色い夢をいさぎよく諦めた。コンタドールやフルームもまた、イタリアのライバルにそれぞれ2秒を献上した。
「今日はちょっと疲れたよ。ほかのライバル選手たちも、みんな、ボクくらい疲れてるといいんだけどなぁ」(フルーム、ゴール後インタビュー)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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