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バドミントン コラム 2022年1月12日

「女王のメッセージ」と「新王者誕生」は、パリ五輪への底上げとなるか │ バドミントン

バド×レポ by 平野 貴也
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奥原希望(左)水井ひらり(右)

有力選手不在で行われた特殊な大会は、何をもたらすのか。バドミントンの日本一決定戦、第75回全日本総合バドミントン選手権が、2021年12月30日に閉幕。女子シングルスで奥原希望(太陽ホールディングス、26歳)が3連覇したほかは、4種目で初優勝の王者が誕生した。日本代表の多くのメンバーが参加できなくなった事情が背景にある。11月下旬に新型コロナウイルスのオミクロン株が拡大傾向となり、日本政府が水際対策を強化して入国者の隔離期間を延長。この影響で、同月19日までスペインで行われた世界選手権に出場していた日本代表選手が、全日本総合に出場できなくなった。そのため、代表選手同士がしのぎを削る例年とは異なり、若手の台頭が注目される大会となった。

その中で貫録を示したのが、奥原だった。当初は世界選手権の出場を目指していたが、東京五輪後に代表合宿で右足首をねんざ。手術を経て回復途上のため、遠征を取り止めて、全日本総合を復帰戦の場に選んだ。決勝戦の相手は、日本B代表の水井ひらり(NTT東日本、21歳)。社会人3年目の元高校女王で期待の若手だが、奥原にまったく歯が立たなかった。「私がこの大会で最初に活躍できたのは、高校2年生。次にすぐ(山口)茜ちゃんや大堀(彩)選手が出てきた。最近は、ベテラン選手の顔ぶれは変わらず、新星が出ていないと皆さんが思っている」と次世代の突き上げを促した。今大会では、個人戦の引退を表明した佐藤冴香(ヨネックス)が4強入りするなどベテランが奮闘。準優勝の水井は、21年シーズンに初めて日本A代表入りした高橋明日香(ヨネックス、22歳)を破るなど存在感は示したが、奥原には完敗。「向かっていく気持ちで入ったが、緊張して力を出し切れず悔しい」と涙を流した。女子シングルスは、奥原と山口が、3大会連続出場を狙う立ち位置にいる。2024年パリ五輪の出場権争いに加わっていく新戦力の台頭が求められる種目だ。

東京五輪が終わって半年も経っていないが、24年パリ五輪までは時間がない。特に世界ランクが低い選手は、厳しい環境にある。五輪の出場権が従来通りの決め方ならば、23年春から五輪レースが始まる。レース開始時のポイントの高い大会の出場権やシードを得るには、22年春からの1年で世界ランクを上げる必要がある。しかも、コロナ禍で国際大会がどの程度開催されるかは、いまだ不透明。アピールの場は、限られる。だからこそ、焦りを見せていた選手もいる。女子ダブルスで準優勝した櫻本絢子(ヨネックス、26歳)は、鈴木陽向(NTT東日本、19歳)との即席ペアで奮闘した。21年シーズンに念願の日本A代表入りを果たしたが、パートナーの高畑祐紀子が現役を引退。今後が注目されている。
「陽向ちゃんが組んでくれて、決勝の舞台に立てたことが嬉しい。辛いときも周りの方が支えてくれた。結果は準優勝だったけど、最後まで諦めずに頑張る姿を皆さんに見せられたのは良かった。今後は、まだ決まっていない状況だけど、まだまだ諦めずに上を目指すことを証明したかったので、少しできたかなと思う」(櫻本)

櫻本絢子・鈴木陽向ペア

大会中は悩みを振り払ってプレーしていたが、今後の方針に触れると涙があふれた。女子ダブルスは、東京五輪に出場した福島由紀/廣田彩花(丸杉、28歳、27歳)、松本麻佑/永原和可那(北都銀行、26歳、25歳)が健在な上、志田千陽/松山奈未(再春館製薬所、24歳、23歳)もインドネシアで国際大会を2週連続で優勝するなど活躍中。3組が日本をけん引するが、最も日本勢の層の厚い種目だけに、次世代の台頭も期待できる。櫻本の動向も含めて要注目だ。

その女子ダブルスを含め、4種目で新たな王者が誕生したことは、パリ五輪に向けた底上げにつなげたい材料だ。女子ダブルスは、保原彩夏/宮浦玲奈(ヨネックス)。左・右のペアでスピード感のあるローテーションとアタックを見せて初優勝。初めての代表入りを決めた。主力不在の大会ではあったが、それでも日本王者になった事実は、新たな自覚を促す。保原は「次の大会で簡単に負けては意味がない。勝ち続けられるように頑張りたい」と話した。2月に熊本、東京で行われるS/Jリーグも、これまでとは違った気持ちで臨めるはずだ。代表入りで国際大会の経験も積める。宮浦は「2人で練習から厳しくやっていって、日本の中でも世界でも勝っていける選手になりたい」と22年シーズンの抱負を語った。

男子シングルスも新王者が誕生。決勝戦では、次代のエースの座を狙う2人がファイナルゲームにもつれる熱戦を展開した。勝ったのは、田中湧士(日本大学)。長身から繰り出す強打が持ち味だが、体のサイズを守備範囲の広さとして活用するような試合運びで丁寧なラリーを展開。最後は体力でも勝り、技巧派の奈良岡功大(IMG)を2ー1(14ー21、21ー17、21ー14)の逆転で破った。日本B代表だが、日本ランキングサーキットは初戦敗退。東日本学生選手権、全日本学生選手権でもタイトルを逃すなど精彩を欠いたが、今大会は1カ月ほど前から来春に加入するNTT東日本チームでトレーニング。「技術、体力、すべてにおいて自分より上の人たちがいる中で練習できたことがプラスになった」と手ごたえを示した。

田中湧士

混合ダブルスも日本B代表が躍進した。初優勝を飾ったのは、緑川大輝/齋藤夏(早稲田大学/ACT SAIKYO)。齋藤は「A代表がいない中、勝たないといけない気持ちがあったので、優勝できて良かった」と安堵の表情を浮かべた。同じくB代表の西川裕次郎/尾崎(正しくは右上が立)沙織(NTT東日本)が大会を棄権したこともあり、順当な勝ち上がりだった。まだ世界ランク83位だが、目標は24年パリ五輪の出場。緑川は「レシーブからの組み立てができていない。今回は、シャトルがあまり飛ばない環境だったが、相手のスマッシュが速くなるとまだレシーブができていない。個人としては、パワーが足りないとすごく感じている。飛ばない環境では何本打っても変わらず、展開を変えられない」と今後の課題を挙げた。

男子ダブルスは、第1シードで出場した高野将斗/玉手勝輝(日立情報通信エンジニアリング)が全試合をストレートで制して初優勝。決勝戦では日本B代表の井上拓斗/三橋健也(日本ユニシス)に競り勝った。玉手は「A代表がいない中、優勝しかないと考えて臨んだ結果が形に表れて嬉しい。日立にとっても初優勝で、2月のS/Jリーグに向けてチームにとってもプラスになる結果だと思う」と喜んだ。同種目では園田啓悟/嘉村健士(トナミ運輸)と2大会連続で五輪に出場した遠藤大由(日本ユニシス)が東京五輪で代表を引退。次世代の保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)が世界選手権で初優勝を飾って台頭しており、高野は「保木/小林選手が自信をつけてプレーしていると感じる。同じ世代ではあるので目標にして戦っていきたい」と刺激を受けていた。

コロナ禍で練習や試合の機会が減っていることは、若手の台頭のブレーキとなっている。今大会も世界トップレベルを体感できた選手は少ない。しかし、環境を言い訳にしてもいられない。「代表不在の全日本」も一つの糧にするべきだ。女子シングルスは、3連覇の女王からのメッセージに対する奮起が期待される。他種目では、新王者の看板を背負った選手の意識の向上、あるいはライバルにタイトルを奪われた選手の逆襲があるか注目だ。

文:平野 貴也
平野貴也

平野 貴也

1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。

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