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焦点はパントュローVS.オーダーマットの総合優勝争い。 黄金カップル、キルデ&シフリンの王座復帰なるかにも注目【アルペンスキー FIS ワールドカップ 2021/22 シーズン・プレビュー】
SKI GRAPHIC present’sアルペンスキーコラム by SKI GRAPHIC昨シーズン、悲願の総合優勝を果たしたアレクシー・パントュロー。連覇はなるか?
~今シーズンも本格派のスキーヤーに向けたスキーマガジン『月刊スキーグラフィック』とのタイアップでアルペンスキーFIS ワールドカップの見どころを紹介するコラムを定期的にお届けします~
まもなく開幕するAudi FIS スキーワールドカップ。連綿と歴史を積み重ね、今季で56回目の冬を迎える。果たして2021/22シーズンがどんな戦いになるのか、ファンにとってはわくわくする季節の到来だ。
まず、昨シーズンのワールドカップを簡単に振り返っておこう。
男子総合優勝争いは、序盤から快調に飛ばしたアレクシー・パントュロー(フランス)をマルコ・オーダーマット(スイス)が中盤以降激しく追い上げたものの、最後はパントュローが逃げ切るといった展開となった。彼にとっては、ワールドカップ13年目にして初の総合優勝。常にチャンピオン候補と言われていながら、なかなかクリスタル・グローブに手が届かなかったが、ついに頂点に立つこととなった。彼はもっとも得意とするGSで、3連勝を含む4回の優勝を記録し、また初開催のレッヒでのパラレルGSでも優勝。この結果、GSの種目別優勝も獲得。こちらも初のタイトル獲得となった。
そのパントュローにわずかに及ばなかったオーダーマットは、ダウンヒルからGSまでをカバーする準オールラウンダー。昨シーズンはGSで2回、スーパーGで1回優勝しており、ダウンヒルでも表彰台直下の4位を記録。彼にとって不運だったのは、シーズン前半に新型コロナウイルスに感染して、レッヒのパラレルGSを欠場したこと、そして、最終戦のダウンヒルとスーパーGがいずれも悪天候で中止となってしまったこと。もし、これらの不運がなかったとしたら、総合優勝のタイトルの行方はまた違ったものになったかもしれない。
勢いという点ではマルコ・オーダーマットがNo.1。新たなスター候補生としても注目
このふたりに続いたのは、マルコ・シュヴァルツ(オーストリア)。スラロームをもっとも得意とする彼は初の種目別タイトルを獲得。GSでの得点を加えて総合では3位と大きく躍進した。2回の優勝を含め10レース中7レースで表彰台に上った安定感は、チャンピオンの名にふさわしい活躍だった。
さて、2021/22シーズンはどんな展開となるのか?怪我などのアクシデントがない限り、パントュローとオーダーマットがタイトル争いの中心になることは間違いないと思われる。ともに、3種目で表彰台に上る力を持っており、安定感も抜群。確実にポイントを積み重ねるはずだろう。過去の例からいって、総合のタイトル争いに絡むためには少なくとも1,000点以上のポイントが必要。昨シーズンのパントュローは1,260点、オーダーマットは1,093点。1,000点を超えたのはこのふたりのみだった。ということは、上位入賞が可能な種目が3つあることが理想となる。あるいは2種目で圧倒的に強いか、プラスアルファでもうひとつ得点が期待できる種目を持っていないと難しい状況。そう考えると、1,000点を突破できそうな選手は、おのずと限られてくる。
ヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー)はそのひとり。昨シーズンの彼は総合6位に沈み、GS8位、スラローム6位と大方の予想を裏切る不振だった。とは言え、彼はまだ27歳。衰える年齢ではない。昨年の轍を踏むまいとしっかり仕上げてくれば、ふたたび総合チャンピオン候補に名乗りをあげることも充分に考えられる。
ノルウェーには、もうひとり有力な優勝候補がいることを忘れてはならない。一昨シーズンの総合チャンピオン、アレクサンダー・オーモット・キルデだ。昨シーズンはヴァル・ガルディナのスーパーGとダウンヒルを連勝。その他のレースでも確実に上位をキープしていたものの、キッツビュールのスーパーG前日に膝の前十字靭帯断裂のアクシデントで早々とシーズンを終了。連覇の夢はあっけなく潰えた。しかしその傷もほぼ癒え、完調とはいえなくても、そこそこのレベルで今季は復帰するはず。加えて私生活では、あのミカエラ・シフリンとステディな仲となり、これも彼にとっての強力なモチベーションとなることだろう。この2シーズン、王座から遠ざかっているとはいえ、シフリンも総合優勝3回の元女王。ふたりとも総合チャンピオンへの返り咲きに意欲を燃やしている。
一昨シーズンの総合チャンピオン、アレクサンダー・オーモット・キルデ。恋人シフリンとのカップル同時総合優勝はなるか?
1980年には、姉ハンニ・ウェンツェルと弟アンドレアス・ウェンツェル(リヒテンシュタイン)がワールドカップ史上唯一の姉弟同時優勝を果たしていますが、もしカップル同時優勝となれば、それに匹敵する快挙といえるだろう。
年齢と潜在能力という点で、もうひとりロイック・メイヤー(スイス)の名前をあげておきたい。オーダーマットと並ぶスイスのヤングガンで、毎年着実に順位を上げてきているスイス期待の星。ワールドカップでの優勝は、まだパラレルレースでの1回しかないものの、スラロームとGSで表彰台に上る力を持ち、さらにスーパーGでも上位入賞の狙える実力を持っている。タイプとしてパントュローと同じタイプのオールラウンダー。25歳という年齢も、今季の成長を予感させるに充分。ダークホースとして、ワールドカップを盛り上げて欲しい選手といえるだろう。
パラレル以外では優勝経験がないが、ロイック・メイヤーも侮りがたい実力を持つダークホースだ。
また、今シーズンの総合優勝を占う隠れたポイントとして、各種目のレース数に注目したい。2021/22シーズンは男女とも高速系が18レース(ダウンヒル11+スーパーG7)、技術系も18レース(GS8+スラローム10)と等しくなったためだ。従来は毎年、高速系の方が少なく、しかも悪天候による中止のリスクも高いため、どうしても、技術系レーサーの方が有利になっていた。しかし、この点が是正されたため、今季は、ほぼイコールコンディション。高速系レースの中止リスクは変わらないとしても、少なくともこれまでの不公平感は解消された。そしてこれはオーダーマットとキルデに有利に作用するのではないかと思われる。
日本選手についてもふれておかなければならない。
昨年は世界選手権GS18位と結果を残した加藤聖五だが、ワールドカップではまだ無得点。まずはその壁を破ることが最初のステップだ。
オープニングレース、セルデン(オーストリア)の男子GS第1戦に出場するのは、加藤聖五(野沢温泉SC)と小山陽平(ベネフィット・ワンSC)の23歳コンビ。男子の技術系種目ではFISポイントランキングが150位以内という規定があるが、日本選手でこのハードルをクリアしているのは、他に石井智也(ゴールドウインSC)のみ。ランキングでは石井のほうが小山より上位にいるものの、加藤、小山のふたりが強化指定選手であるのに対し、石井は国内強化選手、いわゆるウェイティングメンバーという位置づけのため、今回は小山がエントリーされた。ただし、今後の成績次第では、石井がワールドカップ出場のチャンスをつかむことも充分に考えられる。もちろん彼らだけに限らず、日本選手同士の競い合いが激しくなれば、さらにレベルは上がるはず。互いに高め合って、世界の壁を突き破る滑りを見せてほしい。
開幕戦を控えた、本番コースを使ったトレーニングでは、加藤が好調さをみせていた。タイムレースでは、各国の第1シードレーサーと互角以上に渡り合うタイムを連発。彼にとってセルデンの開幕戦はこれで3回目の出場。経験も積み、今回は自信をもってスタートできるはずだ。昨シーズンはわずか0秒18差で2本目進出を逃したが、まずはしっかりとクオリファイをして、ワールドカップポイントを獲得したいところだ。
小山陽平はスラロームでの日本人トップランカー。加藤同様2本目へのクオリファイを実現し、その先へ突き抜けてほしい。
これは、スラロームの日本人トップランカーである小山も同様。一昨シーズンは、シャモニーのスラロームで1本目24位。初の2本目進出を果たしながら2本目コースアウトでノーポイント。以来しばしば惜しいレースはあったものの、彼は1度もクオリファイしていない。間違いなくその力はあるだけに、あとはいかに落ち着いてレースに臨み、本来の滑りを完成させるか、真価が問われる今シーズン、彼のスラロームには大いに期待したい。
SKI GRAPHIC
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