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抜群の安定感でポイントを積み重ねるアレクシー・パントュロー。悲願のワールドカップ総合優勝へ着実に近づいている
2月8日イタリアのコルティナ・ダンペッツォでアルペンスキー世界選手権が開幕すると、ワールドカップは必然的に中断期間に入る。再開は2月27日。それまでの間、アルペンレースファンの視線は世界選手権に注がれることとなる。
シーズンを通して数多くの会場を転戦するワールドカップと、2年に1度の世界選手権。選手の顔ぶれはほとんど同じだし、勝つことの難しさも同レベルだ。しかし世界選手権は、その日その場所での一発勝負。そこには独特の緊迫感も漂うし、思いがけないドラマが生まれたりもする。今回はワールドカップ同様に無観客での開催。残念ながら会場が大歓声に包まれることはないが、2週間の間、毎日のように熱戦が続くことは間違いない。果たしてどのようなレースになり、誰がチャンピオンの座につくのだろうか。
というわけで、しばらくの間ワールドカップはお休みとなる。そこで、ここまでのワールドカップの流れを簡単に振り返っておこう。
男子の総合では、アレクシー・パントュロー(フランス)が大きくリードしている。シーズン序盤からトップに立ち、つねにポイント争いをリード。一時的にアレクサンダー・オーモット・キルデ(ノルウェー)に抜かれることはあっても、次のレースで抜き返すと、それ以降は首位の座をがっちりキープしている。毎年のように優勝候補にあげられてきたが、しかし総合のタイトルはまだ1度も手にしたことがないパントュロー。総合8連覇という大記録を持つマルセル・ヒルシャー(オーストリア)と同時代に生まれてしまった不運をもっとも強烈に味わったひとりといえるだろう。過去の総合順位では、3位が2回に2位も2回。これまで何度も掴みかけては掴みきれなかった悲願のタイトルは、今また手が届きそうなところにある。現在、2位とのポイント差は258点。大差のように見えつつ、けっして安全圏とはいえない。残りはまだ10レースもあり、計算上は逆転の可能性が残っている。
最大の強敵であった昨シーズンの総合チャンピオン、アレクサンダー・オーモット・キルデ(ノルウェー)は膝の前十字靭帯断裂のために戦線離脱したが、かわってスラロームで好調のマルコ・シュヴァルツ(オーストリア)が急追し2位に上がってきたし、GSからダウンヒルまで幅広く得点する力を持つマルコ・オーダーマット(スイス)の底力も侮れない。だが、それでもパントュローの優位は確かだろう。スラロームからスーパーG、さらにコンバインドで優勝経験を持ち、いざとなればダウンヒルでも得点できる総合力は図抜けているからだ。最強のオールラウンダー・過去のワールドカップ総合チャンピオンがしばしばそう呼ばれた称号に、今もっともふさわしいのは、アレクシー・パントュローをおいて他にいない。
世界選手権選手後に残されているレース数は、GSのみが4レースで、他の3種目はいずれも残り2レースずつ。種目別のランキングに見てみると、タイトルの行方はまだまだ予断を許さないが、スラロームだけは上位3人に絞られている。現在トップのマルコ・シュヴァルツ(オーストリア)とラモン・ツェンホイゼン(スイス)、セバスチャン-フォス・ソールヴォーグ(ノルウェー)だ。ただ、シュヴァルツとツェンホイゼンとの差は146点と大きく、残り2レースでの逆転はかなり難しいといわざるをえない。このままツェンホイゼンが逃げ切れば、もちろん彼にとっての初タイトル。31年間保持していたネイションズカップ(国別対抗)の王座を失っただけでなく、男女を通じてひとつもタイトルを取れなかったオーストリアにとっても、意義のある首位奪還となるだろう。
混戦が続いていた男子スラロームだが、マルコ・シュヴァルツが抜け出しタイトル争いをリード
さて日本チームだが、これまでのところ男子はワールドカップポイント獲得はおろか、誰も2本目に進んでいない。日本の男子選手のワールドカップポイント獲得は、2019年1月の大越龍之介(ウェンゲンのスラロームで22位)が最後だ。このままだと2シーズン連続で無得点という残念な結果になりかねない。おそらく加藤聖五(野沢温泉SC)がバンスコ(ブルガリア)とクラニスカ・ゴーラ(スロヴェニア)でGS3レース、小山陽平(日本体育大学)がクラニスカ・ゴーラのスラローム1レースに出場するだろう。シーズン序盤新型コロナ感染で出遅れた小山は、ようやくコンディションも整ってきて、シュラドミングでは2本目進出まであと0秒12秒差の31位にまで迫った。
小山陽平は1月からワールドカップに参戦。シュラドミングのスラローム第7戦では30位と100分12秒差の31位
年末に腰の痛みで休養を余儀なくされた加藤も、1月末にレースに復帰。GSのFISポイントを更新するなど調子を上げてきた。ワールドカップでの残されたチャンスは数少ないが、シーズン後半のふたりの奮起に期待したい。
腰痛のため3週間の休養を余儀なくされた加藤聖五だが、残るチャンスにワールドカップ初得点をかける
一方、女子では安藤麻(日清医療食品)がスラロームの種目別で現在29位。残り3レースの成績次第で、最終戦出場への可能性がある。最終戦は、通常のワールドカップとは違い、種目別ランキング25位以内という条件のある特別なレース。これをクリアすることがトップレーサーへの大事なステップともいえるだろう。安藤は現在3レース連続でポイントを獲得中で最高位は15位。25位以内というのは、充分に届く可能性がある。
GSでもポイントを獲得している安藤麻だが、今季中盤からスラロームに専念。最終戦出場をめざして残るスラローム3レースを戦う
J SPORTSでは、レンツェルハイド(スイス)で行なわれる最終戦の女子スラロームをライブ中継する予定。日本ではなかなか見ることのできない女子ワールドカップだけに、これは貴重なチャンス。ぜひテレビ画面を通じて、安藤のスラロームを応援しよう。
文・田草川 嘉雄
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