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AUDI FIS WORLD CUP 2020/21シーズンの男子ワールドカップ展望 コロナ禍のための変則スケジュール 絶対的本命の不在でタイトル争いは混沌
SKI GRAPHIC present’sアルペンスキーコラム by SKI GRAPHIC昨シーズンの総合チャンピオン、アレクサンダー・オーモット・キルデ。2連覇なるか?
今シーズンの男子ワールドカップは全39レースで行なわれる。その数自体は従来と大きなかわりはない。ただし新型コロナウィルス対策のために、スケジュールは大幅に変更された。例年11月半ばにレヴィ(フィンランド)で行なわれるスラローム第1戦がなくなり、レヴィでは女子スラロームが2連戦。そのため男子スラロームは12月21日になるまでワールドカップがない。その間、選手たちはFISレースやヨーロッパカップなどで調整するのだろうが、雪不足もあってトレーニング場所の確保には苦労しそうな状況だ。
そのかわり、1月に入ると男子スラロームは怒涛の過密日程。1月6日のザグレブ(クロアチア)を皮切りに月末のシャモニー(フランス)での2連戦まで、25日間で7レースという驚くべきスケジュール。この時期に調子が上がらなければ、スラロームは、ほぼ終了してしまう。いかに調子のピークを1月期に合わせるかの勝負となりそうだ。
また、いつもなら11月の下旬から12月はじめにレイク・ルイーズ(カナダ)、ビーバー・クリーク(アメリカ)と転戦する北米シリーズは中止となった。大陸間をまたいだ選手の長距離移動を避けるためだ。その分はヨーロッパで代替開催されるが、たとえばアデルボーデン(スイス)のGSやウェンゲン(スイス)のダウンヒルは、同一会場での2連戦となる。それが選手の滑りにどう影響するのか興味深い。
このように、極めてイレギュラーな日程で行なわれる2020/21シーズンのワールドカップのだが、日程以上に大きな影響がありそうなのが、アルペン・コンバインドが1レースも行なわれないことである。2月のコルティナダンペッツォ世界選手権では男女ともにアルペン・コンバインドが日程に組み込まれているものの、ワールドカップでは皆無。これは、総合優勝争いに大きく左右するはずだ。たとえば昨シーズンは3会場でアルペン・コンバインドが行なわれており、総合優勝のアレクサンダー・オーモット・キルデ(ノルウェー)は172点を獲得し、総合2位のアレクシー・パントュロー(フランス)にいたっては280点の荒稼ぎだった。彼らのように、高速系と技術系の両方にまたがって活躍するオールラウンダーは、アルペン・コンバインドも重要な得点源としていて、総合優勝争いにおいて大きなアドバンテージとなる。しかし、これがないとなると、様相が相当変わることだろう。具体的には、スラロームとGSに強いヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー)や、高速系専門のベアト・フォイツ(スイス)のようなスペシャリストにもチャンスが生まれてくると思われる。彼らが自分の得意種目でしっかりポイントを重ねることができれば、大クリスタル・グローブ獲得へぐっと近づくだろう。
毎年総合優勝の候補にあげられるアレクシー・パントュロー。今季こそタイトルを手にすることができるか
ただし、そうなったときに鍵になるのが、種目ごとのレース数。ダウンヒルとスーパーGの高速系種目は合計16レースなのに対し、技術系は22レースもあり、これは明らかに技術系寄りの選手に有利なのだ。これらを総合して考えると、今季の男子総合優勝の本命は、クリストッファーセンと予想しておこう。そしてもうひとり気になる存在が、セルデンで行なわれた開幕戦のGSを制したルーカス・ブローテン(ノルウェー)だ。昨シーズンの急成長ぶり、そしてその勢いを持続してのワールドカップ初優勝と、現在乗りに乗っている21歳。GSのみならず、スラロームでの実力も1本目のベストタイムをとった昨シーズンのキッツビュールですでに証明済みだ。したがって彼の成長曲線がこのまま続くとしたら、スラロームの初優勝も近いだろうし、一気に総合優勝争いに食い込んでくる可能性も充分に考えられる。いずれにしても、今シーズンの戦いが楽しみな選手であることは間違いない。
技術系2種目のディフェンディング・チャンピオンとして戦うヘンリック・クリストッファーセン。本来の力を発揮すれば総合優勝の可能性も高いはず
次に種目別のタイトル争いを予想すると、まずスーパーGでは昨シーズンのチャンピオン、マウロ・カビエッツェル(スイス)が怪我のため今季は絶望的。空位となった王座に誰がつくのか。順当ならば昨年2位のヴィンセント・クリーヒマイヤー(オーストリア)だろう。しかし、マティアス・マイヤー(オーストリア)やアレクサンダー・オーモット・キルデ(ノルウェー)、マルコ・オーダーマット(スイス)ら実力者がひしめいており、タイトルの行方は混沌としている。
ダウンヒルは、3年連続ダウンヒルチャンピオン、フォイツの4連覇なるか、昨シーズン中盤までリードしてたものの怪我で戦線離脱したドミニク・パリス(イタリア)がふたたびその強さを取り戻せるかが焦点。実力的にはほぼ互角なだけに、パリスの回復具合が鍵を握るだろう。また昨シーズン2勝をあげているトーマス・ドレッセン(ドイツ)にも注目。まだ無冠だが、高速系ではそろそろ円熟期に入る27歳。初のタイトル獲得に向けて意欲を燃やしている。
初のタイトル獲得に燃えるトーマス・ドレッセン
一方の技術系種目では、GS・スラロームともにディフェンディング・チャンピオンのクリストッファーセンがタイトルを防衛できるかが焦点だ。昨シーズンは勝てるレースを落とすケースが目立ち、彼自身あと一歩で勝ちきれないことに苛立っていたことも事実。メンタル面も含めて、もう一度自分の滑りを立て直すことが必要かもしれない。そのクリストッファーセンを中心に、スラロームではクレモン・ノエル(フランス)、ダニエル・ユール(スイス)、GSではジャン・クラニエツ(スロベニア)フィリップ・ズブチッチ(クロアチア)がタイトル争いにからむだろう。もちろんベテラン、パントュローも黙ってはいないはず。彼は、男子では現役最多のワールドカップ通算29勝を誇るトップレーサー。にもかかわらず、まだコンバインド以外の単独種目では無冠なだけに、意地を見せたいところだろう。
文・田草川 嘉雄
SKI GRAPHIC
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