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2連覇中の宇野昌磨
2連覇中のディフェンディングチャンピオンと、今季を席巻した3人の挑戦者。宇野昌磨(日本)に、グランプリファイナル覇者イリア・マリニン(アメリカ)、欧州選手権2連覇のアダム・シャオ・イム・ファ(フランス)、そして四大陸選手権覇者の鍵山優真(日本)の四巴バトル。もちろん2024年世界選手権の表彰台に登ることができるのは、4人のうち3選手だけなのだ。
四者四様。4人はそれぞれに異なる長所を持ち、異なる魅力を放つ。
ジャンプの面では、間違いなく、マリニンこそが最強だ。GPファイナルではショートプログラムに4回転アクセルを組み込み、世界中を驚嘆させたのはもちろん、フリースケーティングでは史上初めて4回転を6種類飛んだ。パーソナルベストを塗り替え、今シーズンの男子シングル最高得点314.66点を打ち立てた。
ただFS冒頭の4Aだけは惜しくも転倒。つまり前述の得点に、少なくとも、GOE出来栄え点マイナス分(6.25点)と転倒による減点(1点)を上乗せ可能ということ。しかも19歳の「クワッドゴッド」は、ジャンプだけに留まっているつもりはない。1年前のさいたまワールドで銅メダルを獲得して以降、PCS演技構成点だけで5点近くもアップ。まだまだマリニンの伸びしろは大きい。
圧倒的なフィジカルならシャオ・イム・ファ。骨太のどでかい4回転ルッツを武器に、GPフランス杯ではPB306.78点をマークし、マリニンを退け優勝をもぎ取った。調子の波が大きいことだけが玉に瑕。特にSPが少々苦手で、同じく表彰台候補に挙げられていた昨ワールドやGPファイナルのように、とてつもなく出遅れてしまうことも多い。
振付師ブノワ・リショーの描き出す不可思議な世界も、シャオ・イム・ファをよりいっそう特別なものにしている。ステップやスピンでレベルを取りこぼすことは滅多になく、中でも激情ほとばしるダイナミックなステップシークエンスは、いつだって会場全体を熱狂で包み込む。
鍵山優真は貪欲なる質の求道者。端正なスピンやステップ。雑味のないスケーティング。まるで脚に羽が生えているかのようにふわりと飛び上がり、着氷の衝撃をちっとも感じさせない柔らかなジャンプ……。GOE出来栄え点加点やPCS演技構成点を確実に積み上げることで、高得点をたたき出す。しかも故障からの復帰シーズンとなった今季、カロリーナ・コストナーに師事し、表現の幅が広がり、氷上に描き出す物語がさらに豊かになった。
今の鍵山は、「勝ち」への強いこだわりも、隠そうとはしない。新しい武器の開発にも着手し、初のISU選手権タイトルを得た四大陸では、4回転フリップに公式戦初トライ。残念ながら着氷で乱れがあったものの、回転は最後まで「締め切れた」と、手応えは十分。世界選手権では、完成形を披露してほしい。
こんな3人の後輩たちの躍進が、宇野の心を刺激した。昨シーズンは全戦全勝を貫き、大本命としてワールドへ乗り込み、前評判通りに2連覇を果たし……もしかしたら宇野にとっては少し退屈だったのかもしれない。「今後どういう形でスケートをやっていくのか分からない」と漏らし、ジャンプの難度や結果にこだわるのではなく、ひたすら自分自身を感動させるような表現力を磨き上げていきたい……そうも語った。
ところが状況は大きく変わる。今シーズン参戦した国際大会3戦で、上記3選手に、世界チャンピオンは打ち負かされた。初戦GP中国杯ではシャオ・イム・ファに、NHK杯では鍵山に、そしてGPファイナルではマリニンに。追われる側ではなく、追いかける側になり、それが宇野のモチベーションに再び火をつけた。全日本は意識的に「勝ち」に行き、6度目の制覇を果たした。
来る世界選では「競技人生最高の演技をしなくては勝てない」と、宇野は理解している。単純にPBの比較では、マリニンに約2点及ばない。今季いまだ300点に到達していない宇野に対して、アダムは306.78点を、鍵山は307.58点を記録している。だからこそモントリオールでの宇野は、表現力も、ジャンプも、もちろん結果にも強くこだわる。世界の頂点に2年連続で登り詰めてもなお、新たな高みを目指す。
昨季の四大陸王者にして世界ジュニアチャンピオンの三浦佳生(日本)もまた、初出場の世界選手権で、表彰台に飛び乗るポテンシャルを有している。速く・大きく・力強いジャンプが魅力だが、そのジャンプ構成を状況に合わせて柔軟に組み替え、プログラムを最適化していけるのも三浦の強みのひとつかもしれない。シーズン序盤のFS冒頭には3回転アクセルからのコンビネーションを入れることが多かったが、GPファイナルでは4回転ループを飛んだ。そして2月のタリンク・ホテルズ・カップでは、さらに4回転フリップに入れ替えた。モントリオールの氷の上では、三浦はどんな選択をするだろうか。
1年前のさいたまで銀色に輝いたチャ・ジュンファン(韓国)も、決してメダル候補から外すことなどできない。今季は故障に苦しんできたが、「世界選への調整代わり」に出場した四大陸で、堂々の銅メダル。つまり確実に1カ月半前よりも仕上がった状態で、大会に乗り込んでくる。ジェイソン・ブラウン(アメリカ)の研ぎ澄まされた至高の演技からだって目を離せないし、デニス・ヴァシリエフス(ラトビア)やロマン・サドフスキー(カナダ)は、4回転ジャンプとはまた異なるフィギュアスケートの美しさを我々に教えてくれるはずだ。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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