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ディフェンディングチャンピオンの坂本花織が日本女子選手として初めての世界選手権3連覇に挑む | ISU世界フィギュアスケート選手権2024 女子シングル プレビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部ISU世界フィギュアスケート選手権2024 女子シングル
日本女子選手として初めて、浅田真央が世界選手権3勝を達成してからちょうど10年。日本女子選手として初めての世界選手権3連覇に、坂本花織が挑む。今シーズン初戦を除き8連勝中のディフェンディングチャンピオンに、不安要素はない。
坂本が最後に「1」番以外の順位で終えたのは、8月のげんさんサマーカップにまで遡る。フリースケーティングを競技会仕様で滑ったのは、正真正銘このときが初めてで、いまだ身体も気持ちも仕上がっていなかったせいだった。あれ以降、王者として堂々たるパフォーマンスを披露してきた坂本に、一度だけ小さな「2」がついたこともある。それが2月末、チャレンジカップのショートプログラム。3回転ルッツ予定が2回転に抜けノーバリューとなった。ただFSではきっちりと巻き返しーー1つ転倒はあったもののーー、最終的に1位の定位置についた。
たしかにシーズン前半の坂本の得点表には、ときにジャンプの横に回転不足やエッジ違反を示す小さなマークや、ときにはスピンの横に要求事項が満たされなかったことを意味する「V」が記された。GPファイナル初制覇を果たす頃には、悩ましい記号はきれいさっぱり消えていた。
異次元のスピードと、そのスピードをまったく落とさぬままに飛び上がる巨大なジャンプはもちろん、坂本は自分らしい等身大の表現力で評価を積み上げてきた。今季SPは生まれて初めて自らで選曲した「Baby, God Bless You」で躍る。25歳の成熟した女性の、柔らかい母性が、一つ一つのムーブメントからにじみ出す。一方のFS「Wild is the Wind/Feeling Good」はクールに、シックに。SPジェフリー・バトル、FSマリーフランス・デュブレイユと、いずれも世界選開催国カナダの振付師の作品だ。
3連覇は決して簡単ではない。女子シングルでは、ペギー・フレミング(アメリカ)が1966年から1968年まで優勝して以来、一人として3年連続で世界の頂点を独占したものはいない。だからこそ、もしも2024年モントリオール大会で坂本が金メダルを獲得できたとしたら、それは間違いなく歴史的偉業なのだ。
すでにベテランの域に入った坂本とともに日本を代表するのは、初出場18歳の2人。今季のGPファイナルで、坂本と揃って3位表彰台乗りを果たした吉田陽菜と、全日本選手権で坂本に次ぐ2位に飛び込んだ千葉百音だ。
吉田は3回転アクセルという大きな武器を持つ。ただ本格シニア転向の今季、その3Aにもがいている。国内大会ではクリーンに認定されるが、国際大会では、常に多少の回転不足を取られてしまうのだ。GPファイナルのFSでもやはり、小さな「q」(4分の1回転不足)マークがついた。
だから初めての大舞台に向けて、吉田は作戦を変更した。SPは柔軟に。調子によってはためらわず大技を封印する。全日本まではSP・FSともに冒頭に3Aを組み込んできたが、GPアメリカ杯SPで1回転しか効かせられず、ノーバリューとなった苦い経験がある。2月半ばのタリンク・ホテルズ・カップは、すでに2A構成に変えている。一方のFSは3Aを飛ぶ決意。2月のISUアワードで「最優秀新人賞」に選ばれた吉田には、失敗を恐れず挑戦する権利がある。
2月上旬の四大陸選手権を制したことで、千葉も一気に世界トップスケーターの仲間入りを果たした。ノーミスで2本揃え、パーソナルベストを9点以上も更新。今季に限れば坂本、ルナ・ヘンドリックスに続く上から3番目の得点だ。またワールドスタンディングが23位から13位へとジャンプアップし(今大会参加者としては10位)、おのずと今大会の滑走順も最後から2グループ目へと浮上する。
千葉本人の自信も大きく跳ね上がった。凄まじい緊張と疲労に負けず、全力で戦い、伸びやかなスケーティングや精緻なジャンプを余すところなく披露したのだから。初めての世界選手権でもきっと緊張するだろう。四大陸チャンピオンとしてのプレッシャーも感じるかもしれない。ただ上海で示した強いメンタルがあれば、モントリオールでも素晴らしい滑りができるはずだ。
大本命としての緊張感にとうとう打ち勝って、ルナ・ヘンドリックス(ベルギー)はこの1月に初の欧州選制覇を成し遂げた。すでに過去2大会連続で世界選表彰台に上がり、GPファイナルでもやはり2年連続メダルを持ち帰った24歳。長い手足を活かした、力強くゴージャスな演技で、世界でもトップの座に上り詰められるか。またフィギュアスケーターがいまだ数えるほどしか存在しない西欧の小国ベルギーから、ヘンドリックスとともに欧州表彰台に登ったニーナ・ピンザローネも、美しきサプライズを改めて演出してくれるに違いない。昨季優勝、今季2位と2年連続で欧州表彰台に登り、実力者としての揺るぎない地位を築いたアナスタシア・グバノワ(ジョージア)も、2年前の6位以上の成績を追い求める。
いまや日本と肩を並べる女子強豪国・韓国の3選手もまた、いずれ劣らぬ表彰台候補。1年前に銀メダルをつかんだイ・ヘインは、今季はいまだ思い通りの結果が出せていない。特に2連覇をかけた四大陸では精神的に揺らぎ、まさかの11位終了。気持ちを立て直し、世界選では持ち前の伸びやかなパフォーマンスを見せてほしい。昨季後半のシニア参戦直後から、安定した演技で着々と評価を上げているキム・チェヨンは、直前の四大陸で2位メダル獲得。昨ワールドはFS3位でスモールメダルを持ち帰ったが、今回は大きなメダル獲得も十分にありえる。ユー・ヨンは3年ぶりのワールド出場。今季は目立つ成績は残せていないものの、繊細な表現力には定評が高い。2シーズン前までの調子を取り戻せていれば、上位入りのポテンシャルはある。
勇敢に挑戦し続けてきた3回転アクセルを、今季GPアメリカ大会FSでついに成功させたアンバー・グレン(アメリカ)は、間違いなくキャリア最高の波に乗っている。全米選手権でも3Aを決め、長年追い求めてきたナショナルタイトルにも手が届いた。1年前の初ワールドは満足な演技ができず12位に甘んじたが、2度目の今年は、イザボー・レヴィトとともに、アメリカ女子に3枠をもたらす準備はできている。そのレヴィトは、3度の転倒を喫し、苦しかった全米FS以来の試合となる。繊細な17歳は今シーズンどうも調子を安定させられずにいるが、輝かしい勝利を手にしたGPフランス大会のときのように歯車さえピタリとあわせられれば、表彰台は決して夢ではない。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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