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2024年2月4日-6日の日程で、長野県長野市、ビッグハットにて第44回全国中学校スケート大会、フィギュアスケート競技が開催された。昨年から有観客開催に戻ったこの大会だが、今年は観客が増え、地元の子供達の観戦も多く、賑わいが戻ってきた印象だ。今年の男子シングルは有力メンバーが揃い、白熱した試合となった。ユース五輪に出場した中田璃士が欠場したことは残念だったが、それ以外の主だった有力選手は揃って出場していた。入賞した上位8名の選手を全員ご紹介したい。
1位 西野太翔
西野太翔
ショート、フリーともに1位、文句なしの優勝だった。演技の印象からは天才肌の自信家のように想像していたのだが、話してみると反省の弁が多く聞かれた。やはり今季、ショート、フリーを揃えられない試合が多かったため、この全中ではノーミスを揃えることにこだわっていたようだ。
「全日本ジュニアでは失敗してしまったので、ジャンプを降りても最後まで気を抜かないように気を付けて練習してきました」
全日本ジュニアのショートでは、ジャンプをすべて降りながら続くコンビネーションスピンを失敗、大きく出遅れる原因となってしまった。今回はシーズン最終戦にしてようやくまとまった演技ができた格好だ。
「ショートは一つ失敗してしまうと順位、点数がすごく下がってしまう、という意識がありました。でもたとえ失敗したとしても諦めずに最後まで頑張る、ということができるようになりました。メンタル面で進歩できたのかなと思います」
苦手意識から緊張を覚えていたショートをようやく克服しつつあるようだ。それには「トリプルアクセルという武器を手に入れた」という自信の裏付けも影響しているのだろう。
フリーでは初のトリプルアクセル2本の構成に挑み、両方ともクリーンに着氷することができた。ジャンプのミスはあったのだが、それでも文句なしの優勝だった。
「アクセル2本は決められたんですけど、それで油断してループを失敗してしまいました。今後はこういうことのないようにしたいです。優勝はしたんですけど、自分の力を最後まで発揮できずに点数も伸びなかったので、次の大会まで完ぺきにできるようにしたいです」
なかなか自分に厳しい。ループのミスについては佐藤操コーチから『油断してたんじゃない?』と言われたそうだが、今回の会場の氷が硬かったことも影響していたように思う。
「来季は4回転をプログラムに組み込むことを考えているので、それをちゃんと試合一つ一つ、完ぺきな演技を続けられるようにしたいです。4回転サルコウは練習ではまあまあな感じです。4回転トウループはまだやってないんですけど、できるようにしたいです。4月のリリーカップ(神奈川県大会)で4回転を組み込んで、6月のジュニアグランプリ選考会で選ばれるように努力していきたいです」
高い目標を掲げて新シーズンに挑む西野選手に、一層の期待が高まる。プログラムについて「将来、一度はクラシック系をやってみたい」とも話してくれた。今でも表現力の豊かな選手だが、更に新しい面を見せてくれることだろう。
2位 岡崎隼士
岡崎隼士
全日本ノービスAクラスの覇者が、年齢を感じさせない卓越した演技で2位に入賞した。
「ショートは緊張していました。初めての舞台だったので、自分の納得する演技ができて良かったと思います。皆さんすごい上手なので、自分も上手な人たちの雰囲気に負けないように、と。今回はジャンプを跳ぶ前に一回深呼吸して跳ぶようにしました。ジャンプの回転をしっかり回ること、スピンのポジションを一つ一つしっかり取るように心がけました」
ノービスの選手はショートプログラムに慣れておらず、緊張してミスをする選手が多いのだが、岡崎選手にはそういった様子が見られなかった。
「初めてだから、楽しむことを考えて、自分の全力を出そう、と考えて臨みました。始まる前は緊張しましたけど、緊張は少ない方だと思います」
ノービスからの挑戦でショートプログラム62.04はかなりの高得点だ。
「思ったより出たと思います。ノービスの時よりも回転がクリーンになっていると思いますし、表現もレベルアップしたと思います」
岡崎選手の演技をご覧になった方なら一様に感じることと思うが、演技の表現、所作など明らかに羽生結弦リスペクトな様子だ。よほど好きなのだろうか、聞いてみた。
「すごい、憧れです。スケーティングが深いじゃないですか。スケーティングをどれだけ深くできるか、真似してやっています」
彼の演技の素晴らしいところは、羽生結弦さんに憧れて真似たという深いエッジワークに加え、その上に上半身の表現が乗っているところだ。ノービス年代でこれが出来る選手はそうそういない。だからこそ今回、高く評価されたのだ。
「上半身だけでは駄目だと思うし、林先生にもそう言われて、自分でもそう思うので、下半身と上半身が連動していないといい点数が出ないと、自分の中では考えています」
現在、林祐輔コーチに師事している。「本格的にメインコーチになったのは去年から」とのことだ。現在はトリプルアクセルを教わっており、「もうあと降りるだけ、のところまで来ています」と頼もしい言葉を聞かせてくれた。
翌日のフリーは素晴らしい出来栄え。演技終了と同時に力強いガッツポーズを見せてくれた。
「緊張してガチガチになっていたんで、いい演技ができて良かったです」
フリーのスコアは124.14。ノービスの選手でこの点数はすごいの一言。将来に向けて手ごたえを掴めた大会になったことだろう。
「本当にもう、自分でもびっくりしています。期待以上でした。来季はトリプルアクセルを、完ぺきに跳べるようになったら入れようと思います」
林コーチの下、基礎から技術をしっかり身に着けていることが良く分かる演技だった。放送、配信で彼の演技をご覧になる方には是非注目していただきたい箇所がある。2A+3T+2Tの3連続ジャンプ、最初のダブルアクセルを小さく抑えて跳び、二つ目の3トウループを大きく跳ぶ、いわゆる“アクセルトウ”のお手本のような跳び方。いかに基本に忠実に良く練習しているかが伝わってくるエレメンツだった。また、インタビューでも大人びた受け答えの様子に驚かされた。まるでメディア向けのキャラクターを確立しているかのようだ。彼には無限の可能性がある。来季、そしてさらに先の活躍がますます楽しみになった。
3位 武田結仁
武田結仁
急成長、などとありきたりな言葉では言い表せない。ほぼノーマークの存在から一気に表彰台を勝ち取った。今季、東北・北海道ブロックで優勝しているが、その時のスコアが154.39。それが今回は181.21で3位入賞だ。シーズン中にここまで伸びる選手はなかなかいない。その理由には環境の変化がフィットしたことが大きかったようだ。
「今は北海道にいます。11月に新潟から移りました。北海道に移ってからの指導が僕に合っていたようです」
今回、所属こそ新潟県の中学校になっていたが、実際には北海道を拠点としているそうだ。指導がはまったことに加え、プログラムの方向性を変えたことも効を奏したという。
「ここ何年か明るい曲を滑っていなかったんです。『明るい方が似合うよ』と言われてプログラムの曲調を変えてみました」
以前、新潟県連所属だった頃にも演技を見たことがあるが、今回ほど印象深い演技の記憶はなかった。ブロック大会のディティールを今回と比べてみると、PCSが飛躍的に向上していた。エレメンツ以外の部分での評価が上がっているのだ。
「来季の目標は、スケーティングがあまり上手くないので、ここを上手にして、ジャンプも安定させて、トリプルアクセルや3+3に挑戦したいです」
例えばジュニアグランプリなどは目標にしていないのだろうか?尋ねてみたところ、全くの想定外だったようで。
「えー!?うーん、でもずっと180点に行ってみたくて、今回取れたから、来季は全日本ジュニアでできるだけ上位に行きたいです」
あまりにも急激なスコアの伸びに、まだ目標設定も追いついていないようだが、今回のようなパフォーマンスを続けることができたなら、当然新たな道も拓けるはずだ。楽しみな選手がまた一人現れた。期待したい。
4位 花井広人
花井広人
ショートプログラムでは64.43の高得点で2位につける素晴らしいパフォーマンス。「60点を目標にしてきたので嬉しい」と語っていたのだが、フリーでは失速。悔いの残る試合となってしまった。ただ未完成のトリプルアクセルに挑むというミッションがあり、その結果としての失速なので、仕方のない面もあるように思う。
「トリプルアクセルに挑戦して失敗して、そこで動揺してしまいました。緊張した心のまま次のジャンプに行ってしまって、気持ちを切り替えることができませんでした。今回の目標は表彰台でした」
あと一歩届かなかったのだが、そのパフォーマンスはとても印象深いものだった。元より滑らかな滑りが持ち味ではあったのだが、最近はスケーティングの中に技がある状態になってきている。
「松田悠良先生に、『スケーティングを頑張れば、たとえジャンプでミスをしても点数が出るよ』と言われたので、しっかりスケーティングを見せてからジャンプを跳ぶようにしてきました」
今回掲載した写真、イーグルの場面なのだがエッジの倒し方がえぐい。かつて同じクラブに在籍した壷井達也選手を彷彿とさせるものを感じたのだが、スケーティングでお手本にしている選手について聞いてみたところ、
「スケーティングは山本草太選手を意識しています」
と、これまた同じクラブのOBの名前を挙げてくれた。
「もっと自信をつけられるように練習をしていきたい。来季は試合でトリプルアクセルを決めて、全日本ジュニアで8位以内に入って全日本に出たいです」
十分達成可能な目標だが、そのためにはトリプルアクセルの完成が必要になるだろう。あともう少し。頑張ってほしい。
5位 蛯原大弥
蛯原大弥
5位入賞は蛯原大弥。昨年が4位だったため、今年は表彰台に立ちたいところだったが叶わなかった。ただ全体的には、昨年よりもずっと上手になっている。あとは安定感だけだ。
「今年はとにかくスピン、ステップ、スケーティングをやろうと決めていました。昨シーズンまでは自分はジャンプを跳ぶだけだったので、今期はそこを直そうと、ジャンプを失敗しても点数の出る選手になりたいという思いで練習してきました」
“ジャンプを跳ぶだけだった”というのはさすがに謙遜し過ぎのように感じるが、確かに今季、スケーティングの上に様々な要素が乗るようになってきた印象だ。
「色んな方から、本当に成長したね、と言ってもらえるので、成長したのかな、と感じています。自分で昨シーズンの演技を見返すことがあるんですが、こんなに下手だったのか、こんなに途切れ途切れにやっていたのか、ということを感じるので、練習してきて良かったなと思います」
このような意識改革には何かきっかけがあったのか、聞いてみた。
「一番は、(2022年の)全日本ジュニアでショート落ちという悔しい結果があって、ジュニアのトップの人達との差を痛感しました。昨年の全中も、4位にはなりましたけど上の3人とは違うな、と。それはジャンプだけでなく、スケーティングやPCSの部分が全然違うんだな、ということを改めて自覚させられたので、それが一番大きかったと思います」
ショート3位と好発進した蛯原選手だったが、フリーでは崩れ、総合5位となった。
「いつも通りの演技ができなくてすごく悔しいです。いつもしないミスをしてしまったので、何があったのか分からないな、という思いで一杯だったんですが、先生と話して原因も分かったので、今後はこういう演技をしないようにしたいと思います。今日はスケーティングが安定しなくて、重心が前後にぶれて、氷にしっかりと力が伝わっていなかったことが原因だと教わりました」
練習では好調に見えただけに、意外な、そして残念な結果となってしまった。
「全然不安はなくて、練習も調子良く、6分間も良かったんですが、なかなか思い通りに行かないです。今季はいいシーズンを送れたと思うんですが、最後の最後にこういう演技をしてしまうことは本当に良くないと思います。これでは成長を示せないので、来季に向けて、自分の足りないところを今回学ばせてもらったので、しっかり練習したいです」
昨年の全中での取材では、「全日本ジュニアで8位以内に入り、全日本に出たい」と目標を話してくれていた。その目標を叶え、ジュニアグランプリでも表彰台に立つなど結果を出せたシーズンとなった。今回は目標を達成できなかったが、この悔しさをバネに来季に生かそうという姿勢が顕著に見えた取材だった。
6位 高橋星名
高橋星名
昨年は1年生にして2位と大健闘を見せた高橋星名だが、今年は6位となった。
「ショートで出遅れて不安と緊張で一杯でした。でもフリーはミスもありながらも全力を出し切れました。練習ではトリプルアクセルを2本降りられているんですけど、試合で成功できないパターンが多いので、試合で決められるように本気で練習したいと思います」
今回の高橋星名は、ショートプログラムで二つのジャンプをミスという、彼にしては信じられない出遅れとなった。安定感に秀でた選手だけに、ショート2ミスは記憶にないほどだ。この展開はさすがに想定していなかったようで「演技中に気持ちを落ち着かせるのが大変だった」と率直に語ってくれた。フリーではトリプルアクセル2本の構成に果敢に挑戦。1本目は降りたものの2本目で転倒してしまった。ただ大きなミスはこの一つだけ。全体的には上手くまとめ、ショート14位から大きく順位を上げた。
「来季は4回転を試合で入れたい」
そう強く宣言してくれた。今季、彼にしては珍しく不安定な試合が続いたのだが、これは4回転ジャンプを練習したことが影響しているようだ。ありがちなのだが、1回転多い回転数のジャンプを練習することで、それまで跳べていたジャンプが崩れてしまうのだ。彼も現在、トリプルが崩れている状態だ。「4回転を練習していると、トリプルをどのタイミングで降りたらいいのかが分からなくなります」と話してくれた。
「4回転はサルコウとトウループを一日に10回は練習しています。回転は回っているので、あとは着氷だけです」
その口ぶりは、確固たる自信を伺わせるものだった。来季はおそらく試合の構成に組み入れてくることだろう。来季は以前のような、安定感抜群のパフォーマンスが再び戻ってくることを期待したい。
7位 田内誠悟
田内誠悟
昨年の覇者が、今年は苦しんだ。満身創痍でフリーまで滑り切ったのだが、そのパフォーマンスは納得のいくものではなかった。ショートプログラムでは二つのジャンプがノーバリューとなる乱調だった。
「内容としては全く良くない。試合前もすごく不安だったのでそれが出てしまったかなと思います。国体(国スポ)の時に右足の靴が壊れてしまい、そのまま練習していたんですけどうまくいかず、その状態でループを跳んだ時に腰を故障してしまいました。国体から何も練習を積めてこれなかったことが悔しいです。今日の公式練習で、国体以降初めて3+3が跳べた感じです。最後の全中なのでいい状態で臨みたかったんですけど、どうしようもできなかったことが悔しいです。フリーもまずは出場するかしないかをこれから先生と考えて、出場するようであれば諦めずに最後まで滑りたいです」
ショート直後には、フリーの棄権を示唆するほど状態が悪かったようだ。結局、棄権は回避し、無事にフリーを滑り切ることができた。
「腰の痛みはだいぶ良くなって、ほとんど痛みなく臨めたんですけど、やっぱり怪我があると気持ちの面で弱さが出てしまっていました。去年いい結果だったので、少し試合に出ることが怖いと思ってしまっていました。今の気持ちはすっきりしているんですけど、でもやっぱり悔しい気持ちの方が徐々に大きくなってきています。試合に出るからには勝ちにこだわっていきたいので、今生まれてきている悔しい気持ちを次に向けてつなげていきたいです」
この春から高校生になる。中京大中京高校へ進学するため、既に中京大学のリンクで練習をしているそうだ。
「リンクで(山本)草太君、(鍵山)優真君と練習する機会が増えたんですけど、二人は高校生の時に筋力が伸びて成績も伸びたと言っていました。そして二人とも高校1年で全日本ジュニアを優勝しています。自分も高校生になるので、同じように結果を出したいです。ジュニアグランプリでいい結果を出して、来季こそファイナルに進みたい」
中京の先輩方からの刺激を、自分の力につなげたいとの思いで練習に励んでいる様子だ。まずは怪我を治して、来季は素晴らしいシーズンにしてほしい。
8位 森遼人
森遼人
8位に入賞したのは森遼人。演技後、時間が経ってから入賞が確定したため、既にコスチュームから着替えた状態で取材対応をしてくれた。
「あまり納得のいく演技ではなかったです。全日本ジュニアの時の中学生の中での順位からして、入賞ぐらいかな?と予想していました」
入賞は果たしたものの、特に嬉しさを見せるでもなく、淡々と語ってくれた。本当はもっと良い演技ができたはず、との思いが強かったのだろう。
「このリンクにもあまり慣れていなくて、結構硬い印象で、スケーティングも滑っていて端っこに行ってしまったり、ジャンプも後ろに跳んでしまったり、あまり良くなかったところが課題です。ショートで緊張してしまったので、いい感じの緊張感で試合に臨めるようにしたいです。トリプルアクセルが最近いい感じになってきたので、次の試合までにトリプルアクセルと3+3を試合で入れられるようにしたい」
元々はアクアリンクちばで練習をしていた選手。その頃に全日本ノービスBクラスで優勝している。2022年、北海道で開催された全日本ノービスの後にMFアカデミーに移籍したとのこと。移籍後まだ1年ほどだが、格段に上手になっている。特に滑りや表現が丁寧になった印象だ。指導に関しては、中庭コーチがジャンプだけでなく、スケーティングも指導してくれているとのことだ。「指導が分かりやすい」と語ってくれた。ただ練習では上手になってきているものの、試合でかみ合わないことがあることが今後の課題だ。これについては「緊張が主な原因」と分析していた。来季の目標については、
「175点は出して、トリプルアクセル、3+3も試合で決めたい。とりあえずは全日本選手権に出られるぐらいになりたいです」
控え目な目標のように感じるが、上手く歯車がかみ合えばさらに上方修正することも出来るだろう。本人の言う通り、まずは全日本ジュニアで8位入賞、全日本出場を実現させてもらいたい。
文:中村 康一 / Image Works
中村康一(Image Works)
フィギュアスケートを中心に活躍するスポーツフォトグラファー。日本全国の大会を飛び回り、選手の最高の瞬間を撮影するために、日夜シャッターを押し続ける。Image Works代表。
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