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2023年2月5-7日の日程で、ビッグハット(長野県、長野市)にて全国中学校大会が開催された。一昨年はコロナ禍のために中止、昨年は無観客開催となった大会だが、今年は久し振りに有観客での開催となった。まだ以前ほどの観客数ではなかったが、ようやく正常な開催に戻りつつあることを大変嬉しく感じた大会だった。女子は2連覇を狙った島田麻央、そしてトリプルアクセルジャンパーとして頭角を現し、ミラノ五輪も期待される中井亜美など多彩なメンバーが揃い、非常にハイレベルな戦いが繰り広げられた。上位8名のインタビューをご紹介したい。
1位 島田麻央
島田麻央
昨年に続き、全中2連覇を達成した。昨年は初出場とあって、ショートを通過することをまずは目標にしていたそうだが、今年はより高いレベルを目指して取り組んだ大会だった。ショートの6分間練習ではダブルアクセルを念入りに確認している姿が印象的だった。島田選手にとっては簡単なジャンプのはずだが、「去年よりスピードを上げて、大きなダブルアクセルを跳ぼうと練習してきた」そうで、今回の出来栄えにはまだ納得がいかない様子だったが、それでも自身3度目のショートでの70点越えを記録したように、スケーティングの改善が実を結びつつある。
島田選手にとっての大きなテーマ、トリプルアクセルと4トウループをフリーで両方成功させることは今回も叶わなかった。まだ日本の女子選手が達成していないことで、「初成功をしたいのでどの試合でも挑んでいきます」と強く宣言していた。今回は練習から4トウループがうまくはまらず苦労していた。ジャンプの入りのスピードが足りなかったことを失敗の要因として挙げていたのだが、原因は「調子や氷ではなく、緊張してスピードが出なかったんだと思います」とのこと。世界ジュニアの開催地、カナダ、カルガリーは標高が高く、ジャンプが上がりやすい。「4回転の調子は練習では戻ってきています」とのことで、トリプルアクセルと4トウループの2本成功は、カルガリーで達成されそうな予感がしている。
2位 櫛田育良
櫛田育良
今年が最後の全中となる櫛田選手、フリーで順位を上げて2位と健闘した。今回の演技で印象的だったのは、ルッツへの取り組み方だった。ショートでは6分間練習のほとんどの時間を使って3Lz+3Tを確認。ルッツのエッジエラーの改善を最近のテーマにしていたそうで、神経を集中して踏み切っている姿が印象的だった。ジャンプ以外では動きが大きく、エッジワークも深く滑らかになっていた。「ループの質が悪かった」と言いながらも65.42の自己ベスト。着実に評価を上げている。
フリーでは3S+3Tでの転倒に悔しい思いをしたそうだが、それでも順位を上げて総合2位。実は朝の公式練習では絶不調だった。特にルッツが全く決まらず、本番はどうなるのかと心配したほどだった。「朝の公式練習が終わった後にリセットしようと、睡眠を取ったりしました」とのことで、切り替えがうまく行ったようだ。
「今年はトリプルアクセルを習得したい。そして2026年のミラノ五輪に出場したいです」
高い目標を掲げて来季に臨む。スタイルの良い、表現力のある選手にトリプルアクセルが加わったらと、想像するだけで楽しみだ。
3位 中井亜美
中井亜美
ショートでは6分間練習から緊張感が伝わってきた。「ショート落ちも考えていた」そうで、それが緊張につながったのだという。ただ終わってみれば66.40という高得点。高い評価を得ることができた。
「新潟の実家で大晦日、元旦と2日間だけ練習を休んで、千葉に帰ってきたときにジャンプがはまらなくなっていました。その後初めての試合だったので緊張したんです。調子はあまり良くなかったんですが、その中でギリギリ戻してこれました。お客さんが手拍子やバナーで応援してくれて、楽しく演技できました」
すべてのジャンプを終えた後のステップではとてもキレが良く、頑張って動こうとしているのが伝わってきた。
「ジャンプが決まってもスピンやステップでレベルを落としてしまうと点数が下がるので、なるべく体全体を動かして、足首もしっかり使うように心がけました」
大活躍だった全日本での経験から、上位選手と戦うためにはジャンプ以外を磨かなければならないと痛感したそうだ。それが見事に表れたショートの演技だった。
フリーでは目標としていたトリプルアクセルを成功できず、総合順位も3位と後退してしまった。実は今回、練習からトリプルアクセルの確率が低かった。軸を取れた時には確実に3A+3Tに持っていけていたので、決して調子が悪そうには見えなかったのだが、確率の低さが本番に出てしまった。そして、トリプルアクセルの失敗が更なる痛恨のミスにつながった。本人はパンクしたトリプルアクセルはシングルアクセルだったと判断したのだが、実はダブルアクセルのダウングレードと判定されており、そのためにダブルアクセルがひとつ、ノーバリューとなってしまったのだ。
「表彰台に乗れたんですが、今は悔しい気持ちが強いです」
その悔しさは是非世界ジュニアで晴らすことを期待したい。新たな年齢制限の下でもミラノ五輪の代表入りの資格がある選手だ。3年後に向けて世界にアピールをしてきてもらいたいものだ。
4位 柴山歩
柴山歩
ショートではひどく緊張している様子だったが、無事に演技をまとめることができた。全中の直前に開催された国体のショートでジャンプが決まらなかったことが緊張につながっていたのだ。
「6分練習からジャンプがはまらなくて、国体でのショートが頭に浮かんで不安だったんですけど、自分の今できることは全部できたかな、と思うので良かったです。凄く緊張していたので、ほっとしました」
国体のショートの前日に、弟が留学のためニュージーランドに出発したそうだ。それまでは「全然私のことを気にかけてくれなかった」弟だったそうだが、国体のフリーの前、そして全中のショートの前には応援メッセージを送ってくれたとのこと。国体のショートでの失敗を知って心配してくれたのだろう。
以前はショートを得意としている選手だったように感じていたが、ジュニアグランプリシリーズ、ポーランド大会で、調子が良かったにもかかわらずミスをしてしまい、それ以降、緊張感を覚えるようになったのだという。この日の素晴らしい演技で嫌なイメージを払拭できたと願いたい。
フリーでは、ジャンプのクオリティに不満を感じたようだが、それでも大きなミスをすることなくまとめることができた。
「全体的にいいジャンプじゃなかったんですが、今季、ショート、フリーを通してすべてのジャンプを成功することがあまりできていなかったので、それが全中でできたことは良かったと思います」
今後、より高みを目指すために「一歩で伸びるスケーティングを身に着けたい」とスケーティングの改善に取り組むとのこと。また「本田真凜さんのような、華やかな手の使い方を身に着けたい」とも話してくれた。
5位 和田薫子
和田薫子
初めての全中に挑んだ和田薫子。「少し緊張しました」というが、堂々たる演技だった。ひとつ残念だったのは3Lz+3Tで、ショート、フリー共に回転不足を取られていたことだ。
「今季は、夏に怪我をしたので練習できていなくて、全日本ジュニアまでに調子を戻すことができませんでした」
特定の箇所の怪我ではなく、次々と色々なところが痛くなっていたという。ただジャンプ以外での動き、スケーティングは良くなっているように感じる。本人も手応えはあるようで、「普段から頑張って滑るようにしているので、それが表れたかなと思います」
和田選手はショートプログラムの最後のジャンプを3Lz+3Tにしている。より高得点を得るための構成だが、当然難度は高く、最近は失敗が多かったためコーチから前半に変更するかと聞かれたそうだ。しかし「一度取り組んだことだから続けたい。プライド的にも変えたくない」とこだわっているのだそうだ。
「今後はジャンプの回転不足、表現力を改善したい。スケーティングは足首をもっと曲げて使えるようになりたいです。憧れの選手が浅田真央さんなので、大技を決めたいですし、観客を引き込むような演技ができるようになりたい」
初出場で大健闘のパフォーマンスだったと感じる。来季の進化した演技を楽しみに待ちたい。
6位 村上遥奈
村上遥奈
「凄く緊張しました。最初のポーズから、足がぐらぐらしてました」
その言葉通り、ショートでの村上遥奈は6分間練習から緊張が伝わってきた。
「年が明けてから調子が悪くなり、アキレス腱に炎症を起こしてベストな状況ではなかったんです。それが緊張につながりました。元々調子が良くなかったので、6分間で失敗したら不安になってしまうので、1本だけ跳ぶと決めてました」
ショートの6分間練習ではほとんどトリプルジャンプを跳ばなかったので、よほど調子が悪いのかと案じていたが、不安を避けるための作戦だったようだ。
今季、村上選手はペアとの二刀流として活躍した。既にペアでは国際的に注目を集める存在になっており、森口澄士選手と組んで出場する世界ジュニアでの活躍が楽しみでならない。
「全中の2日後にカナダに向かいます。約1ヶ月の練習をして、そのまま世界ジュニアに出場します。三浦&木原組と一緒に練習します」
多くの学びを得られる合宿となるだろう。モントリオールのマルコットコーチ、デュハメルコーチのチームでは、ペアを入れ替えての練習をしており、木原龍一選手と組んで練習する機会も多いはずだ。村上&森口組は、現在はまだスロージャンプが2回転、ツイストリフトも2回転だ。ペアの世界ではこれらが2回転か3回転かで格付けが大きく変わる。点数の出方がまるで変わるのだ。
「予定では、スロートリプルサルコウを習得するつもりです。リフトのレベルもしっかり上げていきたい。トリプルツイストリフトは、先生の判断次第です」
期待は高まるばかりだ。現在の年齢制限ルールの下では、来季以降、しばらくペアとして大会に出場することができなくなってしまう。世界ジュニアという最高の舞台で、年齢制限を再考させるほどの活躍をしてもらいたい。
7位 中尾歩
中尾歩
フリーは出色の出来栄えだった。ルッツ、フリップを含めた6トリプル。表現面でも素晴らしく楽しい演技を披露してくれた。
「ショートでは転んでしまって思うようにいかなかったので、それを晴らそうと思って頑張りました。ウエスト・サイド・ストーリーの、マリアではなく踊っている方のイメージです」
ダンスバトルのイメージを表現しているのだそうだ。表情を作って、どや顔で踊っているのがとても印象的だった。普段からそういうキャラクターなのかと思ったのだが、「あれは演技です」とのこと。
「振付の佐藤操先生から、ダンスのバトルだから、私が一番よって気持ちで表現するように言われました」
高田馬場のシチズンのリンクが閉鎖になり、埼玉、上尾のリンクに移籍して大島淳コーチの指導を受けるようになってからジャンプが上達したとのことだ。大島光翔選手のジャンプが参考になっているそうで、「光翔君がジャンプを教えてくれたりします」とのこと。同じリンクには佐藤駿選手もいるが、「駿君のジャンプは凄すぎて参考にできない」という。確かに4回転を軽々と跳んでしまう選手は、真似しようとしてもできないだろう。
「昨年の全日本ジュニアに出られたんですけど、来季も出場してベストの演技ができたらいいな、と考えてます。好きな選手は坂本花織さんです。パワフルなジャンプと、スケーティングが深くて上手なところが好きです」
8位 矢口真央
矢口真央
元気で明るい矢口真央がようやく帰ってきた。これだけ良い演技を観られたのは本当に久し振りだ。
「中部ブロックのショートの公式練習で、左足のブレードで右足を刺してしまって、2週間ぐらい練習できませんでした。それが今季の不調の一番の原因です」
2019年の全日本ノービスで島田麻央に次ぐ2位に入った頃は本当に勢いがあり、その後の活躍が期待されたのだが、チームの移籍を含め、練習に集中できない時期があったようだ。復調のきっかけとして、1年前から使っているブレードが馴染んできたことを挙げていた。
山一ハガネのブレードを使っているそうだが、矢口選手にとっては使いこなしの難しいブレードだったようで、「スケーティングは凄く滑るんですが、滑り過ぎてジャンプの調整が難しかったです」とのこと。本人曰く「私は不器用なんです」と。時間はかかったが、その成果が表れてきたのだろう。
「今年は絶対にフリーに残りたいという気持ちが強かったです」
そのためにショートはコンビネーションジャンプを3T+2Tという安全策にした。本当はフリップに挑戦したかったようだが、スケーティング、動きの切れが素晴らしく、難度を落とした構成でも高い得点を出すことができた。
「今後はトリプルアクセルにも挑戦したいです。憧れのスケーターは、恩田美栄先生です。パワーのある演技なので、それは自分に足りないところだと思います」
強気な言葉も戻ってきた。明るくて華のある選手だ。トリプルアクセルの習得は簡単ではないだろうが、ルッツ、フリップ、そして3+3まで復調すれば十分トップクラスで戦えるはずだ。来季の完全復活が楽しみだ。
文:中村 康一 / Image Works
中村康一(Image Works)
フィギュアスケートを中心に活躍するスポーツフォトグラファー。日本全国の大会を飛び回り、選手の最高の瞬間を撮影するために、日夜シャッターを押し続ける。Image Works代表。
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