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第72回全国高等学校スケート競技・アイスホッケー競技選手権大会(インターハイ)フィギュアスケート競技 男子シングルレビュー
フィギュアスケートレポート by 中村康一(Image Works)2023年1月16-17日、埼玉アイスアリーナ(埼玉県、上尾市)にて、全国高等学校スケート選手権大会フィギュア競技が開催された。今年は例年にない縮小開催となり、出場選手は男子21名、女子36名といささか寂しい印象だが、有力選手の出場は多く、少数精鋭の大会となった印象だ。男子では既にシニアのトップ選手に成長した三浦佳生が出場。その実力にたがわぬパフォーマンスを披露した。学校別でも三浦選手に加え、菊地竜生、小田垣櫻を擁して万全の布陣で臨んだ目黒日大高校が優勝した。個人の上位8名のインタビューをお届けしたい。
1位 三浦佳生
三浦佳生
既にシニアのグランプリシリーズ、四大陸選手権で活躍している三浦佳生。これほどの選手がインターハイに出場してくれたことは大変にありがたいことだ。3月の世界ジュニア選手権への出場が決まっており、同じくジュニア課題で競われるインターハイが、予行演習として最適だったという側面もあったようだ。
「今日のフリーは、前半は良かったんですけど、後半で雪崩が起きたような(ミスが続いてしまった)。滑り慣れていないジュニアプログラムでカーブが急だったり、プログラムを作ったのも1週間前だったので、色々と課題が出ました。最後も曲に余裕がなかったので、世界ジュニアに向けて調整していきたい。四大陸は高地での開催なので、いかに緩急をつけて、最後まで持たせられるかを取り組んでいきたいです」
久々のジュニアプログラムについて、もう少し話を聞いてみた、ジャンプの数が同じで30秒短くなることはきつかったのだろうか。
「きついっていう感じはなかったんですけど、プログラムの構成が変わったところのやりにくさが見えました。後半は新しく作った部分なので、窮屈なところがありました。後半、スピンで大幅に減点されてますし」
プログラム最後の二つのスピン、足替えのシットスピンは大幅な減点、足替えのコンビネーションスピンに至っては0点だ。かなりの点数を失っている。世界ジュニアに向けてプログラムの修正は必須だろう。とはいえ、全体的にはここ数年の進化、成長が如実に表れたパフォーマンスだったと感じる。よくぞ短期間にここまで素晴らしい選手に仕上がったものだ。
「前は自分が見せたいものと現実がかけ離れていて、体が心よりも先走っていて、フィギュアスケートというよりも格闘だった感じがします。最近はやっとフィギュアスケートになれてきたと思います。スケーティングの練習も成果が表れてきていて、最近はいい演技ができていると思います」
かつては試合前にトラブルが起きたり、落ち着いて試合に臨めていなかったが、最近はそういったことがなくなった。
「精神的に大人になったのかな?と思います。自分でも前よりも考えるようになって、トラブルの解決のアイデアを思いついたり、落ち着いて臨めるようになったと思います」
ジャンプの能力に関しては、現時点でも世界のトップクラスと戦える存在だ。そしてまだ17歳、今後の伸びしろも大いに期待できる。かつては課題としていた精神面、表現力も改善され、この先どこまで伸びるのか楽しみでならない。
2位 中村俊介
中村俊介
昨年のインターハイの記事で、「壁を乗り越えるまで、本当にあと少し」と書いたのだが、その壁を今季、ようやく乗り越えてくれたと感じる。ショートプログラムは三浦選手を抑えての1位。フリーでは逆転を許したが、今季の成長ぶりがうかがえるパフォーマンスだった。
「フリーはジャンプのミスが多くて、練習よりもできなかったのでちょっと悔しいです。埼玉のリンクに入ってから4回転の調子が良くて、行けるかなと思ったんですが。4回転をミスしてもその後が崩れないように、ということを普段から意識して練習しているので、今日は後半のトリプルアクセルをミスしましたが、他はできたと思います」
その言葉通り、4回転トウループを失敗した後もすぐに立て直し、しっかりと形を作ることができた。やはりトリプルアクセルが計算できるジャンプへと進化したことが大きい。
「アクセルは、一昨年の全日本でミスしたジャンプなので、ここは絶対外したくないという気持ちで一年間やってきました」
一昨年の全日本選手権、中村選手はショートプログラムでトリプルアクセルを失敗し、ショート落ちの苦い経験をした。その経験、そしてその後の練習の積み重ねが今季の開花につながっているのだ。次は4回転を、今のトリプルアクセルと同等に仕上げたいと語る。
ショートプログラムを終えた夜には、選手仲間と焼肉に行ったそうだ。「高校生同士で集まれることはなかなかないから」とのことだったが、これもインターハイならではの光景、いい思い出になったことだろう。
3位 周藤集(すとう・つどい)
周藤集
とても美しい演技をする選手だ。スケーティングの質も、表現力も素晴らしい。今回はフリーで4回転に果敢にチャレンジ。結果、パンクして1回転になってしまったが、その後はすぐに立て直すことに成功した。
「初めてのインターハイで3位に入れたことは嬉しかったです。全日本後は、フリーに4回転を入れる練習をしてきました」
まだまだ安定感に欠ける印象だが、ポテンシャルは非常に高い選手だと感じる。何より、高校1年生でトリプルアクセルをマスターし、4回転に挑んでいるほどなのだ。来季の目標は全日本ジュニア優勝だという。十分に狙えるはずだ。
4位 森本涼雅
森本涼雅
インターハイのフリーでは、トリプルアクセルに挑戦するというテーマがあった。結果は失敗に終わったが、良いチャレンジだったと感じる。
「アクセルは練習でもまだクリーンには決まっていません。ただ回転不足で着氷することは増えてきたので、若干アクセルの感覚が良くなってきた実感はあります」
今季、森本選手の演技は、エレメンツ重視の傾向が強かった。スケーティング、エレメンツの前後、つなぎを改善すればもっと点数が伸びるはず、と常々感じていたので、その点を本人に聞いてみた。
「全日本ジュニアで感じましたが、PCS(演技構成点)が高い選手に負けてしまうことが増えてきたので、そこはこれからの課題だと思っています。オフシーズンに練習を頑張ります」
本人も改善の必要性を感じているようで、来季の進化を楽しみに待ちたい。
5位 菊地竜生
菊地竜生
5位入賞と健闘したのだが、取材では反省の言葉が多く聞かれた。
「自信のあったアクセルは決めることができたんですが、その他のところでミスがあって演技が崩れてしまったのが反省点です。全日本ジュニアで8位以内に入れず、全日本選手権に出られなかった悔しさをぶつけようと思って臨んだ試合でした。今回の出来栄えに納得はしていないんですが、次につなげたいと思います」
このインターハイに限らず、今季はトリプルアクセルの確率は上がったものの、それ以外のジャンプをまとめられていない印象だ。
「アクセルを成功して安心してしまうのかもしれません。練習では降りているので、本番に弱さが出ているのかな、と痛感したので、そこはもっとメンタルを鍛えたいと思います」
昨年のインターハイでは靴のトラブルなどがあり、本調子で臨めなかったと話していた。
「今年はトラブルなく、調子も良かったので、ただ本番に合わせることができなかっただけです。自分の弱さだと思います」
そこを改善するためには何が必要だと考えているのだろうか。
「今日は結果にこだわってしまい、楽しむという気持ちを忘れていたのかな、と思います。フィギュアスケートは楽しくて始めたものなので、結果にこだわり過ぎると本来の自分の演技ができないと思います。もっと楽しめるようになりたいです」
今回は表彰台という目標があったことも、ジャンプにこだわり過ぎる要因になったようだが、1年前と比べると明らかに上達していると感じる。演技に華のある、将来が楽しみな選手だ。来季は全日本選手権など、もっと大きな舞台で演技を観たいものだ。
6位 朝賀俊太朗
朝賀俊太朗
今季、西日本ジュニアで優勝するなど活躍した朝賀俊太朗。しかしシーズン後半は怪我に苦しみ、このインターハイでも納得のいく演技はできなかった。
「今日の演技はひどかったです。体にいい力が入っていなくて、無理やり跳んだジャンプが多かったです。怪我はもうほとんど治っているんですが、最近ようやくルッツ、フリップを跳び出しました。インターハイは、学校別という、個人とは違うものを背負って滑る大会なので、それを楽しくできたことは良かったと思います」
西日本ジュニアで優勝したところまでは順調だったが、その後に怪我をしてしまったのだという。
「西日本ジュニアの1週間後に痛くなって、全日本ジュニアの直前にはトウを突くことができなくなりました」
症状はかなりひどかったようで、それを聞くとむしろ良く頑張った今季の成績だったと思えるほどだ。今季はトリプルアクセルを封印して、完成度勝負で挑んで西日本ジュニアで優勝したが、来季はどうするのだろうか。
「来季はトリプルアクセルは必須だと思うので、オフに練習して来季は初戦からトリプルアクセルを入れたいと思います。体力を戻して、ルッツ、フリップも元の状態に戻したいです」
スケート全体の質はとても高いものを持っている選手。来季は何とか大技を習得してもらいたいものだ。
7位 小島 志鳳
小島 志鳳
「演技はそんなに悪くはなかったんですが、ジャンプの着氷、スピンなどで小さなミスがいくつかあったことが残念です。今はトリプルアクセル、4回転が跳べないので、これらを習得してもっと上に行けるように頑張りたいです」
動きの切れのいい、良く踊る選手だと感じた。ルッツも大きく、もっと伸びてきそうな期待を持たせる選手だ。目標について聞いてみると、
「ボーヤン・ジンを目指していて、4回転ルッツを跳べる選手に憧れます」
現在、4回転はトウループ、サルコウ、そしてルッツも練習しているとのこと。完成はまだまだ遠いようだが、試合での披露を楽しみに待ちたい。
8位 磯和大智
磯和大智
ショートプログラムではミスが多く、今回は男子では12名しかフリーに進めなかったため、ギリギリの通過となったが、フリーではトリプルアクセルを成功、その後も大きなミスなくまとめることができた。ショートから順位を上げての8位入賞だ。
「大きな舞台で滑る経験が少ないので、とても緊張しました」
昨年の夏からトリプルアクセルに挑んでおり、試合で成功したこともあったのだが、今回のフリーでのトリプルアクセルは、過去一番の素晴らしい出来栄えだったように思う。
「はい、今までで一番でした。自己採点は98%です。スピンのミスがあったので」
最近、段々とジャンプをまとめられるようになってきた磯和選手だが、エレメンツの加点、PCSはまだまだ点数を稼げていない。それは自身でも自覚しているようで、
「スケーティングが全然足りないと思います」
滑る際のブレードのノイズを気にしている様子で、上位選手とは差があることをそこで認識しているようだ。目標の全日本選手権出場を叶えるためにも、是非オフに改善を図ってもらいたいものだ。
文:中村 康一 / Image Works
中村康一(Image Works)
フィギュアスケートを中心に活躍するスポーツフォトグラファー。日本全国の大会を飛び回り、選手の最高の瞬間を撮影するために、日夜シャッターを押し続ける。Image Works代表。
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