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#2 ISU技術委員 岡部由起子さんによる「ルール改正」について(1) | 町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:フィギュアスケートが求める理想のルール】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部岡部さんとのルール改正にかんする対談
北京五輪の後、国際スケート連盟は大幅なルール改正を発表しました。つまりフィギュアスケート競技は、来シーズンから新しい競技規則のもとで運営されます。
ですが、新しいルールに順応しようと必死になるばかりで、ルールそのものの在り方についてじっくりと考える機会は、これまであまりなかったように思うのです。そこで今回は「フィギュアスケートが求める理想のルール」と題して、業界内外から専門家をお招きし、これからのフィギュアスケートのルールがいかにあるべきかを建設的かつ学術的に討論していきたいと思います。
岡部由起子さん
今回お迎えしたのは、元フィディアスケート選手で日本スケート連盟フィギュア部渉外部長 ISU技術委員の岡部由起子さんです。2016年からは国際スケート連盟フィギュアスケートの男女ペア部門の技術員に就任されおり、国内外でジャッジやテクニカル・コントローラーを務めています。J SPORTSでもフィギュアスケートの解説でおなじみです。
前回のおさらい
対談のポイント
さっそくですが、今回のメインテーマは二つあります。
【1】どのような形でルール改正がされるのかという議会の仕組みについて。
【2】 今回大きなルール改正がありますが、このルール改正によって具体的にどのようなことが変更されるのか。
これらをテーマに分かりやすく、前後半で、ご説明いただきます。
町田(以下M):よろしくお願いします。6月の初旬にタイ・プーケットで第58回ISU総会が開かれ、そこでルール改正について審議されました。そのアジェンダを見ると、各国のスケート連盟が独自に改正案を出しているものもあれば、ISUのテクニカルコミッティーとして出されている改正案もあります。こうした改正案は、どのような経緯。あるいはどのようなプロセスを経て議会に提出されるのでしょうか。
岡部(以下O):我々だけではなく、ジャッジの皆さん、チーム関係者、コーチ、選手の皆さんからの声をすくい上げて、どういう風にしていくと、より良いルールになっていくかというところを主に改正案を出しています。
M:そういう観点で各国のスケート連盟やISUの委員会が出していく。それをISUの理事会、委員の方々で審議をし、最終的には投票で改正されるか否かが決まっていくわけですよね。この投票に関しては、どのような投票結果になると改正案が可決、議決されるのでしょうか。
O:ベーシックなものは過半数がないと可決されない、という仕組みになっています。
M:今回の議題はスピードスケートなども含めて200以上ありましたが、一つひとつの議題を投票して、順番に決めていく、果てしない作業ですね。
O:そうですね。現地に我々がいたとしても、今、何が議論されていて、これはどういうふうにしたらいいのか。どう賛成なのか。棄権という形もありますが、反対なのか。そういうこともメンバーとしては、各国にいる時からきちんと自分たちがどうしたいかをしっかりと抑えると言いますか、研究をして、国としてはこういう風にしていきたいということを、前々から用意していかないとついていけない。そういった形です。
ルール改正のポイント
M:その形で行われた第58回ISU総会。様々なルール改正の審議がされました。私が注目したものもたくさんありますが、その中でも6つに注目しました。
【1】シニアの国際競技会参加年齢引き上げ
【2】演技構成点を5項目から3項目に変更
【3】演技構成点の係数の変更
【4】ジャンプシークエンスの採点率を100パーセントに変更
【5】ジュニアシングル競技においてフリースケーティングのステップ要素をステップシークエンスからコレオシークエンスに変更
【6】 ジャッジの役割
6つ目に関しては、GOE(出来栄え点)を採点する人とPCS(演技構成点)を採点する人。二つのパネルに分けるか否かも審議されていました。アジェンダを見た時から注目していましたが、今回、【1】〜【5】の改正案は可決されたということで間違いないでしょうか。
O:はい、可決されました。
シニア国際競技会参加年齢引き上げ
M:そして6つ目が保留です。まずは、この【1】〜【6】について、岡部さんに解説していただきたいと思います。今年の北京五輪あたりから報道でも取り上げられるようになっていたシニアの国際競技会参加に関する年齢の引き上げです。今シーズンは15歳。現行のままですけれども、来シーズン、再来シーズンと1歳ずつプラスアルファして2024〜2025シーズンに17歳というふうに年齢を引き上げていきます。その意図はどこにあるのでしょうか。
シニアの国際協議会参加年齢引き上げ
O:15歳と言いますと、まだ精神的にも身体的にも、成長過程にあります。特に女子選手です。それから怪我。15歳までにとても難しいジャンプをすることで怪我のリスクがあります。男子選手の場合は15歳、16歳、17歳。それ以上になると筋力がついて難しいジャンプをこの後も飛べるようになりますが、女子選手は、比較的身体が小さい。細いうちの方が難しいジャンプが飛びやすいのです。ですが、15歳までにそれをやってしまうことによっての怪我という懸念があります。それを防ぐためにISUの維持委員会からも、何年も話が出ているところでした。そして、表現力。年齢を引き上げることによって、ジャンプだけではなく、スケート自体の良さが増し、より長く続けてもらえるのではないか。成熟したスケーターがより長く世界のトップ選手として君臨することによって、ファンも長くスケートを楽しめるのではないかということで、この案が出てきました。
北京五輪に出場した女子シングル選手で17歳未満の選手
M:今年の北京五輪に参加した女子シングルで17歳未満の選手は、ここに挙げている4名だけですよね。ですから、そこまで大きな影響はないのではないかということも言われています。
演技構成点を5項目から3項目に変更
O:ISUとしては、そこまで大きな影響はないというよりは、前向きにこのスポーツが、皆さんに楽しんでいただけるものになるのではないかという希望を持っています。
演技構成点を5項目から3項目に変更
M:次は【2】演技構成点を5項目から3項目に変更についてです。フィギュアスケートの演技構成点は、スケーティングスキル、トランジション、コンポジション、パフォーマンス、インタープリテーションの5項目で採点されていました。それが次のシーズンからはスケーティングスキル、コンポジション、プレゼンテーションという3項目に変更されます。
O:5つあることによって、「トランジションがちょっと足りないので、あなたはもう少し頑張りましょう」ということや「パフォーマンスが素晴らしかった」というように、選手、コーチにとっては分かりやすくなったことは明らかですが、例えばフリースケーティングですと11項目を全部GOEにして、さらに5つのいいものを採点していきます。それを30名〜50名ほど行うわけです。国内の大会は50名ほどですが、それを考えると、ジャッジの負担というのは大変大きなものになります。そのため、オーバーラップしたところを精査していく。そして、項目をまとめたことによって、ジャッジがよりシンプルに採点ができるのではないかということで、3つの項目になりました。しかし、ジャッジが見るところは、今までと全く変わることがなく、選手がすることも同じです。
PCSの係数の変更
M:ですから、この改正によって選手の演技には何ら影響がないと言っても過言ではないと思います。単純に5項目から3項目に減らされたということだけですが、減らされたということだけが一人歩きすると、どうしても誤解を招く場合もあるので、この場で、そうではないということを説明しておきたいと思います。
O:ありがとうございます。
M:その改正に伴ってPCSの係数も変更しなければならないということになりました。今まではシンプルに、男子のシングルのショートプログラムだったらPCSに1.0をかける。フリーだったら2.0をかけます。ショートのプログラムコンポーネンツスコアの満点は50。フリーは100点満点というように採点をされていましたが、それが3項目になって、単純計算の採点が30点になる。そうすると満点が30点となり比率が下がってしまうので、同じ比率になるようにということを意図して、係数を微妙に調整していますよね。
O:おっしゃる通りです。やはりGOEの技術に対する点数とコンポーネンツの点数が、50/50で同じ比重というのが理想の形です。当然、とても難しいジャンプをこなせるトップ選手。特に男子のトップ選手。もちろん女子選手もそうですが、トップ選手は難しいジャンプが飛べますので、それだけで点数がグンと上がってしまうので、どうしてもコンポーネンツの点数が比重として低くなってしまいます。それから、選手によっては、それが逆転する形が起こります。けれども、全体を通した時に我々は50/50の同じ比重を持っているというところを理想として目指していますので、そういった時に3つのコンポーネンツ。先ほどおっしゃっていただいたように、今までと同じ係数では合わなくなってくるというところで、今回、係数の変更が行われました。
M:なるほど。男子シングルを除く他のカテゴリーは、ほぼ同じ係数なのに男子だけがグンと上がってしまう。そして、そこにギャップがあるというのは、なぜなのかなと気になっていました。それは、男子シングルの技術点が高くなる傾向にあるから、50/50にするためにちょっと係数をプラスしているということですよね。
O:はい。おっしゃる通りです。
M:合点がいきました。でも女子も上がってきていますよね。
O:そうですね。ただし、気をつけなくてはいけないのは女子も上がってきているのですが、やはり、それは一部の国の一部の選手たちだけのことです。でも、我々が見なくてはいけないのは、全体のところ。トップ選手だけを見るのもいけないですし、下位の選手だけを見るのもいけない。全体を見たときに、「今はどういったケースが妥当なのか」ということを常に考えています。
ジャンプシークエンスの最低率を100パーセントに変更
ジャンプシークエンスの採点率を100%に変更
M:続いて【4】ジャンプシークエンスの採点率を100パーセントに変更することについて、お話を伺います。ファーストのジャンプの次にランディングしたまま、ダブルアクセル、トリプルアクセルを飛ぶと、今までは、そのトータルのスコアから80パーセントがかけられて採点されていました。しかし、今回は100パーセント全部でスコアが出されてくるようになるんですよね。
O:はい。おっしゃる通りです。
M:この改正によって、アクセルを組み込んだジャンプシークエンスを行う選手が増えそうですかね。
O:そうなると思っています。面白いのは、多くの選手はやったことはないかもしれないですけども、例えば4回転のサルコーなどのすぐ後にトリプルアクセルをする。今まで、これだけ難しいジャンプをする選手がほとんどいなかった。それは、やはり基礎点が80パーセントになってしまうことがもったいないと言いますか…そういう側面もあったのではと思います。
M:そうですね。単発でアクセルをした方がいいですもんね。
O:はい。難しいことには変わりないですし、我々としてもそれは認めなくてはいけないというところで、100パーセント入れてもいいのではないか。そういうところから議論が上がり、今回、それが通りました。
M:ジャンプの配置。エレメントの構成みたいなもののバリエーションが増えていく。
O:それを楽しみにしています。
J SPORTS編集部
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