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黄金の栄光でシーズン締めくくり。世界選手権初戴冠の坂本花織「練習は裏切らない。これは今シーズンを通して感じてきたこと」 | ISU世界フィギュアスケート選手権2022 女子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部坂本花織
あのダイナミックで切れのあるジャンプが、飛ぶように疾走するスケーティングが、世界一の評価を勝ち取った。強く、しなやかで、ノーブルな演技は見る者の心をとらえて離さず、ほとばしるエネルギーがアリーナを満たした。坂本花織が質の高いプログラムを2本揃え、鳴り止まぬ喝采の中、堂々たる世界チャンピオンとなった。
「自分が優勝して流す君が代は、4年前の四大陸以来でした。だから表彰台の上で、しんみり、じわーっときちゃって、涙が止まらなくて……。すごく嬉しいことだな、って思いました」
プログラム冒頭の、幅も高さも流れもある2回転アクセルは、ショートプログラム(SP)では出来栄え点で「GOE+5」の満点評価を受けた。フリースケーティング(FS)でもほぼ満点のGOE+4.86だった。
この見事にコントロールされたジャンプからプログラムは幕を開けると、あとは最後の瞬間まで、すべてがよどみなく進んだ。些細なミスで演技が途切れる場面など一切ない。ただFSの3回転ルッツで、「エッジ不明瞭」の注意書きがついただけ、SPの2分40秒、FSの4分は、完璧なひとつながりの物語として描き上げられた。
五輪後の心身の疲れも、突如として金メダル候補に押し上げられた重圧も、坂本の勢いを止めなかった。3回転アクセルや4回転を組み込まない代わりに、すべてのジャンプを美しく着氷した。全身を使ったステップは、ひとつひとつのムーブメントが大きく、しかし繊細で、流麗なスピンが演技のクライマックスを彩った。全エレメンツがレベル4の最高評価を得て、出来栄え点でことごとく高い加点も与えられた。
なにより今季を通して着実に評価を上げてきた演技構成点で、さらに数字を伸ばした。SP「グラディエーター」では、「パフォーマンス」項目で10点満点を出したジャッジもいた。シーズン序盤は「解釈に悩んだ」というFS「ウーマン」にいたっては、今季のISU国際スケート連盟主催の選手権大会と五輪を通して、最高の得点を記録した。
「練習は裏切らない。これは今シーズンを通して感じてきたことです。先生に叱られようと、くじけようと、最後の最後まで自分なりにがんばって練習してきたことが、この試合の強さにつながったと感じています」
あらゆる面で完成度が高く、SPは自身にとって初めての80点超えを達成した(80.32点)。FSでも、五輪銅を引き寄せた1か月前よりさらに点数を伸ばし、155.77点のパーソナルベスト。もちろん総合でも自己ベストの236.09点を叩き出し、素晴らしかったシーズンを、黄金の栄光で締めくくった。
坂本にとっては3度目の世界選手権出場で、初の戴冠であり、初めての表彰台。日本女子にとっては2014年の浅田真央以来8年ぶり(2020年大会中止のため7大会ぶり)の世界選手権制覇だった。
日本女子として史上6人目の世界女王に上り詰めただけではなく、坂本は日本のさいたま開催の来季世界選手権に向けて、日本女子の「3枠」を確保した。坂本1位+樋口新葉11位=「12」で、3枠に必要な「13以下」の条件を見事にクリアしてみせた。
その樋口は、シーズン終わりの今大会で、大いに苦しんだ。4年に1度の特別なシーズンは、開幕時から「自分が折れそうになっていることすら気が付かずに、ただ前だけを見て頑張ってきた」。しかし3回転アクセルをSP・FS共に決め、5位に飛び込んだ五輪の後、「集中力を切らさずに練習していくことの難しさ」を感じたという。それでも、「枠」のことを考え、SPもFSも最後まで諦めずに滑り抜いた。
またシニア国際転戦初シーズンながら、五輪と世界選という緊張の大舞台を経験した河辺愛菜は、15位で戦いを終えた。「焦らず」という目標はクリアできた。次の課題はひとつひとつのジャンプの精度を上げること。そしていつかは「かおちゃん」のような堂々と日本を代表できる選手になりたい、と17歳は前進を誓う。
女子に加え、男子、ペアとで計4つのメダルを獲得し、フィギュア大国としての日本がさらに存在感を増したのだとしたら、ルナ・ヘンドリックスとベルギーは、歴史的な一歩を刻んだ。今季の国内選手権で女子シングル参戦はわずか2人……というフィギュア不毛の国ベルギーにとって、世界選手権でのメダル獲得は、正真正銘、史上初めての快挙だった。
「言葉になりません。自分自身を誇らしく感じます。ベルギーの子どもたちが興味を持って、スケートを始めてくれることを願います。いつかは数多くのベルギー選手が大会に出場して……スケート大国に成長して欲しい。それが私の夢なんです」
表彰台は半ば諦めかけていた。大会2週間前に鼠径部の筋肉を痛め、出場さえも危ぶまれた。もちろん本来であれば、優勝大本命として名前を挙げられる立場だった。今季グランプリ大会イタリア杯では現五輪女王を押さえてSP首位に立ち、総合でも3位に食い込んでいたし、欧州選手権でもSP2位と、改めて高いポテンシャルを証明していた。ただし今大会には、「なんの目標も定めずに、ただ自分のベストを尽くすため」に、ヘンドリックスはやってきた。
怪我の痛みを超えて、ヘンドリックスは輝きを放った。その完成度の高さと成熟した表現力は、フランスのモンペリエでも遺憾なく発揮された。また欧州ではSP2位に「興奮しすぎて」FSで失敗した反省を活かし、SP2位で折り返した今大会は、無心でFS「オリエンタルダンス」へ挑んだ。指先まであますところなく使った魅惑的で、なにより飛びっきりゴージャスな舞は、銀メダルへとつながっていた。
接戦だった3位争いは、アリサ・リウが制した。
SPではマライア・ベルが、はっとするほど美しい佇まいと、トレードマークとも言える伸びやかで晴れやかな演技とで、スモールメダルを手に入れた。ただし3位から5位までの差は、わずか0.64ポイント。つまりSPで3位のベル、4位ユ・ヨン、5位リウの3人が、表彰台の3番目の場所を巡ってFSへと進んだ。
そして2年前の世界ジュニア銅メダリストが、シニアで初めてのメダルを引き寄せた。ジュニア時代は4回転さえ飛んでいた16歳は、全参加選手の中で最も難度の高いジャンプ構成で挑んだ。冒頭の3回転アクセルは着地ミスがあったし、回転不足も2つ取られたものの、リウは得点を着実に積み重ねた。姿勢の美しいスピンや柔らかなステップも、愛くるしさの中に時折混ざる艶のある表情も、間違いなく世界中のファンを魅了した。
「疲労困憊でした。でも、これが最後の大会だ、と自分を鼓舞し続け、ベストを尽くしました。こんな自分を誇りに思います。メダルを取れたなんて……あまりにクレイジーなことすぎて、状況が上手く飲み込めません。ただただ衝撃です」
大きなメダルにこそ届かなかったものの、心に深く染みわたる演技で、ベルは自己最高の4位でシーズンを締めくくった。またヨンは冒頭の3回アクセルの回転不足を筆頭に、ジャンプに悩まされ5位終了。ただし7位入賞のイ・ヘインと共に、韓国女子の台頭を世界に印象づけた。日本、ベルギーと並び、アメリカと韓国は来季世界選の出場3枠を獲得している。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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