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桁違いの高得点でネイサン・チェンが全米6連勝の快挙「今日は氷の上で、心の底から楽しめました」 | 全米フィギュアスケート選手権2022 男子シングルス レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部ネイサン・チェン
約70年ぶりの全米男子6連覇を、ネイサン・チェンが楽しげにやってのけた。あまりに楽しんだものだから、うっかり最終盤のコレオシークエンス中に足をもつらせ転倒してしまったけれど……圧倒的な首位が揺らぐことはなかった。非公認記録ながらトータル328.01点という桁違いの高得点を叩き出し、堂々とアメリカ男子の頂点に立った。
「10〜20年後に自分のスケート人生を振り返った時に、ああ、あのときは本当に楽しかった、って思えるようにしたんいです。今日は氷の上で、心の底から楽しめました」
シックな黒ジャケットに着替えて臨んだSP「ラ・ボエム」は、まさに完璧な出来だった。予定構成表より、さらには同曲を用いた2シーズン前よりも本番では要素の難度を上げ、それをきっちり得点に反映してみせた。
その同じ2シーズン前、コロナ禍のせいで全米が最後のお披露目の機会となった「ロケットマンメドレー」を、チェンは2022年全米で復活させた。FS歴代最高得点を記録した相性のいい楽曲だったが、パーフェクトに再現することはできなかった。コレオシークエンス中の転倒に加え、序盤の4回転フリップでも転倒があり、出来栄え点や減点で9点近くを失った。それでも2年前よりもはるかにコズミックエナジー満タンな衣装を身にまとい、ノリノリで宇宙旅行を楽しんだ。
2002年のトッド・エルドリッジ以来となる全米6勝目であり、1946年から1952年まで7連勝を果たしたディック・バトンに続く6連勝の快挙を成し遂げたネイサン・チェンは、試合後もちろん北京五輪代表に指名された。アメリカ全土が待ち望むのはただひとつ。2010年エヴァン・ライサチェク以来3大会ぶりの、アメリカ男子による金メダル獲得に違いない。
2位には驚くべき伏兵が飛び込んだ。FSに「誰も知らない」「黄金時代」という意味深な楽曲を用いた17歳イリヤ・マリニンが、並み居る先輩たちを退けて、全米シニアデビューをメダルで祝った。
イリヤ・マリニン
フィギュアスケーターの両親を持ち、幼い頃から英才教育を受けてきた。今季はジュニアグランプリ2大会を制し、その高いポテンシャルは誰もが知っていた。11月には生まれて初めて出場したシニアの国際大会(オーストリア杯)では、3位表彰台にさえ飛び乗った。しかもSP13位と大きく出遅れてからの大逆転劇で、強い精神力と、それを可能にするずば抜けた技術力も証明済みだった。
それでもSPに4回転2本、FSには4回転4本を組み込み、そのすべてを軽々と完璧に成功させてしまったのだから脱帽だ!またシニアのFSはジュニアよりも30秒長く、構成面でも体力面でも決して移行は簡単ではないはずなのに、そのFSの演技後半に難度の高いジャンプコンビネーションを大胆に3つも入れた。SP・FS通してスピンで1つだけレベル3だった以外は、すべての要素でレベル4の評価も受け、決してジャンプだけの選手ではないところも見せつけた。FSでは約9点差をひっくり返し……いや、むしろ3位以下に12点ものリードを押し付けての銀メダル獲得だった。
「こんなにいい滑りができるとは予想もしていませんでしたし、なにより2位になれるなんて考えてもいませんでした。すべてが楽々と進んで自分でも驚いています」
マリニン本人は北京行きも願っていたそうだが、残念ながら補欠止まり。ただし3月の世界選手権には正式な代表として出場予定だ。その前に、どこかの大会で、得点を出す必要もある。というのもシニア人生で唯一の国際大会であるオーストリア杯の、大失敗したSPで、世界選出場に最低限必要とされる技術点をぎりぎりで取れなかった(33.78点、必要点は34点)。ちなみにFSは余裕でクリア済み(85.77点、必要点64点)。
逆転を許し、SP2位からトータル3位で終えたヴィンセント・ジョウだが、その果敢な攻撃的態度は称賛に値する。SPでは冒頭の4回転ルッツ+3回転トーループだけで21.29点という高い得点を叩き出し、首位ネイサンまでわずか2.61点差につけた。
ヴィンセント・ジョウ
FSは間違いなく逆転目指して臨んだ。今季前半のスケートアメリカで、ネイサンの3年半に渡る連勝街道をストップさせた自負がある。全要素の基礎点合計ではネイサンよりわずか2点下回るだけの、極めて難しいプログラム構成を組んだ。4回転は5本を入れた。無念にも3つのジャンプ要素でミスを犯し、野望は砕け散ってしまったのだけれど。
それでも勇壮なステップシークエンスでFS「臥虎藏龍」を締めくくり、ジョウは自身5度目の全米表彰台と、2度目の五輪代表入りをつかみとった。
4位ジェイソン・ブラウンもまた、8年ぶり2度目の五輪へと向かう。銅メダルにはたったの0.38点足りなかった。FS冒頭で挑み、転倒に終わった4回転サルコウを、3回転で無難にまとめていれば、もしかしたらもう少し得点は伸びていたのかもしれない。
フライト決行による陸路での長距離移動、さらにはFS直前のコーチのコロナウイルス陽性もあり、決して最高の状態で試合に挑めたわけではなかったはずだ。それでもブラウンの上質な技術力は、決して揺らぐことはなかった。4回転以外のあらゆるジャンプは美しく着氷した。複雑でありながら滑らかなステップシークエンスやコレオシークエンスは、SP・FSすべてで出来栄え点「満点」の評価を勝ち取った。演技構成点だけなら、当然のように全参加中で最高得点を叩き出した。2位チェン以下に約5.7点もの差をつけたほど。傑作中の傑作、SP「シマーマン」では音楽解釈で10点満点も得た。
とにかく好パフォーマンスが多く、たくさんの笑顔と感涙に彩られた大会となった。5位カムデン・プルキネンは、これまで安定させられなかった4回転をすべて成功させ、SP・FSとも演技終了直後にガッツポーズが飛び出した。ジミー・マはSPをクリーンに力強くこなして6位入賞。26歳にして、生まれて初めてのISU国際選手権(四大陸)への出場権を手に入れた。
人生3度目の、そしてアメリカのパスポートを手に入れてからは初めての全米選手権を戦ったヤロスラフ・パニオットは、FS演技中に右スケート靴に問題が発生し、無念にも途中棄権に追い込まれた。しかしSPではディスコミュージックで、FSではプレスリーメドレーで、アメリカの観客を大喜びさせた。
11年間キャリアを積み重ねてきたロシアから、今季アメリカに移籍した29歳アルトゥール・ドミトリエフは、11位で初の全米選手権を終えた。FSではジュニア時代、2018年ロシア杯に続き自身3度目の4回転アクセルにもトライ。回転不足を取られ、片手もついたが、3年前のダウングレード+転倒に比べれば一歩前進と言えるのかもしれない。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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