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町田樹のスポーツアカデミア 【Archive:フィギュアスケート・ザ・マスターピース】 アダム・リッポン「牧神の午後への前奏曲」(2013年スケートアメリカ):プログラム分析 第1パート
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部町田樹がアダム・リッポン「牧神の午後」の魅力を徹底解説
みなさん『スポーツアカデミア』にようこそ、町田樹です。シーズン2の第2回目となる【Archive:フィギュアスケート・ザ・マスターピース】では、競技成績では伝えきることができない、プログラムの美質や魅力について、とことん深掘りしていく番組となっています。今回も良質なプログラムが醸し出す奥深き美の世界をみなさんと共に探求していくことといたしましょう。
前回のおさらい
ここからはプログラムを分析していきたいと思います。2013/2014シーズンというのはソチ五輪のシーズンでしたので、代表権を賭けて争う選手たちにとっては一試合一試合が大事なシーズンでした。ですから、みなさん五輪シーズンというのは、勝負作品を持ってくる傾向にあります。アダム・リッポンさんにとってもこの《牧神の午後》はやはり勝負作品だったんです。
プログラムの来歴
そして、このプログラムは実はちょっと変わった来歴があります。ソチ五輪のプレシーズン、つまり2012年から2013年シーズン、このシーズンにアダム選手は順調に競技活動を進めていましたが、実はシーズンの最後の方に足首の怪我を負ってしまいます。そこで競技活動を一旦中断せざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。ソチ五輪のプレシーズンに怪我を負って競技を中断する、これはかなりアダムさんにとってはピンチだったと思います。でも、彼はこのピンチを積極的に捉えて、その怪我の間、つまりソチ五輪の前のシーズンの間に、もう翌年のソチ五輪で戦っていくためのフリープログラムを振付けてしまおうという形でこの《牧神の午後》を創作しました。このプレシーズンの終盤、本当に最後の最後、2013年の4月3日にイタリアのガルデナという地方で、毎年ガルデナスプリングトロフィーという競技会があります。この競技会にでアダム選手は復帰して、《牧神の午後》を試しでパフォーマンスするということになります。
ここで披露されたプログラムはまだまだプロトタイプで、試しに行ってどれだけの点数が取れるのか、このプログラム構成で自分がちゃんとパフォーマンスできるのかということを確認するための競技会でした。そこからソチ五輪へと至るオフシーズンに入るわけです。普通、選手はこのオフシーズンの間に次のシーズンのプログラムの振付をします。しかし、アダム選手は怪我を積極的に捉えて、このオフシーズンより前に振付を用意して、ソチ五輪を戦っていくためのフリープログラムを洗練させていく時間を確保するというような戦略に出るわけです。
そして、アダム選手にとってのソチ五輪シーズン初戦は2013年10月19日のスケートアメリカになるわけですけども、ここが《牧神の午後》2回目のパフォーマンスになるわけです。でも、アダム選手とトム・ディクソンはこのオフシーズンの間に、プログラムが全く違うんじゃないかっていうくらいに改良を加えています。ですから、ここで上演したプロトタイプからかなり進化したものをこのソチ五輪の初戦に持ってきています。私は、ここで分かりやすく説明するために、オフシーズンより前に創作した《牧神の午後》のプログラムを旧版として表現して、スケートアメリカから上演し始めた新しい改良版の振付を新版という風に言いたいと思います。旧版が1回、そして新版が4回、計5回上演されたプログラムになります。今回一番良かったスケートアメリカでのパフォーマンスを取り上げたいと思いますが、アダム・リッポンさんのこのパフォーマンスの美質を明らかにするためには、彼のプログラムの空間構成だったり動作を一つひとつ分解して分析していく必要があります。
フィギュア・ノーテーション
そのためにどうするかと言うと、フィギュア・ノーテーションという、フィギュアスケートのステップワークの動作一つひとつを分解する、フィギュアスケートの動作の記述方法を開発しました。実は舞踊会では、ラバー・ノーテーションやベネッシュ・ノーテーションという、舞踊を記述する方法が開発されています。例えば、ニジンスキーが創作した《牧神の午後》も、そのノーテーションでニジンスキーの動作が整理された著作が発表されています。例えば、音楽の楽譜と、それに基づいてどういう風に踊りが展開していくのかということを、記号で表した楽譜のような形で踊りを記述していくというやり方が開発されているわけです。
このような形で、フィギュアスケートのプログラムも記述していく方法が開発できないかと思い試行錯誤して、私はフィギュア・ノーテーションというものを開発しました。
重要な振付
この167の動作のうち、《牧神の午後》を解釈していく上で重要となる動作だけを抜き出してみると、19の動作が抽出できることが明らかになります。この重要な19の動作を、更に色々と解釈しながら分析を加えていくと、このプログラムは3つのパートに分けることができることが分かってきます。私がこのプログラムを解釈しやすいように、パートごとにテーマを設定してみました。
まず第1パートは、言ってみれば「牧神の詩的世界へのいざない 情景と役柄の提示」、これが第1パートのテーマです。それから第2パート「夢想する牧神 不在のニンフとの戯れ」。そして第3パートは「牧神の見果てぬ夢 先行作品へのオマージュ」。それぞれのパートにこうしたテーマがつけられるほど、パートごとの特徴があります。
第1パート:牧神の詩的世界へのいざない 情景と役柄の提示
第1パート:牧神の私的世界への誘い
《牧神の午後》への前奏曲という音楽が詩人ステファヌ・マラルメの半獣神の午後という詩の作品から着想を得ているということを言いましたけれども、言ってみれば牧神のそうした詩的世界へ見るものを誘っていくということがこの第1パートの役目です。どういう風に牧神の世界へと見るものを誘っているかと言うと、まずニジンスキーが絵画的バレーを作ったように、リッポンさんもこの牧神の午後の第1パートで二次元の空間構成を意識した振付をたくさん入れています。そして、その二次元の空間構成を意識した振付、その全てが、先ほど確認したニジンスキーの牧神のポーズを多用しているわけです。そうすることで、かつてニジンスキーが絵画的バレエを創作したように、リッポンさんも氷上で絵画的なプログラムを作れるように空間を構成するということと、リッポンさん自身が牧神を演じていることを、見るものに伝えるパートになってくるわけです。
最初の立ち姿、これがまず平面的です。ここからスピードをつけて4回転ルッツという大技に果敢に挑んでいくわけです。この闘志もどこか牧神の野性を感じさせますよね。あの牧神を象徴するポーズを、ニンフ役の女性がすることは絶対にありません。ですから、この振りをパフォーマンスするということは、リッポンが牧師を演じているということを意味するわけです。第1部は大技も交えながら、二次元の空間と、牧神という役柄を演じていることを見るものに伝えるわけです。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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