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中国の若手カップルフェイヤオ・タン/ヨンチャオ・ヤン組が大会直前の練習でケガをしてしまい、やむを得ず欠場し、全米王者のアレクサ・シメカ・ケネリム/クリス・ケネリム組もショートの後に家族の事情で辞退したこともあり、9組しか出場しなかった今大会は少し寂しい大会となった。それでも、世界王者のウェンジン・スイ/ツォン・ハン組が王者の風格を見せ、逆転優勝を果たせた場面もあれば、ジェシカ・カララン/ブライアン・ジョンソン組やエブリン・ワルシュ/トレン・ミショー組のような若手選手が大活躍したシーンもあったので、見どころ満載の大会だったと言えよう。
1位 ウェンジン・スイ/ツォン・ハン(中国)
今やペアスケーティングの顔とも言える、現世界王者たるスイ/ハン組、彼らの優勝は誰もが予想していたが、まさにショートプログラム(SP)3位からの巻き返しとは、なかなか意外だった。
SPの曲は「Blues Deluxe」。ブルーズとロックの音楽に合わせるため、スイは特別にキラキラでセクシーな衣装を作ってもらったが、まさにハンにとって手が滑りやすいデザインとなってしまい、スロージャンプでスイを投げるときに力が入れられず、2回転となってしまった。演技後、スイが「グランプリファイナルのときにすでに気づいたが、衣装の問題じゃないと結論をつけてしまい、解決しなかった」と話し、悔しそうな顔をしていた。
しかしさすが世界チャンピオンで、フリースケーティング(FS)「Rain, In Your Black Eyes」の音楽が始まると、すっかりとSPのアクシデントを忘れ自分の世界に入り込み、王者たる演技を見せてくれた。サイド・バイ・サイドの3サルコウでスイがダブルとなった以外、他のエレメンツをすべて高い質で完成し、+4、+5のGOEも多くもらった。ローリー・ニコルが振り付けたこのプログラムにはアイスダンスの要素がいっぱい入っていて、つなぎの動きも独特で巧妙だが、今大会での演技にまた若干細かい変更があり、いくつか新しい振り付けが見られた。それについて聞くと、スイが「ファイナルのとき1つのリフトでレベルを取りこぼしたので、動きを変えなきゃいけなかった。するとこのリフトを完成する時間が長くなり、リフトの前後にいっぱい入れてあったつなぎの振り付けも合わせて変えなきゃいけなかった。これで、またいくつか新しい動きを考案して入れた」と説明した。なるほど。そうすることでレベルの課題を解決し、FSで久々にオールレベル4を獲得することができた。このように、技術点から表現力まで、細かいところまで気をつけながら滑る2人が、四大陸史上最多(しかも全種目において)となる6度目の戴冠を果たしたのも当然だ。
2位 チャン・ペン/ヤーン・ジン(中国)
グランプリファイナルに続き、大きな舞台でまた銀メダルを獲得したのは、ペン/ジン組。SPはシルク・ドゥ・ソレイユの「Alegria」の曲に合わせ、エレメンツを軽々と高い質で完成し、パーソナルベストの高得点を叩き出した。その演技を見ると、2人はまさに絶好調と思ったが、演技後、ペンが大会の直前に足首が捻挫し、鎮痛剤を飲んでから本番に出たと披露し、今大会にかける強い思いを見せた。
さらに、FSでは昨シーズンからほぼ試合で跳んだことのない3サルコウに果敢に挑み、見事に成功した。「本番の直前まで、(3サルコウを)やるかやらないか迷っていたが、現在中国でコロナウイルスと戦っている最前線にいる医療関係の方々のことを思い出すと、私たちは萎縮している場合じゃない、戦うしかないと思った」とペンが演技後コメントし、挑戦の原動力を明かした。もちろん、二人が強いのは精神力だけではない。SPに続き、FSをもほぼノーミスで滑りきり、エレガントなスケーティングとダイナミックなリフトで会場を魅了した。その結果、昨年から1つ順位を上げ、銀メダルに輝いた。
3位 キルステン・ムーア=タワーズ/マイケル・マリナロ(カナダ)
昨年の銀メダリスト、カナダ王者たるムーア=タワーズ/マリナロ組は、SPで好調子を見せた。冒頭のツイストから降りてからエレメンツを次々とクリアし、音楽に合わせた力強いステップシークエンスと最後の巧妙なエンディング・ポーズで会場を沸かせた。この素晴らしい演技でパーソナルベストを更新し、SP1位についた。 しかしFSの演技では2つのサイド・バイ・サイド・ジャンプが共にダブルになってしまい、エレメンツのレベルを上げられず、さらに転倒した場面もあるなど、ミスが頻出した。演技後、ムーア=タワーズは「いったい何があったのか、私たちもわからない」とがっかりした顔で話したが、「試合ってこんなもんだよね、おかしいことが起こるさ。気にせず、次に向けて練習したい」と前向きに語った。ぜひ気を取り直して、地元カナダで開催される世界選手権で本当の実力を見せてほしい。
表彰台の3組以外、全米選手権で2位に輝き、今大会でも4位に入賞したジェシカ・カララン/ブライアン・ジョンソン組の活躍ぶりもぜひ見逃したくないし、ISUチャンピオンシップ大会に出場を果たせた史上初の東南アジア出身のペア、フィリピンのがメズ/パラディス組にもぜひ応援を送りたい。
最後に忘れてはならないのは、今シーズン新しく結成されて以来、大会ごとに進歩を見せた三浦璃来/木原龍一組。SP、FSとも目標としてたノーミスができなかったが、ペアとしてのユニゾンやケミストリーがより一層増し、演技構成点が7点台まで近づいた。着実に成長してきた2人には、来月の世界選手権でさらなる進歩を見せ、フリーへと進出できるよう頑張ってほしい。
文:ウェイ・ション
ウェイ・ション
中国広東省出身、早稲田大学アジア太平洋研究科を卒業。 コンサルタントを勤めながら、フリーランスのジャーナリスト・通訳として活動。数々のフィギュアスケート国際大会で記者会見の通訳を担当する経験があり、昨シーズンから国際スケート連盟ホームページの選手フィーチャーインタビュー・記事も執筆。趣味はフィギュアスケートの各種記録、データを覚えること。
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