人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
Text by 中村康一(Image Works)
今年の全国中学校大会、長縄和奏の欠場は残念だったが、さすがにバヴァリアンオープンへの連戦は難しいスケジュールだった。とはいえ、住吉りをんが全日本ノービス以来の全国大会での優勝を果たし、田中梓沙という新星も現れた、将来への希望を感じさせる大会となった。
1位 住吉りをん
ショートプログラムでは冒頭のダブルアクセルがパンク、ノーバリューとなってしまった。6分間練習からやりにくそうにしていたのが気がかりだったのだが、「6分間でうまくはまらなかったので、考え過ぎてしまった」とのこと。ただその失敗のために「固くなるんじゃなくて、やらなきゃ、といい緊張になった」と、立て直しには成功した。「フリーでは無駄なミスをしないで、表彰台に上りたい」と抱負を語ってくれた。ショートプログラムを終えて首位の岡田選手とは5.25差の4位。逆転圏内とはいえ、なかなかの点差だ。
そして迎えたフリー、住吉選手は多少のミスはあったものの、しっかりとまとめた演技を披露、見事な逆転優勝を果たした。 「少しミスはあったんですけど、まとめ上げられたことが嬉しいです。とにかく嬉しい。良かった点はジャンプがほとんど入ったことと、思いっ切り演技できたこと。去年の悔しさも併せて、すごく嬉しかったです」。
昨年の全中で彼女はショート落ちだったのだ。「去年の悔しさがあった分、バネにできた」と語ってくれた。 「まだ実感が沸いてなくて、全日本ノービスを優勝した時と同じ感覚で、訳が分からない状態です」。
今季はジャンプの安定感を欠いたことで苦労した試合が多かった印象だ。昨シーズンと違い、怪我などの不安材料はなかったようなのだが、なかなか軌道に乗らずに苦労してきた。今回の素晴らしい演技の要因については、 「ちゃんと集中できたことと、去年のことを考えて、絶対やるぞ、という強い気持ちになれたのが大きかった」。 と分析してくれた。実はフリー当日、朝の公式練習で最も調子が良さそうに見えたのが住吉選手だった。その時点から逆転優勝の予感を感じていたのだが、本人はそこまで確信を持てていなかったようで、 「曲かけの前は調子が悪くて、(今日は駄目かも)と思っていたんです。でも曲かけが終わって、先生からも『いいね』って言ってもらえて、ちょっとずついい方向に気持ちを持って行けました」。
住吉選手はノービス最終年に全日本ノービスを優勝、そして今年は最後の全中を優勝。節目節目でしっかりとタイトルを取っているのは見事だ。今後の抱負については、 「新しいジャンプも覚えたいし、スケーティングも向上させたい。ハーネスを使ってトリプルアクセルの練習をしています」。 と話してくれた。トリプルアクセルは今年中には降りたいという。試合で披露できるまでには時間がかかりそう、とのことだが、楽しみに待ちたい。
2位 田中梓沙
田中梓沙の活躍には驚かされた。初出場の中学1年生。今季はまだノービスだ。昨年の野辺山合宿で頭角を現し、全日本ノービスに推薦出場したほどの逸材ではあるのだが、その全日本ノービスでは7位と振るわず、全日本ジュニアへの出場も逃してしまった。だが今回の演技は掛け値なしに素晴らしかった。ショートプログラムのスコアは56.21の2位。ノービス年代ということでフリーでどこまで得点を伸ばすかは半信半疑だったのだが、そのフリーでも2位と大健闘。全中初出場での2位入賞は特筆ものだ。
「良い演技が自分の中ではできたかな、と思うので良かったです。伸びるスケーティングを意識していたので、そこができてたかな、と思います」。 その言葉通り、PCSではノービス年代とは思えない高い評価を得ることができた。7位に終わった全日本ノービスから短期間での劇的な進化。その理由を尋ねてみると、 「全日本ノービスの時は気持ちが弱かったので、そこを強化してきました。跳ぶときに自分の気持ちを整えてから跳ぶんじゃなくて、『跳んで』って言われてすぐに跳べるように練習してきました」。
構えずにすぐに跳べるように、との練習をしてきた成果が出たのだという。そして、得意のスケーティングについては、 「ジャンプがあまり得意じゃなかったので、スケーティングに力を入れて練習していました」。 と、苦手のジャンプを補おうと意欲的に練習してきたのだという。そんな選手が、ジャンプの能力も身に着けつつあるのだ。今回の高い評価も納得だ。しばらく前までは、この世代は手嶋里佳、吉田陽菜が頭一つ抜け出ている印象だったのだが、決してそんなことはないと証明して見せた。今後の対決が見ものだ。
3位 岡田芹菜
岡田芹菜のショートプログラムの演技は衝撃的だった。同じくノーミスの演技だった西日本ジュニアのショートプログラムと比較して、3.40も得点が伸びている。西日本ジュニアとはTESはさほど変わらないのだが、PCSが3点以上も伸びたのだ。昨シーズンまでPCSが低かったため、表現、スケーティングの改善を心掛けて練習してきたのだという。全日本ジュニアではあまり良い演技ができなかったのだが、そこでの反省点を練習に生かし、全中に向けて準備してきたそうだ。その成果が表れたのだろう、スピード、エッジの深さが更に向上した印象だ。ただフリーでは、後半のジャンプで崩れ、総合3位に後退してしまった。
「後半、自分が得意としているアクセル+トウやサルコウで失敗してしまったことが残念でした」。 優勝を狙えるポジションにいたことが、プレッシャーになった面もあったようだ。
「ショートが凄く良かったんですが、フリーでは緊張してしまったのが残念です。いつもショートは良くて、フリーの後半でミスをしてしまうので、そのこともあって緊張してしまいました」。 とはいえ、今季の西日本ジュニア、そして全中でのパフォーマンスは素晴らしいアピールになった。来季はシーズン当初から注目選手として脚光を浴びることになるはずだ。
4位 鈴木なつ
鈴木なつも事前の予想を覆す演技を披露した一人だ。最近はミスの多い試合が続いていたのだが、それは怪我などの不調によるものではなく、緊張が原因だったのだという。ショートプログラムでは緊張で足が震えていたそうだが、「自分に集中して、最後まで滑り切ろうという気持ちが強かった」ことが、緊張の克服につながったようだ。そして続くフリーでもノーミスの会心の演技。不振に終わった全日本ジュニアの後から、この全中を目標に頑張ってきたというが、メンタル面の課題を短期間に改善できたことは素晴らしい。
「順位や数字を気にすると駄目かな、と思って、今回は自分のことだけに集中できたことが良かったかなと思います。全日本ジュニアでは狙い過ぎてうまく行かなかったと思います。来季は、全日本ジュニアで今回のような演技をできるようにしたい」。
練習でのパフォーマンスを試合で出せるようになっただけに、来季はどれほどの活躍をしてくれるのか、楽しみに待ちたい。
5位 松生理乃
今季、急成長を見せている松生選手だが、ショートプログラムではフライングキャメルスピンの入りに失敗し、ノーバリューとなってしまった。 「緊張して、決めなきゃ、って気持ちが強すぎました」。 GOEの加点込みで3点以上を失ったことになるが、それでも52.68と高得点をマークした。高い評価の表れだ。そしてフリーでは若干のミスはあったものの、しっかりとまとめた演技で5位入賞を果たした。
「ショートでは失敗してしまって緊張してましたけど、大きなミスなく終えられてほっとしてます」。
最近の活躍からは信じられないのだが、少し前まではジャンプを苦手としていたそうだ。
「ダブルアクセルが跳べるようになるまで2年かかってしまったんです。6年生から練習を始めて、中学1年生でやっと跳べるようになりました」。 ただ、ダブルアクセルを習得してからの進化は早く、短期間のうちに5種類のトリプルジャンプを跳べるようになったのだという。同じクラブの宇野昌磨、山下真瑚をお手本にしていて、将来の目標は浅田真央のような選手になることだと話してくれた。オフにはトリプルアクセルにも挑戦するという。また一人、将来有望な選手が現れた。6位 手嶋里佳
今季の全日本ノービスチャンピオンとして出場した手嶋里佳、だがここでは期待されたほどの快進撃とはいかなかった。ショート、フリー、ともにほぼノーミスの演技を披露したのだが、さほど点数が伸びなかったのだ。
「一応、ノーミスはできたんですけど、やっぱりノービスとは違ってジャンプだけでは駄目。やはり練習方法などを見直さないといけないと感じました。一番足りないと思うのは、下の点(PCS)。スケーティングや表現力。表現がジュニアになると大切になってくるし、スピードもジュニアの選手に比べると足りないと感じました」。
2位に入った田中選手は同じ学年。手嶋選手が苦労したPCSで、田中選手は高得点をマークした。このことはかなり刺激になったようで、 「同じ中一なので、負けたことは悔しいです。次は勝てるようにしたい」。 と対抗心を燃やしていた。ただ今後につながる教訓として、この大会から学んだことは大きかったようだ。
「課題が沢山出たし、もっとやらなければいけないことが分かったので、そういう意味では良い大会だったと思います。普段の練習からスピードを意識して、スケーティングを良くしたい。もっとつなぎを意識して練習していきたい」。 今回の経験が、さらなる飛躍につながる糧となることだろう。
9位 本田望結
今季の本田望結は本当に頑張っていた。以前からハードスケジュールの中、一生懸命練習に打ち込む姿には感銘を受けたものだが、今季は今までにないほど練習量を増やし、この大会は十分に表彰台を狙える状態で臨んだはずだ。だが試合本番で結果を出すには、あと少しだけ何かが足りなかったようだ。
この大会での本田選手は、練習から鬼気迫る気合を感じさせていた。その背景には不本意な結果に終わった全日本ジュニアの記憶があったようだ。ショート後の取材では、 「あの悔しさは数か月で消えるものではないので、一生胸に刻んでいきます」。 とまで語ったほどだ。その悔しさをバネに臨んだフリーだが、全く不本意な出来栄えに終わってしまった。ミックスゾーンでは、呆然として涙を見せる姿があった。
「良かったところは、今日は全くなかったです。こけるのを耐えた感じだったので。悔しさよりも、何でだろう?という気持ち」。 確実に力はついてきている。ただ今回は結果に結びつくまでに至らなかった。
「自分の演技ができれば入賞できる状態だったのに、それを達成できなかったですし、この1年積み重ねてきたものが出せなかったことが悔しい。『強くなって帰ってきたね』と言ってもらえるように頑張りたいです」。 涙を見せながら健気に取材に対応してくれた。
「気持ちが決して弱いわけではないですけど、何か自分の中に弱い部分があるからこうなっているのは分かっています。練習が悪くなかったからこそ悔しいですし、自分の力を発揮できなかったのが悔しい。駄目過ぎて、今の自分の状態は言葉では分からないです」。 と、厳しい言葉を並べて反省していた。ただ今季の彼女の演技を観ていて強く感じたのは、確かにパワーはついたのだが、そのことでジャンプが力任せになってしまっていることだ。身に着けた力をまだうまく使いこなせていないのだろう。もっとも昨シーズンまでに比べればはっきりと実力が伸びていることも分かる。本人も周囲も、性急に結果を求めすぎているだけのようにも思える。反省点の多い大会となってしまったが、彼女ならではの独特の世界観、表現力は変わらず魅力的だったことも忘れてはならない。来季は是非とも笑顔いっぱいで取材を受けてもらいたいものだ。
中村康一(Image Works)
フィギュアスケートを中心に活躍するスポーツフォトグラファー。日本全国の大会を飛び回り、選手の最高の瞬間を撮影するために、日夜シャッターを押し続ける。Image Works代表。
あわせて読みたい
-
フィギュア スケート コラム
-
フィギュア スケート コラム
-
フィギュア スケート コラム
-
フィギュア スケート コラム
-
フィギュア スケート コラム
田中梓沙選手&西山真瑚選手「2人だからこそ、より深く表現できる」 | フィギュアスケーターのオアシス♪ KENJIの部屋
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
アルペンスキー FIS ワールドカップ 2024/25 男子 スラローム レヴィ/フィンランド(11/17)
11月17日 午後5:45〜
-
アルペンスキー FIS ワールドカップ 2024/25 男子 ジャイアントスラローム ゼルデン/オーストリア(10/27)
10月27日 午後5:45〜
-
10月26日 午前10:20〜
-
世界で躍動SNOW JAPAN!FISワールドカップ2024/25 ~スキー&スノーボード ナビ~
11月12日 午後2:30〜
-
町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:今シーズンのルール改正点とISUの中期ビジョン】 #16
10月22日 午後9:00〜
-
フィギュアスケーターのオアシス♪ KENJIの部屋 【宇野昌磨】
9月17日 午後10:00〜
-
スノーボード FIS ワールドカップ 2024/25 男女 ビッグエア クール/スイス(10/19)
10月19日 深夜2:50〜
-
町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~現代におけるコーチの存在意義を求めて 日本体育大学 体育学部 佐良土茂樹准教授#15
9月24日 午後12:30〜
【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~現代におけるコーチの存在意義を求めて~ 日本体育大学 体育学部 佐良土茂樹准教授
J SPORTSで
フィギュア スケートを応援しよう!