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ルールがわかれば、フィギュアスケートをもっと楽しんでもらえるはず!そんな思いのもと、美しいスケーティングと独自のスケート理論をもつ小塚崇彦がシングルにとどまらず、ペアやアイスダンスといったカップル競技まで枠を広げ、「フィギュアスケート」について徹底研究。
フィギュアスケート・ラボでは、18/19シーズンのルールを研究。 GOEの評価はどう変わったのか?演技時間は?ジャンプの数は?ペアやアイスダンスの改正ポイントは?シングル&ペア編ではISU技術委員の岡部由起子さんをお迎えしてご説明いただきます。
【18/19シーズン ペアのルール変更点】
CCoSp→SP PCoSp→FS 固定に
小塚:こちらは、ペアの選手の構成要素をボードに書き出したものなんですけれども。ペアも、男子シングルのフリーと一緒で、4分半から4分に時間の変更がなされたのですが、こちらも何か1つ(構成要素が)抜けることになるんですか?
岡部:この8番の構成要素はソロスピン・コンビネーションで足換わり(CCoSp)っていうものなんですけれども、これはショートプログラムに必ず入れることになりました。そして9番はペアスピン・コンビネーション(PCoSp)なんですけれども、フリーにはこれを必ず入れるということで、固定になりました。つまりソロスピン・コンビネーションが、今シーズンからはフリーからなくなるということになります。
小塚:じゃあこの8番はフリーからなくなるということですね。
岡部:はい。ジャンプエレメンツやソロスピンはシングルの要素なんですけれども、あとはスローにしてもリフトにしてもほんとにペアとしてでないと成立しない要素ですね。なので、言い方が変ですけれども、削るとしたらこのシングルの要素と言いますか、ソロとしての要素であるジャンプもしくはソロスピンしか考えられなかったんです。で、そのうちのジャンプエレメンツが2つあったので1つにしようという意見と、スピンのどちらかを固定でフリーかショートのどちらかに入れようっていう考え方と、だいぶ議論がされまして。選手やコーチの方にいろいろ意見を聞いて、この結果になったという。
小塚:じゃあどちらかというと、ジャンプを重視したいっていう考え方よりも、よりペアらしく…。
岡部:そうしたいということには変わりはないですね。で、実は2年前の総会では「ペアの要素からコレオ・シークェンスを抜く」っていうことが決まっていたんですね。シングルの要素からジャンプを1つ減らすっていうのと同じように。でも、コレオ・シークェンスってとても大事な要素の1つで、ペアらしさを出せる要素でもあるので、これは残すべきだっていう議論がこの2年間で行われて。ではフリーの中からどれをその代わりに取るかっていうことで、ソロスピンに落ち着いて、今年の総会で決定されました。
小塚:じゃあもう2年前に一応決まったことでも、覆されて残ったんですね。その代わりにじゃあ何を抜くかって考えたうえで、ソロのものを抜いて、よりペアらしくプログラムを作ってもらう、っていうことなんですね。
3つのリフトはすべてが同じグループからではいけない
小塚:何か他にリフトとかで変更点は?
岡部:リフトで言いますと、以前は「3つのリフトはすべてがグループ5ではいけません」っていうルールだったんですけれども、今年から文言が少し変わりまして「3つすべてが同じグループからではいけません」っていうことで(グループ5という)縛りがなくなりました。ただ、グループ5っていうのはリバースやアクセル、トウ、ステップインなどがあったりするんですけど、グループ3とかグループ4っていうのはそれだけで他に種類がないんですね。同じ種類のものはやれないので、結局もしパターン的にやるとしたら、グループ5がたぶん2つか、もしくはグループ5、4、3ぐらいですかね。
StSq(SP)で男女が離れてよい距離は3m以内に
小塚:他にペアの変更点っていうのは何かありますか?
岡部:ちょっと技術的なことになってくるんですけど、ペアではステップ・シークェンスが、フリーにはないのですがショートに入っているんですね。ステップ・シークェンスのパターンの2分の1以内に交差を3回するとレベルが1つ上がるっていうルールがあったのですが、交差をしたときに女子と男子がとても離れるケースが多く見られるようになったんです。で、あまりにも離れすぎるのもよくないっていうことで、女子と男子の離れていい距離が3m以内というふうに今年変わりました。
小塚:3mというと、手を広げて、人がひとり間に入っているぐらいの距離感じゃないと…。
岡部:そうですね。それ以上離れちゃうと、そのフィーチャーは取れない。
ジャンプ・シークェンスのルール変更点
小塚:あとジャンプで変更点はありますか?まあ技術的な面とかでも。
岡部:技術的な面では、今までジャンプ・シークェンスっていうものがあったのですけれど。今シーズンからは、1つめのジャンプを降りてそのままステップインして跳ぶアクセル系のジャンプ以外は、シークェンス扱いはなくなったという。
小塚:じゃあ、ホップして跳んでいくっていうのは?
岡部:もうシークェンスではなくなったっていうことです。
小塚:なし、なんですね。へぇ~。それを実際に映像を見ながらちょっと解説をしていただきたいと思うんですけれども。
岡部:はい。ここでは最初にダブルアクセル、そしてホップして、ホップして、次のダブルアクセルを跳んでいます。今まではこれがシークェンス扱いできたのですけれども、今シーズンからは、最初にダブルアクセルが終わって、そのまま再度踏み込んで次のダブルアクセルをする連続したもの、となります。1つめのジャンプは必ずしもアクセルでなくてもいいのですが、このパターン以外はもうシークェンス扱いはなくなりました。
小塚:じゃあダブルアクセルを降りて、右足で着氷して、そして左足が出たらそのまま踏み切って跳んでいかなきゃいけないってことですね。これまではいろいろホップしたりとかちょっと小さく跳んだりとかしてもよかったんだけれど、それはなくなったってことですね。
岡部:はい、そうです。なので、2つめに行われるジャンプは、今はもうアクセルしかなくなりました。
違反要素の緩和
小塚:違反要素にはこれまでも、サマーソルト型のジャンプをしてはいけないとかっていうのはあったと思うんですけど、またちょっと変わったって聞いたのですが。
岡部:違反要素は今まで8つあったんですね。違反要素をしてしまうと-2の減点をされていたんですけれども、今回から「サマーソルト型のジャンプ」、それから「不正なホールドでのリフト」つまり普通のホールドとは違う、例えば靴を持っているとか足首持っちゃうとか、そういうことをしてはいけないんですけれども、その2つの違反要素のみが残されて、あとの6つは全部なくなりました。
小塚:(今までの違反要素だった)「パートナーが他のパートナーに向かってジャンプする」って、飛び込んでいくってことですよね?
岡部:そうですね。これみなさんもご覧になったことがあると思うんですけれども。例えば、スイハンっていう中国のすばらしいペアがいるんですが、女の子が男の子にちょっと飛び込んでいく形で、それを受け止めて次のムーブメントに行くっていうことをやってたのをちょっと思い出していただくと、ああいうものを指しているので。
小塚:なるほど、なるほど。
岡部:減点されていませんけれども、あれは減点できないじゃないですか。やっぱりあれはすごくオリジナリティがあるムーブメントで、そういうものを違反としていいんだろうかっていう話から、いやもうそれはやらせてあげたいし、やることによってもっと彩りのあるプログラムが見れるってことで。それで、(今回なくなった)それぞれの違反要素について「(違反でなくても)いいのではないか」となりました。
小塚:ふーん、なるほど。
岡部:(これまで違反だった)「男子が3回転半を超えて回転するリフト」っていう要素、これも段階がありまして、以前は全くバリューが入らなかったんです。バリューが入らなくてしかもマイナスにもされていた。ところが、バリューが入らないのはかわいそうじゃないかっていうことで、ベースは入るけれどもそれ以上は入れられないっていうふうに変わっていって。で、今年からは、3回転半を超えるものに対しては、そこから先のレベルを取るためのフィーチャーは数えないけれども、そこまでは数えていいよっていうふうに、ちょっと選手にとっては優しくなっています。
小塚:ちょっとずつ緩和されてきたんですね。じゃあ少しずつ規制がかからなくなったっていうのも、よりオリジナリティや選手の個性を出していくためのルール改正だって考えていいんですね。
岡部:はい。まさしくそのとおりです。
小塚:どんどん新しいことをやっていって欲しいっていうことですよね。
岡部:そうです。ただ、危険であることはいけないので、ちょっと先に行ってあまりにも危険なことを選手たちがやり始めたとなると、またそれは次のルール改正に繋がっていくのかなというふうに考えています。
FS進出が16組→20組に(世界選手権のみ)
小塚:フリーが4分になったっていうふうに話をしてきましたけれども、フリーに進める人数っていうのは?
岡部:ペアの場合は16組のみだったんですね。で、世界選手権に限りなんですけれども、今シーズンからは20組がフリーに進めるようになりました。
小塚:へえ~。
岡部:昨シーズン、それからその前のシーズンも、ペアのレベルがとてもよくなってきて、16位と17位、18位との差がほんとにないぐらい選手たちが揃ってきています。その中で、例えばシングルは24名、アイスダンスは20組フリーに出られるのに、なぜペアだけ16組っていう少ない数なんだろうっていうことを考えて。レベルがそこまで上がっていなければ我々もあんまり感じなかったのですけれど、とても上がってきているのを見たときに、「これは20組にしていいんではないか」というアジェンダを緊急で出しまして、それが通ったっていうところです。
小塚:ペアの人たちの技術が進歩したっていうのもあるし、ここから先もより成長していって欲しいっていう思いもあるし。
岡部:そうですね。目指せるところ?つまり、フリーのファイナリストになれるっていう思い、みなさんそう思って練習してるんですけども、それがより身近になってくることによって、モチベーションがより上がってくるかなということもあると思います。
PCS(Program Component Score)
岡部:プログラム・コンポーネンツなんですけれども、まああの文言の違いといいますか、10点満点と9点台はやっぱり違うだろう、ということになりまして。今までは10点も9点台もOutstanding(傑出)だったのが、9点台はExcellent(卓越)になりました。
小塚:前までは、10点も9点台もOutstandingでひとくくりだったんですね。
岡部:そうだったんですけれども、今シーズンからは10点と9点台を分けようではないか、というふうに変わりました。10点というのは何か重大なエラーがあったときには出してはいけない。9点台もExcellent=すばらしいという意味ですので、転倒とかの重大なエラーが複数回あったときは、スケーティングスキル(SS:スケーティング技術)、トランジション(TR:要素のつなぎ)、コンポジション(CO:振り付け/構成)に関しては9.5以上、パフォーマンス(PE:動作/身のこなし)とインタープリテーション(IN:曲の解釈)は9.0以上出してはいけない、というふうにガイドラインが示されました。
小塚:ほんとに、技術点とPCSがずいぶん繋がってくるような形になるということですよね。
岡部:完成度の高い演技を目指すという話にまた戻りますが、転倒するとかっていう重大なミスを犯していたにもかかわらずその選手が勝つという現象が起こり得る競技なんですけれども、このコンポーネンツのところが改正され、そしてミスをしたときの点数の減り方もちょっと多くなることによって、できるだけそれが起こり得ないようにしようということですね。
小塚:いろいろなことに挑戦するのは大事だけれど、挑戦する以上に完成度を高くして、すばらしいものを発表のときに見せてくださいねっていうことなんですね。
岡部:そうですね。挑戦はもちろんして欲しいので、「完成度の高いものをしたときには今まで以上に点数がもらえますよ」っていうふうにルールは改正されました。
最後に
小塚:まあこれから、このルールっていうのを駆使してどんどん点数を取っていってもらって、そういったところでワクワクするのもお客さんとしての楽しみにもなるし。
岡部:そうですね。今までの点数の出方で「○点ぐらいだとこの程度だ」って何年間か簡単に予想できたのですけれど、またちょっと変わったので、そういった意味では違ったワクワクもできるかなという気はします。-5および+5に関するGOEのガイドラインが新しく出まして、日本語版は日本スケート連盟のホームページで見ることができます。それから、ISUのホームページにはこれらの変更を説明した動画が上がっていますので、もしよかったらISUのサイトで確認していただければと思います。
小塚:そちらのほうではなんとなく「GOEで+3になるのがこういうものなんだよ」っていうのが説明されているんですか?
岡部:動画の中では例えば「+5をもらうためには6つの項目のうちの上3つを満たしていないとだめですよ」とか、そのうちのジャンプでいえば「高さと距離があるっていう部分のいい例はこの選手ですよ」とかいうふうに、例も出ていますので。
小塚:可視化できるように、例がちゃんと動画として載ってるってことですね。
岡部:はい。ですので、もしよろしかったら見ていただきたいなと思います。
小塚:そうですね、確認してもらったほうが、今後シーズンを通じて点数を予想するっていう意味でも楽しくなってくるってことですね。
岡部:はい、そう思います。
まとめ
小塚:最後に、研究の成果/結果を発表したいと思います。1つめは、「新シーズンが始まらないとわからないワクワク感がある」。僕自身が感じたことなんですけれども、やはりルール改正が起こると、新しいシーズンが始まってみないとどういった展開/雰囲気になるのかがわからないので、そういったところを楽しみにしていきたいなと思います。
そして2つめは「ルール改正は選手たちへの道しるべであり、スケート界がこうなっていって欲しいというISUの愛情である」。
僕自身、選手でやっていたときっていうのはすごく窮屈で抑え込まれているというイメージがあったんですけれども、そういう意味でルール改正をしているわけではなく、選手たちへの道しるべ、これからどういう選手になっていって欲しいか、スケート界はどういうふうになっていって欲しいかっていう、ISU(国際スケート連盟)の愛情なのかなっていうふうに感じました。
今日は岡部さんからたくさんのことを学びましたけれども、もちろん技術的なことやルール的なこともそうでしたが、まあ大人の人たちがどういうふうに考えて、選手たちがどういうふうになっていって欲しいか、そういった愛情がとてもあふれていたんじゃないかなと思うので、これからルールがどんどんいい方向に向かっていってもらいたいなと思っています。新しいシーズン、新しいルールのもとでどんなシーズンになっていくのかとても楽しみです。
J SPORTS 編集部
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