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1年間の社会人生活を経て、今年2月、フィギュアスケートの世界へ戻ってきた、日本を代表するトップスケーター・小塚崇彦がお送りする「小塚崇彦のフィギュアスケート・ラボ2017」。平昌五輪に向けて、ペア・アイスダンスといったカップル競技にも注目が集まる中、この番組では美しいスケーティングと独自のスケート理論を持つ小塚崇彦がカップル競技について徹底研究。みなさんの「?」を解消します。
「小塚崇彦のフィギュアスケート・ラボ2017 ペア 前編」はこちらから
「小塚崇彦のフィギュアスケート・ラボ2017 ペア 後編」はこちらから
【特別講師】
東野章子(ひがしの あやこ)元アイスダンス選手。(ISUテクニカルスペシャリスト)88~91年全日本選手権のアイスダンスで4年連続2位。当時のパートナーは松村達郎氏。現在はコーチ、ISUテクニカル・スペシャリストとして活躍。
J SPORTSの解説者としてもお馴染み。
アイスダンスとペアの違い
小塚:アイスダンスとペアどういったところが違いますか?
東野:もちろんペアもアイスダンスも同じカップル競技なんですが、まず1つはペアには二人で跳ぶジャンプ、そしてリフトなどありますけど、ダンスには空中でするジャンプはありません。そのかわり、二人は近く人いなければいけないんですね。イメージとして、たとえば小塚くんと私が別々に1本ずつ傘をもっていろんなことをするというイメージであるならば、ダンスは小塚君が持っていただく傘の下に二人が入っていつでも二人の距離は密接な感じ、二人のコネクションを常に最重要課題にしています。 それによって派生してくる、ペアのハイライトといわれるリフトに対しては、リフトする男性の手の高さに制限はありませんが、ダンスには手の高さが頭より上になってはいけないという制限があります。それからダンスにはジャンプがないと先ほど申し上げましたが、ダンスでは1回転半以上のジャンプはすでに違反の要素になってしまっているんですね。さらに二人で一緒にジャンプをすることも1回転以下でないといけません。
小塚:じゃあもう、ペアはダイナミックな感じで、アイスダンスはもっと華やかさというか、そういったところ重視する感じなんですね。
東野:そうですね。やはりポイントとしては二人のコネクション。常にコネクトしていなくてはいけない。やはり男女のいろいろな感情の、その濃密な感情の変化などを洗練された滑りで表現していく。音楽との一体感、協調性というのがより多く求められている分野です。
ブレードの違い
小塚:実はですね。僕自身もブレードの開発をしているんですが、シングルのブレード共にアイスダンスのブレードも開発しているんですけれど、はっきり言って、いままであるものを研究して作ってみたんですけど、ちょっと違いがあるので、ブレードの違いなんかも説明していただけるとありがたいです。
東野:シングルのブレードはジャンプをするための大きなトウピックがあります。一番下のトウピックもやはりきちんとついています。ダンスのブレードはトウピックがほとんどありません。一番下のトウピックでもひっかくことなくスッと滑ることができるんですね。
小塚:アイスダンスのブレードの方がひっかかりが少ないんですね。
東野:2つめが、ブレードの長さです。決定的に違うのが、アイスダンスのブレードはシングルと比べて短いんですね。シングルの場合はジャンプを跳んだり様々な激しい動きをするので長いです。アイスダンスの場合は自分の足と同じような感覚でフットワークを踏むという滑りを重視していますので、そこが違います。3つめが厚さなんですけど、シングルのブレードと比べるとアイスダンスのブレードは薄いですよね。これはよりアウトサイド、インサイドを自分の足の裏の感覚と同じように使い分けて正確なフットワークを踏んでいけるように薄く作られています。
小塚:じゃあもうアイスダンスとシングルのブレードでも違いがある。そういった中で、色々とルールとしても違いが出てくるし、競技性としても違いが出てくるということなんですね。
東野:はい。やはりアイスダンスの場合は何よりも、先ほど申し上げたように2人の関係性を保ちつつ、洗練されたフットワークで音楽性を表現したり、あるいは技術を追求していくのがメインですからブレードもそれに見合ったものになっています。私も少しアイスショーをやっていたんですけど、最初は長さに戸惑うこともありました。
小塚:やはり慣れとかそういうものもありますよね。
東野:そうですね。ジュニア時代、シングルと並行してアイスダンスをする選手もいるので、シングルのブレードでアイスダンスを経験している選手もいますが、やはりトップシニアになっていく過程の中では、洗練されたフットワークをするためにアイスダンス用のブレードになっていきます。
小塚:なるほど。それでは具体的にルールとか、どういった競技なのかを教えて頂きたいと思います。
ショートダンス
小塚:シングルとかペアでいう、ショートプログラムという感覚でよろしいでしょうか。
東野:はい。現在はアイスダンスもショートダンスとフリーダンスの2日間で行われてますが、2010年まではコンパルソリーダンスが、オリジナルダンス、フリーダンスの3日間で行われていました。2010年以降、バンクーバーオリンピックの年ですよね。そこでコンパルソリー、オリジナルダンスを合体させる形でショートダンスという新しい名称になり、アイスダンスもシングルと同じように2日間の日程で順位を競っていくようになりました。それと同時にコンパルソリーダンスがパターンダンスと名称を変えました。
小塚:はい。
東野:そして、現在はショートダンスの中に、毎年技術委員会から指定はあるんですがパターンダンスが必須エレメンツとして入ります。アイスダンスの基礎であるコンパルソリーダンスを残していく形をとっています。
小塚:はい。それにオリジナルダンスが融合したものがショートダンスなんですね。
東野:そうですね。少し遅れてアイスダンスもシングルと同じように2日間で争われる競技になりました。また、シングル、ペアの場合は選曲に制限がないですよね?
小塚: はい。
東野: アイスダンスの場合は毎年指定されるリズムがあります。今シーズンはラテンアメリカンリズムです。ルンバ、サンバ、チャチャなどラテンアメリカンリズムであればなんでもOKで、指定されたリズムに合った曲の選曲はカップルの自由です。指定されたリズムを表現するのがアイスダンスの大きなポイントになります。
小塚:それではショートダンスの内容、要素について教えて頂きたいです。
東野:はい。ショートダンスの中に入ってくるリフトは1つで、ショートリフトと言います。ショートリフトは時間制限が決めれていて、ショートリフトは7秒です。昨年、スケーターたちの要望で6秒から7秒に増えました。それとは別にフリーに入れても良いロングリフトというのがあり、それは12秒です。
小塚:ショートダンスのときはショートリフトなんですね。
東野:そうです。時間の計測の仕方は女性、リフトされるパートナーのブレードが氷から離れてから氷に着くまで。
東野:リフトのタイプでショートとロングがありますけど、実はショートリフトの中にさらにストレート、カーブ、ローテーショナル、ステーショナルの4種類に枝分かれしてます。 これは、リフトするパートナー、男性の氷上の滑る形状の違いになります。
小塚:真っ直ぐ滑るのか、カーブをするのか。
東野:そうです。回転してしているのか。ステーショナルというのはその場でトラベリングをしないで回ったりすることです。
小塚:なるほど。
東野:ステーショナルリフトはその場で動かなくてもいいんですが、大体回っていますね。さらにレベルとGOEがつきますので、それぞれ難易度があります。よくみる形としてはストレートラインリフトで、男性がシングルのようにクラウチの姿勢でシットポジションでグッと下がっていきます。その状態でパートナーをリフトします。これの難しいところは、太ももが氷と並行にならないといけないところです。パラレルというのがキーワードで、これが両足でも片足でも大丈夫ですが、その状態を3秒間保たないといけません。また、女性ポジションも重要で中心から体重が離れた状態でするとより難しくなりますので、そういったことでレベル分けしています。
小塚:ちょっと違うかもしれないんですけど、よく体育大会とかでサボテンってああいうような形ではありますよね笑。一般の方にもわかりやすく言うと。サボテンみたいな形でもっと重心をズラしていくと難しいから点数も上がるんですね。
東野:そうですね。次のカーブリフトは仰る通り、カーブを描きながらします。よく最近みられるのは男性がスプレッドイーグルしながらの状態で女性がポジションを変えていきますね。イメージとしてはリフト中に女性の姿勢が違う写真が2枚撮れるような感じです。
小塚:男性は動かないけど、女性が姿勢を変えていくとこで、難易度が出てくるということなんですね。
東野:はい。ただし、女性が1人で姿勢は変えられません。必ず男性がホールドしているのでその場所も変えていかなくてはいけません。スプレッドイーグルもインサイド、ストレート、アウトサイドの3種類ありますけど、同じように必ず3秒間そのポジションを保たないといけません。
東野:次のローショナルリフトは読んで字のごとく、回転をしていきます。回転数によってレベルが上がっていきます。レベル4と言われているものはいくつか種類はありますけど、男性が6回転していく間に、女性が姿勢を変えていったります。リフトの総時間が7秒ですので、6回転するためには1秒間に1回転しないといけません。7秒間を超えると減点の対象になって、せっかく綺麗な演技をしても総得点数から-1となります。これは技術と美しさのバランスをとっていくリフトになります。
小塚:なるほど。そのギリギリのところを攻めていくところにスポーツ性が生まれるんですね。
東野:最後のステーショナルリフトは、よく見るのは男性がその場でクラウチの姿勢で回転します。その時に女性が横たわったりします。ただ、横になるだけでなく、パートナーとコンタクトポイントがどれだけ離れているかで、難易度が決まります。
ステップ
東野:ステップとして必須要素にあるのは、1つはパターンダンスエレメンツなります。これは毎年課題が指定されていて、今シーズンの課題はルンバです。全員決められたステップとホールドで滑ります。
小塚:どの組をみても同じことをやっているので、パターンさえ覚えれば、パターンダンスエレメンツは見極められますね。これ以外には?
東野:ノンタッチステップシークェンスになります。これは2人が離れた状態で同じステップをします。パターンダンスエレメンツはホールドありで、こちらはなしになります。 今年の特徴として、ある決まった時間数だけ触っても良いです。ステップする2人の距離は、両手2本分くらいですかね。それ以上に離れていけないわけではないんですが、あまり評価は高くないです。距離が近ければ近いほど同調性、協調性があり評価は高いです。
小塚:なるほど。そこがアイスダンスとペアの違いでもありますね。(前編ここまで)
小塚 崇彦
1989年、愛知県生まれ。元五輪代表の父のもと、5歳からスケートを始める。2005-06シーズン、全日本ジュニア選手権・世界ジュニア選手権で優勝。2010年はバンクーバー五輪に出場、8位入賞。世界選手権は計7回出場し、2011年の大会では2位に。全日本選手権には連続12回出場し、2010年大会の優勝をはじめ、7回表彰台に上がる。2016年にトヨタ自動車へ入社。現在は解説や教室講師等、活動の幅を拡げている。
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