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11月14日の夜は、横浜のラグビーダイナー「セブンオウス」でのトークライブだった。ゲストは日本ラグビー協会A級レフリーの久保修平さん。ラグビーワールドカップ日本大会では、12名のレフリー、7名のアシスタントレフリー(AR)、4名のTMO(映像判定担当)からなる23名のマッチオフィシャルが試合を進行した。「チーム21」と名付けられたのは、参加20チームに次ぐ21番目のチームという意味だ。
久保さんはARとして日本人でただ一人「チーム21」の一員となった。2014年からプロのレフリーになり、世界各地の試合でレフリー修行をし、世界のトップレフリーが集まるキャンプに何度も参加し、厳しい評価基準を乗り越えてたどりついた場所だ。今は終わってしまったことが、とても寂しいという。「でも、素晴らしい経験でした」。
トークライブは久保さんのキックオフの笛で始まった。この笛は?「笛はレフリーにとって楽器みたいなもので自前の物です。ほとんどのレフリーは金属のものを使うのですが、僕はプラスティックが好きです。口のところが広がっていて、僕にはしっくりくるんですよね」。
ここぞとばかり、ノックオンとペナルティーの吹き方の違いや、シンビンのときの笛の吹き方など実演してもらい、お客さんも大喜び。久保さんによれば、「チーム21」は開幕戦(9月20日)の10日前に東京のホテルに集合した。久保さんはフロントで「本日から41泊でございますね」と言われて改めてワールドカップが始まることを実感。そこから開幕までは、今大会のレフリングの留意点などを話し合うミーティングに加えて、「チームビルディング」も行われた。その中には日光での滝行や、太鼓、スポーツチャンバラなどの体験もあった。滝行を最後まで嫌がったのが、ナイジェル・オーウェンスで、太鼓のリズム感が一番悪かったのもナイジェルだったというのは面白い。スポーツチャンバラでは「けっこうズルをする人がいるんですよ。レフリーなのに(笑)」。
今大会で特に気をつけてレフリングがなされたのが、「ファウルプレー」だった。「普通は最初にブレイクダウン(ボール争奪局面)が来るんですよ。タックル後が一番難しいところなので。でも今回はファウルプレー。特に危険なタックルを撲滅しよう、というところでした」。ワールドカップは世界中の人々が見ている。激しいスポーツであるラグビーだが、グローバル化を目指す近年は、親が子供にやらせたくなるようなスポーツとして安全面に気を配るようになっている。レフリーはその重要な役割を果たしているのだ。
久保さんはARとしてプール戦4試合を担当。ニュージーランド対ナミビア戦では、ベストトライにも選ばれたTJ・ペレナラのアクロバティックなトライを間近で判定した。「当初、レフリーは、トライではないように見えた、と言っていたのですが、僕ははっきりグラウンディングが見えたので、TMOにフィールドではトライに見えたけど、トライではない理由はあるか?と聞いた方が良いと話しました」。そんな素晴らしいトライを間近で見られることは、「レフリー、ARの一つの喜びですね」と言う。
この試合の国歌斉唱のとき感動する出来事があった。「キックオフのボールを持って出てくるデリバリーキッズの少年のことだ。「国歌斉唱では僕らの前に立つのですが、NZの国歌が始まると歌い始めた。NZ国歌は僕も聞きなれているし、上手だなって思っていたら、ナミビアの国歌が始まるとそっちも上手に歌ったんです。レフリーもみんな感動してしまって、国歌が終わってから彼もフィールド中央に連れて行って、NZのハカを一緒に見ました」
「レフリーは、モデレーター、ファシリテーターでもある」という久保さん。今回は世界のトップレフリーのゲームの進行にも勉強になることが多かったようだ。「ミスもあるのですが、ゲームが大きく崩れないんですよね」。決勝戦はフランス人のジェローム・ガルゼスが吹いた。「一番安定していたと思います。毅然と笛を吹くだけではなく、時には選手に寄っていって話しかけるなど、そのバランスが抜群でした」。チーム21が心掛けたのは、「正確で共感される判定」だったという。共感というのが、選手も観ている人たちも共感する笛ということだろう。
「この経験を伝えていきたい」という久保さん。自身もさらなる高みを目指す一方で、若いレフリーも育てていきたいという。お客さんの中には高校生もいたのだが、レフリーやる?と問いかけると「はい!」と即答。嬉しい返答に笑顔が広がった。レフリーの役割を伝えることは、ラグビーそのものの魅力を伝えることでもある。楽しいトークライブだった。
久保さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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