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2017年の春、京都迎賓会でラグビーワールドカップ(RWC)日本大会の組み合わせが決まったとき、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)にインタビューする機会がありました。死のプールになりましたね? 「そんなものは、存在しません。優勝までの道筋が見えました」。そう言って笑った顔が思い出されました。世界一を目指し、その過程で王者オールブラックスを倒さなくてはならないことが分かっていた。そのために周到な準備をした。完璧なパフォーマンスに脱帽です。
「我々には2年半準備する時間がありました。彼らは1週間でした。我々は無意識にこの試合に向けて準備しました。習慣を選手に根付かせれば維持するのは簡単になり、今夜は選手のその素晴らしい習慣を目にしました」(エディー・ジョーンズHC)。この試合を実現するために、動きが習慣化するまで繰り返したハードトレーニングは凄まじいものだったでしょう。
僕はJsportsで解説だったのですが、イングランドに詳しい沢木敬介さんは、「最初はボールをキープし、セブ・リースの背後へキックを使うと思います」と話していました。その言葉通り、先制トライは素早いボールのリサイクルで、一度もボールを後ろに下げず、ほぼフラットなパスで前に出続けました。最後は、パワフルなCTBマヌ・トゥイランギでフィニッシュ。その後は防御背後へのキックを使いながら地域を進め、ラインアウトからの仕掛けも、常に変化をつけてディフェンスを翻弄。スクラム、ラインアウト、前に出るディフェンスと、すべてに優位に立った快勝でした。
前半は規律正しく我慢したオールブラックスですが、後半は疲れからか規律が乱れました。奪い返したボールを簡単に失ったのも、王者らしくなく、簡単にタッチキックを蹴って、イングランドボールのラインアウトを多くした(20回)のも疑問が残りました。それもすべて、イングランドのプレッシャーを受けてのものです。
試合後、最後の20分について問われたエディー・ジョーンズHCは、こう話しています。「(メンバー選定時に)まず試合を終える15人を決めました。ニュージーランドと戦う時に最も重要な部分だからで、彼らは素晴らしい仕事をしました。試合を仕上げてくれ、エネルギーと規律を持ってプレーし、その結果ニュージーランドは巻き返しを図るのに苦しんだと思います」。
エディー・ジョーンズHCは、RWC2003の準決勝ではオーストラリア代表HCとしてオールブラックスを倒しており、RWCでオールブラックスに2度勝った初めてのHCになりました。オールブラックス・キラーですね。

勝利を義務付けられたオールブラックスは、どんな相手にも勝てるチームを作らなくてはいけません。一つのチームにターゲットを絞ることはできない。それが王者の難しさでしょう。RWC2011、2015を7戦全勝で優勝。今大会もベスト4。栄光は色あせません。3大会ぶりに負けて、メディアの厳しい質問を受ける。ラグビー王国の代表選手のプレッシャーは想像を絶するものがあります。
スティーブ・ハンセンHCは勝者を称えました。「おめでとう、イングランド。今日の彼らは勝つべくして勝ちました。悔いはありません。素晴らしいプレーをしたオールブラックスを誇りに思います。今日はもっと強いチームにやられたということです。スポーツは時としてアンフェアなこともあるが、今日は完全にフェアな試合でした。イングランドには頑張ってほしい。われわれも気持ちを切り替えて明日の敗者との試合(三位決定戦)に臨みます。この大会を前向きな気持ちで去ることができるチャンスですから」
SHアーロン・スミスのコメントは、いかに苦しい試合だったかを端的に表現しています。
「(イングランドのブレイクダウンは)すごかった。最初の30分は彼らをのけぞらせ、小さなギャップを見つけられたが、大事な場面でのクリーンアウトが欠けていた。我々のセットプレーや攻撃時も圧力を掛けられ、何度もボールを蹴ってきて背走させられた。少し優勢になったと思ったら、その度につまらないミスでペナルティーを取られた。しっかりと(技術を)遂行できなかったのは残念。バウンドしたボールもあちらに転がった。でもそれがラグビー。先週は全部われわれの方に転がって、今週は何も転がってこなかった」
勝ち続けることは難しい。大切なのはその後の振る舞いです。オールブラックスはイングランドへの敬意を忘れなかったし、イングランドもそうでした。そして、オールブラックスはこの敗因を徹底的に解き明かし、常勝軍団を維持する方法を見つけていくでしょう。三位決定戦も必ず良いプレーをしてくれると思います。
さあ、イングランドは優勝まであと一勝です。きょうの南アフリカとウェールズの準決勝も楽しみです。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、決勝戦に向けて言いました。
「我々は(まだ)世界一のチームではありません。ただそうなる可能性がある試合でプレーする機会があるということ。関心があるのはそれだけです」
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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