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2月4日の夜は、高田馬場のノーサイドクラブでのトークライブだった。ゲストは、今季限りで現役を引退した伊藤剛臣さん(46歳)。野太い声で語り始めると、超満員のお客さんが一気に引き込まれていく。東京都荒川区出身。家は柔道の道場と接骨院をしていたそうだ。小さなころは柔道と野球をし、中学では野球部も柔道部もなかったのでバスケットボール部に入部。高校では野球部に入るが、レベルの高さに驚き2週間で退部。父と先生に勧められてラグビー部の門をたたく。
「僕、ラグビーといえば新日鉄釜石しか見たことがなくて、松尾雄治さんがスタンドオフだったから、先輩に僕はスタンドオフがやりたいですって言ったんです。すると、『お前は、背が高いからロックをやってくれ』と言われました。先輩、ロックってどんなポジションですかって聞いたら、『男の中の男がやるポジションだ』と。男の中の男なら、やってやろうじゃねえか、と」
バスケットで鍛えたハンドリングスキル、柔道で鍛えた足腰でめきめき上達し、高校日本代表に選出されるまでになる。法政大学からは主にFW第三列でプレー。3年生で学生日本一になり、卒業後、神戸製鋼へ。10社くらいから誘いがあったそうで、サントリーか東芝に行こうとしていたそうだが、平尾誠二さんに「お前も男だったら、一度ぐらい東京を外から見てもええんちゃうか?」と言われて神戸に向かったという。そして、全国社会人大会優勝と日本選手権7連覇達成に貢献する。日本代表では1999年、2003年、2007年のラグビーワールドカップに参加。日本代表の4試合すべてに出場した2003年大会が一番印象深いそうだ。僕が、大久保直弥、箕内拓郎、伊藤剛臣の第三列は日本代表史上屈指。リーチ、ツイ、マフィにも劣らないよ、と言うと、「そうっすか?もっと言ってくださいよ~」。

2003年の初戦のスコットランド戦の勇敢な戦いから、日本代表はブレイブブロッサムズと呼ばれるようになった。この大会の最終戦のアメリカ戦後、剛臣さんが号泣したエピソードがある。
「はい、号泣しました。ラグビー選手が集まるパブで飲んでいるときです。長谷川慎、網野正大、豊山昌彦っていうフロントロー(FW第一列)とです。3人の顔見て、こいつらスクラム頑張っていたな、よくやったよなと思ったら泣けてきたんですよ。そうしたら、店の奥で誰かが呼んでいる。うるせえ、俺はいまこいつらと飲んでんだって断ったら、それが、オールブラックスのジンザン・ブルックだった。行っときゃよかった」
2012年、18年在籍した神戸製鋼から自身のラグビーの原点を求め、釜石でのトライアウトを受けた後、釜石シーウェイブスへ移籍する。「素晴らしい時間でした。皆さんの支えがあるから、ラグビーができるんだと痛感しました」。釜石に行ってから、カラオケの十八番は「兄弟船」になった。「釜石に曳舟祭りってあるんですよ。漁船が大漁旗いっぱい立てて、港をぐるぐる回るんです。それ見たら感動しちゃって、釜石っていいな、日本って素晴らしいなって思って。以来、カラオケは兄弟船です。カラオケあるなら、歌いますよ」
2003年ワールドカップの翌年、ラグビーマガジンのインタビューで「ボロボロになるまでやり続ける」と宣言していた。その通りの選手としての生きざまだった。「若い選手と競り合えなくなってきた。スピードもなくなってきたし、気持ちを高めるのも難しくなってきましたね」。こんなコメントもあった。「僕には気合と根性だけしかなかった。ラグビーは僕に、花園、高校日本代表、そして日本代表としてワールドカップ出場という、夢とロマンと目標を与えてくれました」。「そうそう、僕ね、ついに試合で一度もキックせずに引退しました(笑)」。引退後、どうするかを聞いてみると、それは未定だそうだ。「目の前の試合のことしか考えてこなかったですから。桜庭さん(釜石シーウェイブスGM)に『プロレスラーにだけはなるなよ』と言われました」(爆笑)
本人はそんなつもりはないのかもしれないが、一つ一つの言葉が味わい深くて泣けてきた。お店のマスターと奥さんの容子さんから花束を贈られ、最後のコメント。「ラグビー完全燃焼しました。楽しかった。幸せでした」。
この強烈なキャラクターはきっと各方面で引っ張りだこになる気がする。どんな形になるにせよ、ラグビーの盛り上げ役として大活躍してくれるだろう。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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