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イングランドで開催されているラグビーワールドカップにもかかわらず、ニュージーランド代表オールブラックスと南アフリカ代表スプリングボクスの準決勝に、準々決勝を上回る80、090人の大観衆。そこに集った人々が、まさに固唾をのんで見守った闘いだった。互いに尊敬しあう好敵手のリアルファイト。終盤はオールブラックス・サポーターの鼓動が聞こえるようで、こちらまで胸がしめつけられた。
前半はスプリングボクスが上手く試合を運んだ。オールブラックスのハイパント攻撃はFBヴィリー・ルルーが完璧にキャッチし、スクラムで圧力をかけ、モールを押し、オールブラックスの反則を誘ってSOハンドレ・ポラードが4PGを決めて、12-7で前半を折り返した。
ハーフタイム。珍しい光景を見た。早めに出てきたオールブラックスが3組に分かれて走りながらパス練習を始めたのだ。ここにきて基本の確認。それは後半の頭から攻めるという意気込みにも見えたし、雨の中で一気にテンポアップしようという意図の確認のようにも見えた。ジェローム・カイノをシンビン(10分間の一時退場)で欠き、後半の立ち上がりを14人で戦っていたオールブラックスだが、一人少ないなかで波状攻撃を仕掛けた。後半5分にSOダン・カーターがドロップゴールを決めて12-10に迫り、11分、交代出場のボーデン・バリットのトライで逆転に成功する。その後は、CTBマーア・ノヌに代えてソニー=ビル・ウィリアムズを投入するなど攻撃的布陣でスプリングボクスの防御に圧力をかけ、スタミナを奪っていった。
その後は互いのSOがPGを決めあい、20-18とオールブラックスが2点リードで残り10分へ。このあたりは一つのミス、反則も許されない緊迫感ある攻防だった。ラグビーにおける2点差は、PG1本(3点)で逆転できるため、最高にスリリングだ。オールブラックスは、スプリングボクスがチャンスを迎えたラインアウトからのモールを押し返し、32分には、スプリングボクス・ボールのラインアウトをLOサム・ホワイトロックがスチール。最後はスプリングボクス陣内で戦い続けて、2点リードを守りきった。
粘り強く戦った南アフリカだが、ワイドな展開で仕掛けたのはキックオフ直後の数分だけで、あとは、トライを奪うというよりも、粘ってPGでコツコツ得点する戦い方に終始した。WTBのJPピーターセンがボールを持って進んだ距離は「ゼロ」。決定力ある両WTBを生かすことなく惜敗した。
「一つのラインアウト、一つのペナルティー、一つのコンバージョン、違いはそれだけだった」と、キャプテンを務めたSHフーリー・デュプレア。頬骨を打撲で腫らす痛々しい姿だった。ハイネケ・メイヤー監督は「オールブラックスを讃えたい。彼らは素晴らしいチーム」と称賛したが、「(我々は)いくつかのミスを犯した。それが勝敗を分けた。チャンスを生かすことができなかった」と肩を落とした。
僅差勝負ではあったが、オールブラックスの懐の深さが出た試合だった気がする。自陣で反則を連発するなど苦しい戦いのなかでの堅守はさすがだった。タックルミスはたったの「3」。スクラムも何度かは押し返し、ボールをワイドに動かしたかと思えば、防御背後にキックし、ハイパントも使う。さまざまな攻撃選択でスプリングボクスを疲れさせた。スティーブ・ハンセン監督は「冷静さを保っていた私の選手たちを誇りに思う」とコメント。マン・オブ・ザ・マッチ(最優秀選手)はFBベン・スミス。再三、攻撃的なハイパントをキャッしたほか、ミスのない動きでオールブラックスの攻撃を落ち着かせた。頬の傷が激闘を物語る。
試合後は、詰めかけたサポーターに応えて、ときに手を振り、拍手をしながらピッチを一周したオールブラックス。RWC史上初の連覇に王手をかけた。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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