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6月19日の夜は、雨の降りしきる名古屋の瑞穂ラグビー場にいた。パシフィックネーションズカップ(PNC)のフィジー対アメリカ、日本対カナダが行われ、第1試合ではフィジー代表が快勝。日本の試合は午後7時10分にキックオフされた。この試合は、92カ国に配信されるとあって国際映像での解説だった。野澤武史さんと、ハラハラ、ドキドキの試合を楽しく解説することができた。楽しかったというのは勝ったからこそ言えることなのだけど。
日本代表は、試合当日になってクレイグ・ウィングがコンディション不良で急きょCTBで田村優が先発することに。キックオフでは、いきなりキャッチミス。前半3分、カナダ代表FBプリチャードにPGを決められ、10分には、比較的簡単な位置からのPGを五郎丸が外して、悪い流れを断ち切ることができない。攻撃を仕掛けるのは日本のほうが多いのだが、カナダのボールにヒットしてくるタックルに再三ハンドリングエラーが起き、チャンスを生かし切れなかった。
SH田中によれば、「ウェールズ戦より、選手間のコミュニケーションが少なく、大人しかった」と、低調だった前半は、0-3とリードされたまま終わった。だが、悪いながらもディフェンスで粘ったことが後半に生きる。
後半に入ると、CTB田村がラインブレイクでチャンスを作るなど序盤から日本代表がよくボールを動かし始める。5分、五郎丸のPGで同点とすると、11分にも五郎丸がPGを決めて逆転。カナダの防御も甘くなり始め、このまま日本の流れになるかと思われたキックオフで、日本はまたしてもキャッチミス。そこから一気にカナダにトライを奪われる。手痛い7失点で、6-10と再びリードを許した。
しかし、日本はこのあともアグレッシブに攻め、22分には、相手ボールのラインアウトを奪ってチャンスをつかみ、JSPORTS放送時のカウントでは、18フェイズの連続攻撃でトライを奪った。立川の突破、続いて、マレ・サウの大幅ゲインから最後は五郎丸がサポートするという胸のすくトライだった。雨の中でボールがつながった要因について、廣瀬キャプテンは「無理なパスをせず、強いランニングで前に出ようとした結果です」と冷静に振り返った。この後、カナダにいったん13-13の同点に追いつかれたが、五郎丸のPGで再び突き放し、最後まで粘り強く守り切った。
最後にカナダにチャンスが巡ったとき、そのラックで途中出場の大野均が思いきり押し込んでカウンターラックを成功させたシーンは感動的ですらあった。大野と言えば2007年のワールドカップのカナダ戦で先発したが、このときは終了間際に追いついての引き分け。2011年大会は決着戦と意気込んだが、レギュラーではなく、途中出場で奮闘しながら、最後に同点に追いつかれて勝ちきれなかった。きょうのメンバーで両試合に出ているのは、大野だけだった。「勝ちきれてうれしいです。きょうはとにかく結果を残したかった」と、これまでともに戦った仲間の思いも込めて、会心の笑顔を見せてくれた。
急きょ出場となった田村も堂々たるプレーぶりだったし、ウェールズ戦から代わったPR長江、畠山、LO真壁、アイブスもそれぞれの役割を十分に果たした。とくに、スクラム、ラインアウトの安定は、勝利の大きな要因となった。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、「きょうの勝利は、本当に嬉しかった。前半はブレイクダウンで負けていたが、後半はよくボールを動かしてくれた。メンタル面で選手達はよくやってくれたし、廣瀬もチームをまとめてくれた。世界ランキングが上のチームに連勝したが、今度の日曜日のアメリカ戦はさらに大切な試合になる」と、選手を称えながらも気持ちを引き締めた。
SH田中史朗は、「みんなの自信になったと思います。ミスもあったし、コミュニケーションの部分はもっと上げていきたい。でも、勝って反省できるのはいい。みんな、もっとラグビーを学ばなくてはいけないです」と、あくなき向上心を見せた。強気のプレーを見せた田村優は、「ウェールズに勝ったのに、きょう負けたらまたラグビーの人気が下がってしまう。勝ちたかった」とすべての選手の思いを代弁した。
キックオフのキャッチミスや、ボールキャリア―のハンドリングミスなど、改善すべき点は多いが、苦しい展開のなかで選手自身がプレーを修正して勝ったことは自信になるだろう。LO真壁、WTB福岡と負傷者が出てしまったのは残念だが、次戦は、6月23日、対アメリカ代表戦。着実に前進する日本代表の姿を多くのファンの前で披露してほしい。
◎PNC(6月19日)結果
フィジー代表○35-10●アメリカ代表(前半17-10)
日本代表○16-13●カナダ代表(前半0-3)
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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