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ラグビー コラム 2012年6月30日

相馬看花

ラグビー愛好日記 by 村上 晃一
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ときどきこのブログが日記だったことを忘れてしまう。きょうは原点にかえってみる。

金曜日の朝、京都駅から「のぞみ」に乗った。僕の席に人が座っている。「あの〜、この席は僕の」と切符を見せる。「列車が違っていますよ」。え〜っ、なんと一本乗り遅れていた。12号車に乗るお客さんの列の先頭に立っていたのに? 目の前で「のぞみ」が停車して発車したのに? どんだけ集中してメールしてたんだ俺は。頭を下げて、「ひかり」を飛び下り、次の「のぞみ」の自由席で品川駅に向かった。座れて良かった〜。そこから事務所に寄ってJSPORTSのスタジオに向かった。ゆりかもめからガンダムを眺めて到着。テストマッチシリーズで休止していた、スーパー15の再開第一試合「ハイランダーズ対チーフス」の解説だった。首位を走るチーフスの強さがよく分かる。凄まじいディフェンス。そのなかで、ソニー・ビル・ウィリアムズだけが一人違う空間でプレーしているみたいだった。いいもの見た気分で夜は早く眠った。

土曜日の朝、渋谷の小さな映画館(オーディトリウム渋谷)で「相馬看花」(そうまかんか)〜奪われた土地の記憶〜という映画を見た。新宿のとある居酒屋で旧知のマスターにチラシをもらったからだ。福島県南相馬市原町江井地区の震災の日以降を追ったドキュメンタリーである。知人であり、「楕円桜」を歌う渡瀬あつ子さんが南相馬の出身だったから、このあたりには関心があった。7月26日の「愛好日記トークライブ」では渡瀬さんがゲストの一人。南相馬の話も聞かせてもらおうと思っていた。これは縁だと思って、見に行ってみることにした。

生々しい映像に引き込まれた。震災後すぐに現地に入った松林要樹監督が被災地の人々の様子を淡々と収めている。明確なメッセージはないが、おじいさんや、おばあさんの笑顔を見ているだけで泣けてきた。昔の写真を見せられると、家族でもないのに懐かしい気がした。すべては現実。哀しくて、可笑しくて、優しい映画だった。

終演直後、リュックを背負った青年がスクリーンの前に走り出た。「監督の松林です」。観客には知らされていなかったサプライズだった。「少し話をさせてください。きのうのデモに行った人はいますか?」。数名から手が上がった。「香港で上映した時は若者で立ち見が出ました。日本では新聞を読む年齢層の人が多い。どうしてかなって考えていて…」。「僕、そこにいますから声かけてください。意見を聞かせてください。そのために来たので」。数名の若者が話しかけて言葉をかわしていた。

映画は、7月6日まで上映されている。たくさんの人に見てほしいと思った。この映画は第一部で、第二部は、相馬の馬と人の関係を追っている。パンフレットによると、「相馬看花」は、中国の故事「走馬看花」からとられた。本来は「走る馬から花を見る」という、物事の本質ではなくうわべだけを見るという意味だが、松林監督が私淑するジャーナリストの故・橋田信介さんが、あえて「走っている馬の上からでも、花という大事なものは見落とさない」と解釈したのを、相馬の映画のタイトルに置き換えたそうだ。

いま、パンフレットをじっくり読んでいる。さあ、今夜は立川理道選手をゲストに招いてのトークライブ。そのあとは、JSPORTSでスーパー15の解説だ。

村上晃一

村上 晃一

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。

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