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フィジー戦が終わった。会場を埋めた大観衆からのスタンディングオベーション、そしてジャポンコールに日本代表の健闘が集約されていた。立ち上がりからの懸命に前に出るディフェンス、何度かリードを奪われながらあきらめずに追いかけたスピリット、4点差を追う終了間際の5分にも及ぶ攻撃。トゥールーズの目の肥えたファンの拍手に嘘はない。ジャパンは、堂々と戦った。でも勝てなかった。試合後、日本のサポーターのみなさんにも会ったが、「残念」としか言いようがなかった。悔しい。
試合前にこれほど胸が締め付けられたのはいつ以来だろう。日本ラグビーの歴史に残る日になる。そう思っていた。フィジー戦会場のメディアセンターにキックオフ4時間前に入る。深緑郎さんが、イギリスのブックメーカーの掛け率を調べたら、なんと日本が勝ったら、1ポンドが9ポンドに。フィジーの勝利は、33ポンドかけても34ポンドしかもどって来ないという評価の差。ハンデも23点ついている。日本の評価はとことん低い。誰も勝つとは思っていない。日本がフィジーに勝てる能力があるのを世界は知らないのだ。しかも、フィジーは初戦である。だから、チャンスがあるはずだった。
日本代表は、箕内キャプテンがトスに勝ち日差しを背負う陣地を選択。キックを軸に陣地を取り、よく前に出てディフェンスした。ラインアウトは安定し、スクラムもプレッシャーをかけ、モールも押し込める。ブレイクダウンも負けていない。大西将太郎のプレースキックの調子も良かった。つまり、互角以上に戦える要素がいっぱいだった。ボールをキープして、何度か連続すれば、必ずフィジーの防御には穴ができた。でも、そこをパスミスが多くて突ききれなかった。攻撃の精度はまだまだ低い。スクラムで優位に立ちながら、コミュニケーションミスで簡単にトライを奪われたのも悔やみきれないシーンだった。
後半、足の痙攣で退場したSH吉田に代わった矢富は思いきりのいいランニングでチャンスを作ったが、数分で足首を痛めて退場。同じくこの時間帯に、FB有賀も足首を痛めて退場する緊急事態となり、残り20分を残して、日本はSH不在。WTB小野澤、CTB平を投入し、ロアマヌがFBに、ロビンスがSHに入ってこれをしのぐ。SH不在は何より苦しい事態だった。
あとは選手達の絶対にあきらめないスピリットが頼りだった。一時は、24-35と11点差にまで引き離されたが、トンプソンのトライで追撃し、31-35の逆転圏内に入ってからはひたすら攻めた。だが、ついにトライは取り切れなかった。このとき、スタジアムの興奮は最高潮となり、日本代表の選手達はサインも何も聞こえない中でひたすらボールを動かしていた。このチームは気持ちの折れない選手達が揃っている。その熱さは、確実に大観衆の心をとらえていた。
「後半の重要な局面でSHが2人怪我をしてしまい、流れが変わりました。日本は体が小さいからダメだとかいろいろ言われてきましたが、そんなことはありません。きょうは日本のスピリットを示すことができました。本当は勝つことによって示したかったのですが」(カーワンHC)。

ドーピング検査で記者会見に来られない箕内キャプテンに代わって会見に出席した大西将太郎選手はこう語った。「しっかりとディフェンスができ、ミスを誘えたが、そこからのターンオーバーでトライまで行けなかったことは残念です。しかし、1ポイントゲットできたことをポジティブに考え、次の試合に臨みたいです」
この日の日本代表のキーワードは「我慢」だった。最後はみんなで声をかけあい、我慢して攻撃した。大西選手も「最後は頭が真っ白になりました」と、グラウンドに大の字になった。多くの選手が力を出し切った試合だった。死闘だっただけに、負傷者も多くなったが、ここからは2チーム制ではなく総力戦だ。試合後は、どの選手も前を向いていた。しばし休養をとり、ウエールズ、カナダに対して、あきらめずに戦い抜いてもらいたい。
追記◎試合後、JSPORTSにスタッフとタクシーでホテルまで帰った。助手席には人を乗せないタクシーだったのだが、一人だけ乗れなくなってしまうので、通訳のタクちゃんが一生懸命頼んだら、「ジャパンがいい試合をしたから特別だよ」と乗せてくれた。その後、ホテル周辺でも、「いい試合を見せてくれてありがとう」と声をかけられた。最後の猛攻のシーン、僕も胸が熱くなった。勝ったら、泣いてたな。
◆日本代表第2戦結果
日本代表●31-35○フィジー代表(前半9-10)
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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