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土曜日の朝、仙台は快晴だった。仙台駅からスタジアム最寄りの駅に向かう地下鉄のなかで、23番ジャージーを着たサポーターの方に会った。いつも秩父宮のバックスタンドで応援している人だ。以前にお会いしたこともあり、仙台まで来てくれていて嬉しかった。快晴のユアテックスタジアム仙台に、観衆は、7,905人。もともと同日に行われるはずだった東北高校大会を一日ずらして、地元高校生にこの試合を見せる配慮をした宮城県ラグビー協会に敬意を表したい。
試合のほうは、前半から緊迫感ある攻防が続いた。日本代表は、勢いづくと手のつけられないサモアの選手達を背走させるキックを軸に、カーワンHCが「賢く戦いたい」と言っていた狙い通り、サモア陣内で戦う時間を多くすることに成功した。ディフェンス面でも、過去3試合で何度か簡単に破られたラインディフェンスを修正し、中央突破を許さず、辛抱してタックルを続けた。そして、機を見てワイドにボールを展開してチャンスも作った。ただし、概ねプラン通りに運びながら、トライまでは持って行けなかった。もう一つ早いタイミングでボールが出れば、もう少しパスが前に投げられていたら、などなど惜しいシーンが何度もありながら、前半は、SO安藤のPGのみに終わる。
後半に入っても、サモアの激しいコンタクトを受けつつ、高い集中力は持続した。だが、後半29分、PKからの速攻で、サモアWTBロメ・ファアタウにトライを決められる。ほんの一瞬の隙をつかれたのだが、タックルされながらのCTBマプスアのパス、ファアタウが走り込む絶妙のタイミングともに見事なトライだった。この失点より、前半の好機を生かせなかったこと、PG狙いより、タッチキックでゴール前のラインアウトを得た方が良かったのではないか、という場面が数度あったことが悔やまれる。ただし、主力を数名休ませていたサモアとはいえ、世界ランキング10位前後の相手に真っ向勝負し、勝利を目指せる逞しさが日本代表に出てきたのは確か。ベースに確たるものができてきたからこそ課題は明確になる。次は、防御の崩し方、勝機をつかむ攻撃選択のところをさらに突き詰めたい。
「チームを誇りに思います。ディフェンスの押し上げ、ラインアウトも良かった。内容的に、引き分けか日本が勝ってもおかしくなかったと思います」と、カーワンHCは選手を賞賛した。勝てなかったことで表情は厳しかったが、「小さなミスが勝敗を分けるのがテストマッチ。まだまだ日本が伸びる余地はたくさん残されています」と前を向いた。前半38分に膝を痛めて退場した箕内キャプテンの症状の詳細は明かではないが、きょうに関しては、キャプテンが退場した後も、選手が声を出し合って冷静に試合を進めた。
サモアのマイケル・ジョーンズHCは、「我々にこれほどまでにプレッシャーをかけるチームは少ない。ジャパン・デーと呼んだほうがいいくらい、ジャパンが成長を見せた試合だったのではないでしょうか」と、日本を賞賛。実際に試合後は日本代表選手に歩み寄り、円陣でねぎらいと賞賛の言葉を述べていた。
試合後、ラグビー取材が少ない記者の人と話したのだが、「関係者の方が、ほんとうに落ち込んだ顔をされていて、そんなにガッカリすることなのかと思いました」という趣旨の言葉があった。世界ランキングからすれば格上の相手に僅差で負けたのだから、そう落ち込む問題ではないのかもしれないが、それが大事なのだと思う。いったん悔しがらないと次に向かうエネルギーはわいてこないし、サモアに本気で勝ちに行っているから、チーム関係者の顔は悔しさでいっぱいだったのだから。5月20日にフィジー入りしてから、選手、スタッフは一日も家に帰らず、トレーニングと試合に明け暮れている。疲労もあるはずだが、きょうの悔しさをバネにジュニア・オールブラックスに果敢に挑んでほしいと思う。日本代表は明日、次週に向けてのトレーニングのため、福島のJヴィレッジに向かう。
追記◎この試合のマッチレポートを、次号のラグビーマガジンに書きます。そこでもう少し詳しく僕なりの考え方を書きたいと思います。
◆試合結果(6月16日)
パシフィックネーションズカップ
日本代表●3-13○サモア代表(前半3-0)
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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