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新宿のK's cinemaで、『キャッチボール屋』という映画を観てきた。大崎章さんの第1回監督作品。ある日突然会社からリストラされた青年タカシ(大森南朋)が、公園で謎の紳士から10分100円でキャッチボールをする「キャッチボール屋」を任される話だ。いろんな過去を背負った人たちがやってきては、タカシとのキャッチボールが繰り広げられる。僕はどちらかというと静かで淡々とした映画が好きだから特に良かったのかもしれないけど、何度も涙が出た。この映画の見方はきっとさまざまだと思う。人それぞれの大切な思い出がよみがえってくるはずだから。人生の中で立ち止まってしまっている人、自分が大切にしてきたことを忘れてしまった人、思い出そうとしている人、そんな人たちが観るといいと思うなぁ。
監督の大崎さんとは、僕がラグマガ編集部に入った1年目に阿佐ヶ谷の酒場で出会った。彼は映像プロダクションに所属していた事があって、1982年にTBSで放送された「激突!! 早明ラグビーのすべて」のADを務めるなどラグビーとの縁も深い。キャッチボール屋の中にもラグビー好きを物語るところが、一カ所あった。誰も気づかないかもしれないけど。大崎さんは、北野武さんや竹中直人さんの助監督として活躍してきた。初監督作品、温かくてとっても良かった。個人的には、挿入歌になっている山口百恵の『夢先案内人』が大好きなので、かなり嬉しかった。パンフレットの中で、大崎さんが言っている。「キャッチボールは『思いやり』です。基本は相手の胸をめがけて投げ、受けるときも自分の胸の前で〜」
以前、ラグビー日本代表の名SOである松尾雄治さんにこんなことを聞いた。「うちのオヤジが、ラグビーは一人じゃできないと言っていた。だからいいんですよ」。ラグビーのボールは壁に投げても真っ直ぐ跳ね返ってこない。ラグビーのパスもキャッチボールと同じことがいえるのかもしれない。僕はこの映画を観て、休みの日、小学校の校庭で父とラグビーボールをパスしあったことを思い出した。2人でランパスをしたことも。パスは相手がとりやすいところ、パスが投げやすいところに愛情を持って放る。父やラグビースクールの先生に何度も言われたことだ。
社会人になって、クラブチームでプレーしている時、ほとんどのパスを落とすウイングがいた。大学でやっている時には、これほどノックオンする選手はいなかった。僕は内心腹を立てていた。でも、たまにボールをキャッチするとその人は高い確率でトライをする。いつしか僕はその人がとりやすいところに丁寧に投げるようになっていた。信頼感が芽生えた。何かを学んだ気がした。大切なのは、そういうことなんだろうなぁ。
『キャッチボール屋』は、新宿駅東口至近のK's cinemaで公開中です。きょう(25日)は、ラグビーマガジンとラグビークリニックが発売になった。内容のことは、また明日にでも書きますね。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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